タイトル未定
――――――月が少し出てきた、静寂な夜の事。生まれたままの変態は、自身の股を隠すように白い布をかぶせ、愛愛しい女性と、お互いに正座するように向かいあう。
「あの、どうして私は裸なんでしょうか?」
「それは、エルドラがあなたを」正座をしている首は視点を逸らすように、横へと向く「ひん剥いてしまったからです、でも」言葉を続けようと、彼女の瞳は大きく、鮮やかさを思い出すように「でも、すごいんですよ!エルドラは、こうやって……えいって」一瞬の出来事のように、体の前で両手を一度引く姿を見せる。
開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのか。私の口が言葉を出すまで、あっけらかんとした口は、ふさがらなかった。
「あぁ……あの、そうだ。何故エルドラさんは、私を裸にしてたんですか?」
先ほどの凄さを伝えた瞳は、また少し顔がそれるように、おずおずと、下がる。距離を置くように、気持ちが許すまで一度下がると、エルドラの胸の張る態度を、まねするように威勢が良くなる「オホン。にしても、だいぶ汚れているな。旅をしても汚れなければ良いものを……仕方ない、せっかくの村に来たんだ。綺麗にしてくるぞ」2人のその場のやり取りは、見なくても少し思い浮かぶ。
たぶんとっさの事だったんだろう、話す間もなく脱がされた私は、そのまま「あなたは裸のまま、そこに投げられてました」と、伝えられ彼女の指の刺すほうへと視線が動く。私の後ろに向かった指は、簾の目の前。風に少し揺れ動くすだれは、隔てて外を見せる。
「エルドラさん……せめてもう少しいい場所でお願いしますよ。ここから色々見えるじゃないですか」
同調するように「そうですよね」納得するようにうなずく彼女は、どうしてか同じ気持ちでいるようで「良くないわ。エルドラ」すべてをエルドラさんへと投げた。あながち間違ってないけど、それでいいんですか?
私は、この会話をあきらめ、簾へ目をやる。目の前の簾の隙間からは、明るく火をともす光景をうつし、あちらこちらで見受けられる。外はもう暗く、夜を告げており、灯篭で見える範囲でも、深い闇は家々の影をぼやかす。たまに聞こえる子供と大人の声は、家族のような温かい声だった。里と違って賑やかだ。
「ここの夜は、結構賑やかですね」
距離を戻すように、彼女の足音が近づいてくる。ゆっくりとした落ち着いた足音は、先ほどの話を払拭するように穏やかな口調で、語る。
「んn!エルフの里は、基本が静かだと聞きます。里とは違って、ここは少し大きいかもしれません」
横切り、簾を持ち上げる女性は、目の前の薄暗い視界を綺麗に見せ、風を強く感じさせる。髪をなびかせる。柵の無い大きな入り口は、色々なものを見せはじめる。家屋や、畑、小さくまとまった小屋、巡回する松明を持った人、村を囲う少し小さな壁。
「一本花の村。外からの人は、本花とも、略されて呼ばれています。人が穏やかに過ごすために、多くの方々が頑張って築いた村。昔は何もなく、今のエルフの里のような人数で住んでいたと言われています。今は安定して、四つの山に一部守られるような形で森の中にできてます。エルフの里は、山よりも近くあり、たまにエルフの方も来られます。……へへ、どうです?私。素敵なお姉さんぽかったですか?」
静かな言葉を、騒ぎ立てるように変え「スゴカッタ。カッコイイ」だけど、その姿は可愛らしく、素敵なお姉さん。たぶん彼女が思っている感じは、凛々しい人のように感じる。
静かな時間の中で、先ほど聞こえていた人声は、虫の音が残すように静かに響き渡る。私は、自分の布が風で飛ばされないように抑える。
「一本花。本花」繰り返し覚えるように、口に出す「そういえば、お名前は?」
「あれ?そういえば言ってなかったですね。私の名前は、神谷奏あなたのお名前は?」
「今は、マナって言います。あっ」私は今、記憶がない事を伝え話を続ける「それでここまで来たんですけど。さすがに夜では……会いに行けないですね」乾いた愛想笑いが私の口から出る。
「そうですね。流石に遅いから、明日にでもエルドラに聞いて、案内させましょう」うんうんと、頷くように「それで、寝るところも用意しましょう。服も大きなのが必要ですよね」口節に必要なものを言いながら動き始める。
私も手伝おうとしたが、布がこれだけはとても心許なかった。
「座ってていいですよ~」と、声がするが。目の前で寝床とじゃれるような動きで整える神谷さんの姿は大変そうに見える。
「あの、何かあれでしたら、適当に自分でしますよ」
「大丈夫です。お客様ですからゆっくりしてください。すぐできます」
頑張って寝床ができ「少し待ってくださいね」と、一言おきどこかへトタトタと音をたて、部屋を出て外を見渡せるような廊下を歩いてゆく。しばらく、時間が空いたことで、私は何もない木造づくりの大きな部屋で思い返す。
今日は、朝は木のみを回収しに、エルドラさんと別れた。それで、獣にあった。四足歩行で大型で……「大きな獣に飛ばされて……」私は自身の口の時が止まる。私は、獣と言った時違和感に襲われる。だが、それよりも、形を……形を?思い出せない。声、吠えていたはずの音を思い出すように、頭を中でその時を思い出す。
「ぐおぉぉおおおお?」獣のマネをするように、私は必死に思い出す。絵を思い出すように、獣の形はどうだったのか、何度も腑に落ちない形を作り続け「なんで、思い出せない?」私は思い出せない事だけがわかった。
ほかのことを詳細に思い出す。男の人がとび、女性が歩く。それが気になって、自分のきれいごとを無視して走った。私は、そこで槍を振って……思い出せる。こんなに詳細が思い出せるのに、獣だけ思い出せない。
焦りを感じ、冷汗が出る。一部の記憶が抜け落ちている。
「ぐおぉおおおお?」繰り返すように、形をとるように獣が動きそうな動きをまねる。
「これでもない」私は、放棄するように、ただ焦る気持ちを残して諦める。入り口に、見覚えのある服が見える。風になびきにくいスカートは「何をしてるんだ」困惑の声を口にする。
「エルドラさん!!」目を閉じ、何とも言えない表情で、ただ私を見て呟いている「頭でも、いや、心が壊れたか?」悲しそうに見る視線は、先ほどの光景を思い出させる。先ほど、獣のような真似事を見て、酷いものを見たと伝わる。間違いなく、他人から見た私の姿は、とても危ない人間だ。
「ちょ、ちょっと待ってください。話をさせてください!!」慌てて立つ私に手が伸びる「良いだろう!」手渡される「だが、まずはこれを着ろ」見慣れた、綺麗にされた服は、私が身に着けていたエルフの服。そして渡されたローブ。
「まだ裸でいるとは思わなかったぞ」あきれた物言いを続けるように言葉を投げる「エルドラさん。脱がすなんてひどいですよ」私は、前を隠すように急いで服を着ながら確認を「そういえばあの後。エルドラさんが、獣を倒してくれたんですか?」記憶をまとめるように聞き出すことにした。
「私ではない。私が来た時には獣は倒れていたな。私は、崩れた木に寄り添う形で倒れていたキミを発見して慌てたよ」腕を組み起こったような表情で「ああいった、よくわからない無茶をすることは、やめてくれ」心配されたことを伝えられる。
とても褒めたものではないと、睨みつけてくる目は私の反省を促す。
「よくわからない無茶ではないですよ!」
「では、キミは倒れて殺してくださいと言っていた事は、無茶をしていないのか?」
私は、ぐぅのねも出なかった。
「でも、あれは女性を助けるために」被さる声は強かった「助けれたか?」その言葉を私は言い返すことはできなかった「できてませんけど、けど!」言い訳は聞きたくないと「なら、無茶をするな!キミは、自分の力がどれほどかわからないほど馬鹿ではないだろ?」母が子供に起こるように「言ったろ、逃げてもいいと」静かに私の声を待つように部屋に入り座る。
正直、言ってることはわかる。獣がどんなものか思い出せないけど、戦える力なんてない事は自分がわかってる。
「けど、わかるけど……言い訳です。聞いてください」あきれた声は「聞くだけだぞ」何時ものエルドラさんの声色に戻っていた。
「女性が獣に近づいていってたので、私は逃げるだけでもいいからって連れ出そうとしました。けど、その場に行ったとき、私は怖くて動けませんでした。馬鹿だとは思いましたけど、いやだったんです……それだけです」
私は、自分の貯めていた言いたいことを、言いたかった。ただそれだけの言葉を、静かに耳を傾けてくれていた。そのおかげで、もやもやしていた内面は落ち着いていた。
エルドラさんは手をたたく「わかった。でも、今回は運が良かった、それだけは忘れないでくれ」返事を待つように、いつもの顔が待っていた。
「はい」
沈む私を見かねてか話しを変えるように「ところで、痛みはないか?特に頭とか」少し面白がるその顔は、私をからかっている。
ちょうどよかった「あれは違いますよ!!……ところで、聞きたいことがあるんです」私は獣の詳細な記憶がない事を伝えた。
「うーん、わからない。なったことが無いからな」笑顔でただ受け答えをする感じは「そうですよね」いつも通り。聞いてわかるとは思っていなかったけど、想像もできた。
「しかたない。明日にでも何か別に聞いてみるとするか……」二人の会話を裂くように嬉しそうな声が聞こえる「エルドラ~。これ持って?」かえの服と、蓋のされた大きい器と、小さくまとまった器をもって歩いてくる、神谷さんがエルドラの手を出すように促す。
「奏。こんな服どうしたんだ?」神谷さんと同じような白い服「あなたが戻ってくるの遅いから、私、色々あったのよ!」膨れた頬を見せながら、私の代わりの小言がエルドラを襲う。
そうとう言いたいことがあったのか、小さな皿をならべ、大きな器は蓋がひらく。中には、暖かそうな肉。キノコ。少しだけの木の実と、葉野菜。分けながら二人の会話を聞いて楽しんでいた。
「エルドラ、あなたもう少し後先考えて」
「私は良く考えているさ。早くしないと、寝るまでに間に合いそうになかったからな」
「そうやって、私を困らせるんだから。もう」
準備ができ、三人で食事をした。久しぶりに、肉と木の実以外の料理。心躍りながら、キノコを食べ始める。
「キノコ好きなんですよ」
「そうなの」
「マナ。肉もあるぞ」
「エルドラ。あなたは肉ばかりはだめよ!」エルドラの取り分けられている。ここぞとばかりに、さらにほかの食べ物が多く入ってゆく「こら。こんなにいらないぞ」嫌がって皿を遠くへ逃がすエルドラさんは、この場において子供の様だった。
「マナ君は、エルドラといる時食事は肉ばかり?」まるで信用無いように聞く言葉に「違うぞ奏。木の実もあったぞ」自信のある声は、あきれた声が付いてゆく「まさか、キノコとかも無かったの」
「場所によっては、獣が食べるからキノコは採らないほうが良いんだ」そうなんだ「知りませんでした」とても自身のある顔は、一つの声を聴いた時目がそらされた「え!そんなことないはずよ。森でキノコ採ったからって困るわけないわ。エルドラ~あなた、他にうそ教えてないでしょうね?」二人の視線は突き刺さる「キノコは、採らないほうが良い」
知能の下がったエルドラは、答えを言うのをやめていた。二人の会話を聞きながら、食事は進み、夜の準備を終わらせ解散してゆく。
私は二人の背中を見送り、明日に向けて、いそいそと皮で作られた布地の布団でゆっくりと目を閉じる。久しぶりの落ち着いた睡眠は、私が眠りにつくのに時間はかからなかった。