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獣 エピローグ

――――――それで、この星の、根本を軽減できるなら、やらないと……いえ、するわ。


 あの日の、色あせた景色を思い出すように、心地の良い、勢いのある青春を思い出す。それは、ワシのかすかな意識を戻す。自分の使命を忘れたことはなかった。あの時間が、ワシらの再出発地点。

 身体は、目的の地へと進む。傷つくことを、忘れたこの身体は、自ら傷つくために、薄れた視界をはっきりさせ、地を傷つけぬように、できるだけ木の胴を削り飛ばすように、身体で飛ばす。

 長く、伸ばした手で、大きく上空へと投げる。大地を震動させる歩行は、一人の約束を果たすため、探すように歩く。


 空を見上げ、日は綺麗だ。かすれながらも見える日は、あの時の、ふてくされる時間を忘れさせる。ワシは、感覚を頼るように、あの言葉を頼るように、足は止まらぬように進み続ける。

 約束の時間は、自身の音が教えるように、消えない音をたて続ける。あの小さくも、見えない背中を、あの日できた、希望を見つめるように、廃れる事を忘れたワシは、ただ呟く。


「のう?小娘よ、その背中を追いかけておるワシは、滑稽であろう?」 


 今となっては、思い出せるのは楽しい事ばかり。ここに来てからの日々に、充実感は忘れる事は出来んように、またあの日、あの時の小娘の姿も、また充実しておったわい。記憶の小娘は笑いかける。


「馬鹿にしよってからに、ワシは年をとっても歩けるわ。ハッハッハ」忘れる事の無いあの面々の顔を、思い出しながら、風を頼りに森を進む。

 あの日、何もなかったこの一帯をようやくここまで育った「今、向かって居るから待っておれよ」懐かしむように、あの日の事を、無下にしないように音を続ける。


 ここまで育った、時間は、ワシの青春であった。皆、子を増やし、役割を与え。その先を務めるように、忘れぬ思いと願いを込めて、芽生えた時間は。この地を色づかせる。現実は、よいほうへと進んでいくことに、笑いが止まらんのぅ。


 内面の痛みは、苛立ちを、ワシを意識を保つようにまだ時間をくれる。痛みが無ければ、目を開ける事を忘れるほどに、心地よい風が吹き渡る。

 時間がたつにつれて、苛立ちがひどくなってゆく。小娘はどうなっておるか。少しぼやけた視界には、あの小娘の影が、駆け回っておる。


 伝える声は、どこにも聞こえはしまいて。身体の状態が良くなろうとも、ワシの心をむさぼるこの理は、ワシの終わりへと向かわせる。


 音をたて続け数時間がたつ。崩れる音は、その時間を現すように、地面へ横たわる。音は響き、どこかへと知らせてゆく。鐘を鳴らし続け、その音に引き寄せられる。


 それは突然と、決まった未来を描くように、弓矢が飛んでくる「ハッハッハッハ。きおった。きおったのか?」毛に弾かれ、地面へ刺さり続ける、矢の数は、童の努力。笑いながら、決まった方向へと進む。焦る気持ちは、お互いに、大勢の人間の子がワシを囲むようにぞろぞろと、崩れた木の隙間から、身体をさらしてくる。


 その勇敢さを、横目に歩みは続く。


「見えるか、ワシ。これから先の、童たちよ」


 悲しき事よ、勇猛な者達の名を聞く事もなく、子供のじゃれ合いを無視するように、まっすぐ歩む。止まる足音はそこにはなく。内面の悪夢が、牙を早める。苛立ちで、ワシはどうにかなってしまうかもしれん。槍を持ち、ワシの皮膚を刺しきれぬ槍は、勇敢だった者達の、怯えを伝える。


「下がっておれ、通るだけじゃ」


 ワシは、童を探しておる。約束の、月の日を過ぎたのだ。少しは進展があったであろう。あの小娘はどこにおるか。


 少しづつ過激になるように、衝撃を当たる槍は、何度も繰り返す。汗だくの村の勇者は、疲れを見せる。足をよける童は、疲れて避けるのをやめる。ワシはどかすように、弾くようにどかす。

 手加減をした。殺さぬよう、意識があるうちにできる事をする。こんな獣のようなモノが暴れておれば、気が気でなかろうて。

 懐かしくも忌々しい、すさんだ記憶は、物事を教えてくれる。軽く飛ばして、木にぶつけてゆく。衝撃だけで人は気絶する。


 まるで、ワシは、ワシ自身の役割の過ちを、数えるように、口ずさむ。愚か者のワシの数を「一つ、一つ、一つ、一つ」無力感が押し寄せる。手を進めてゆく中で、ワシの手は止まる。

 童たちの中に、一人見覚えのある服がちらつく。白く、その古臭さは、この時代では問題なさそうに、歩いてくる。

 「きおったか」遅い登場に、ワシは心を震わしている。叫ぶように声をかけ、ワシはとてもうれしかった。

 目を見て、何かを言うように口を動かし、ワシの耳はもう聞こえぬ。あの日のお主の声を思い出すように、その小さな口が、伝えたいことを、できるだけわかろうと近づいてゆく。


「ハッハッハ。小娘よ、もう聞こえるものか、聞こえぬぞ!ハッハッハ。ちゃんと年寄りにも、聞こえるように喋らぬか。気を遣えんとは、まだまだなってないのぅ。ハッハッハ」


 優しいくも、悲しそうな視線は、あの日、見せたことはなかった。

 足を止めそうになる表情は、これまで一度も見せたことはないであろう。泣くなよ。お主は、子供っぽくいれば良い。無責任で、率先して動く、未来を照らす、小娘についてきておる。それでよい。無責任でよいぞ。子供は、何時までも大人を振り回せ、わがままで、ワシを振り回せばよい。

 口を見て、言葉を何か繰り返しておる。


「わからぬのだ……老いたのだ、もう、死んでおるのよ、この身体は」


 静かな会話が木霊するように。ただ感じ取る事しかできない、身体が憎い。この老いぼれの微かな楽しみを、奪う短き時間が憎い。

 心が生きている今だから、この約束ができる。役割を終え、のちの者の未来を無責任に投げ置き、ワシは、この身体と共に約束を終わらしに来た。


 約束の日。約束された時間は今なのだと、告げるように近づいてゆく。ここの路準備は必要ない。決まっていた事だ。ただ進む。


 約束どおり、役目通りに、子供を作る時間は終わり、自然を豊かにし、後はお主にお願いをするばかり。すがるように近づいた時、面白い波長が目の前に立っておった。


 今日は、良い日だ。不思議な匂いに視線が集中する。懐かしさを感じるその影は、初めて見る顔ぶれ。その姿を、見れば見るほど、けったいな。それでおって「童ではないか!!」槍を持ち、勇敢にこの巨体を前にして震えるその姿は、かわいらしい者よ。


 「せっかく、会えたのだ、匂いでもかいで仲よくしようではないか」匂いを嗅ぎながら、ますます震える姿は、まだ若すぎる「ハッハッハ。怖がるな、恐ろしがるな。ワシは食いははせん。木の実だけだ」


 会話の無い、会話を終えるように、身体を動かし、さらに顔を近づけその顔を見ようとした時、ワシは怖がらせてしまったようじゃ。無心に振るう槍は、顔を撫でる。

 何度も、何度も、じゃれるような槍は刺すことは無かった「可愛いやつじゃ。のう?小娘よ?」その姿は、初めて見たように驚いておった。どうやらワシが小娘より、先に会ったようじゃな。役割はお主だろうに、何とも言い難いのう。


 視界の前を黒いものが通り抜ける。そのまま影は倒れ、よく見ると童は何も持っておらん。それでは痛かろう。ワシは身体を軽く飛ばすようにして力を抜く。できるだけ抜かんと、もう力加減がどうなのか、感覚が麻痺しておる。


 今日は、ワシにとって少しちょうど良い日。もしかすると、小娘たちには、ちと肌寒いかもしれんのう。飛んで行く、影が地に落ちた時、風は鼻から抜けるように、匂いが消えてゆく。



 やっと静かに、小娘と二人になった。あの日、小娘を探すとき、小さいとみていた。今でもお互い大きさが多くなり「変わらんのぅ」ゆっくりと腰を下ろすように伏せ、小娘の手が届くように、ワシの額を触り始める。返事の無い、その声はワシを確信づかせる。


「そうか、ワシの声はもう……」


 静けさは、さらに増すように、心のどこかは寂しんでいた。切り裂かれた森。静寂を見守るように、静かな日差しは、時が来たように、それは告げる事になる。

 優しい約束の終わりが来たように、役目を果たしたように、ワシは待つ。後は――――――小娘の覚悟の時間。やり切る時間。


 のお、言っておったろ?ワシはもともと、これに侵食されておる。多少対応できる外角をもらおうと、ワシは先に狂いだす。言ったおったではないか。知っておったではないか……。


 静かな時間が過ぎている。あの日にはない、辛気臭さを捨てたワシは、ただ待っている。匂いがわからなくなり始めた身体は、次の場所を教える。このままでは、目まで終わる。だが、つらくはない。


 うん?お主にお願いしたの。酷い願いをした。酷い約束をした。今となっては、やめればよかったとも思っておる。数度、ここに来てから数度、会うほど、ワシは小娘の優しさを知っていた。しりとう無かった。お主には荷が重すぎるわい。


 願いをもらったものの、最後の役目を果たすため。小娘は進む。どこまでも、振り解けはしない気持ちがあるだろう。生物だ、気持ちを隠せ、小娘よ、演じるのだ。未来を歩むために、ワシを殺せ。


 覚悟はもうあった。死にゆく子守唄は、ワシの声では汚すぎる。ならば、願うばかり。願いを受け取るものが、願いを受け取るべき。これは、口約束と言うものではない、初めての律儀な願いをする。


――――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――――



 願いの終わりに、優しくなでられた。覚悟を決めたのか、顔を近づけ擦りつけよる。

 童よ、まだ童でいるのかえ?伝える事の出来ない、この声が憎い。会話のできない時間が、憎い。伝えてやって、少し撫でてやりたいが、少しづつ進んでくるこの内面が、憎い。小娘を泣かすワシが、憎い。


 童に、ワシは離れるように首を振る。飛ばさぬように、ゆっくりと離れるように首を振る。何度も振るが、なかなか離れない童に「そろそろ下がれ。ワシの死が近い。意識があるうちに役目を果たせ」伝わらない言葉を、ワシは吠える。


 少しして、離れてゆく童の姿は、唇をかんでおる「可愛い顔しておるのだ、笑っておれ」少し舌を出し、ふき取ると、手が伸びそうだ。ワシは慌てて出した舌を戻す。あってはならぬと、自分に釘を刺す。ただ、待つ、童の覚悟を、小娘の覚悟を、ワシらの希望の覚悟を、踏みにじる存在にはなりとうなかった。


 先ほどの弱い手は、まっすぐと伸びておる。目で見つめ、童の役割を、約束を見守るように、その終わりの音が鳴る。

 小さく衝撃が額を振動させる。ワシの額にぶつかるそれは、魔法。ワシはその行為を待っていた。約束は、ワシの中で、聞こえぬ声で響き始める。


――――――「知ってるポチ」


「お主は言ってくれた」


 何度も小さく撃つように、その姿は、ワシの瞳が映しこむ。瞬きをせぬように、役割を終える瞬間を待つ。その顔はゆがんでいく。骨格を割る時間は、そんなに長くはない。


――――――「どんなにつらくても、自殺はしてはだめ」


「死ねぬとは、本当に、愚かな約束よ」


 ワシは、お前からもらった約束と、役目を全うする。小娘も、そうするがよい。聞こえない願いが、その姿を見届ける。


――――――「自殺すると、自分を貶める時。私はそうさせない」


「もう、もうやめてもよいぞ……いや、そう、いわせはしまいて」


 何度も撃ちながら、何かをしゃべり始める。ワシにわかるのは、その目でもうワシが見たくないという事だけじゃった。皮膚にも、次第に皮をえぐる魔法の痛みは、頭の中の痛みを除いてゆく。


「ハッハッハッハ……爽快だ、死ぬときになってから、これから解放されるとはな。幽霊になって化けぬか心配じゃったが……もう、不安はないのう……」


 最後の一押しじゃ、最後の時を、小娘は、躊躇しておる。あのお転婆そうで、わがままな小娘は、ワシの命を握る。静かに、死を目前に、ワシは小娘の心配をしておる。


「……」


 決心の時を待つように、空いた時間で語りあえよう。内面では、もうよいと思うワシがおる。もう話せない口は、小さくうなずくように、言葉には、伝える事はできずとも。感謝を伝えたいと、口を動かしし続ける。


――――――「だから、私は、そうならないように。あなたを殺すから。ポチ、困ったら私の元に来て。決して、」


「必ず来てしまったな」



 あの日約束せねば「知っておるか?」小さく唸るように、ワシは小娘の機嫌を取ろうと「お主が、目の前にこなんだら」思いとは裏腹に、その時の姿は綺麗で、すさんでいた心を、照らし始めた「ワシはとうに、心から死んでおる。何なら……夜に出る、あの幽霊のようにワシはいたかもしれんのう」伝えられなかった想いは、伝わらない言葉を、ワシは呟く「ワシは、わがままに、贅沢にも、救われておった」


 俯いて、首を振りながら、そこにいる童は、小娘は、成長するように。頭を撃ち貫く。

 そこに立っていたのは、ワシの瞳を見続ける。泣いてる娘の姿が、あった。


 ここまで、耐えてくれた目に感謝をした。

 体内は、寒いのか、熱いのか、わからん魔法が、ワシの身体を通り抜ける。

 ただわかるのは、お別れだという事。

 考える脳はもうないが、目の前の崩れる姿に、お別れを告げるように、小さく鳴く。


――――――「決して、亡霊なんてならせないから」


『ありがとう』


 言葉を、身勝手な想いを残し、身体は、力を失うように、その場で倒れこむ。命を宿し、使命を宿した者は、宿した者だちの手によって、希望の時代を待つように、願い。眠りにつく。

 それは、遠く、近い未来。何処かで会えるようにと、願いながら、冷たい地面を枕に、あの日、見えなんだ、良い空を、もう見る事の出来ない、くすんだ瞳に映すように光を消す。



――――――「だから、安心して……約束ね」



 ◇ ◇ ◇



――――――これでよいな。良かったわい……ワシの死で、小娘は、いや、この場の主は、自身の役目を守ったのだ。


 後ろめたさを、もう持てない。儂はやる事をするために、死者として三度目の出発をすることになる。小娘の計らいを無下にしないように、おらりの無い道を歩き続ける。

 しばらくして、儂は、暗い空間にいた。死の国とは、こんなに何もないものか?生前のように、歩き続け何かにぶつかる。


「久しぶりにぶつかったわい。なんじゃ、こりゃ?」


 手を伸ばすと、そこにあるのは巨大な壁。何もない空間に、何も見えない場所で触れる事の出来る、懐かしくて優しい壁。


「いや、これは……」

 

 これは、すべてを理解するに、十分なものが目の前にたっておる。

 こんな事で会うとは想像もしていなかった。まるでそうするのが当たり前のように、儂は手をかざし続ける。触れていると、わかってくる。完全ではない。だが、危ういわけではない。眠っている童に声をかける。あの時、お前に似た童は、ワシに手をかけておった。今度はワシが、やり始める番。


「童。童よ、」


 思い出す。こんなに声をかけながら、いろんなことがあった。儂を連れ出し、儂をこの地に用意し、歩き続けたことを覚えておる。色々と、あの者たちと喋りながら歩いたのう。儂らの役割を終えるために、決めたな。

 少しづつ強く感じるものがある。声をかけ続ける。この声が届くように、願うように。


「お主の事よ。童よ」


 何も起きない壁は、まだ何も伝えない。伝えないなら、伝わるまで、こちらから伝えるまで。儂は待つのは、得意な方よ。


「こんなところで寝ぼけよって……まぁ、まだ赤子か。よいよい、よいか」


 あやすように、鼻歌を、あの時の手の温かさを思い出すように、壁を撫でる。すると、次第に明るくなってゆく。まだ、しばらく元気さは、明暗と繰り返しながら続いている。


「反応しよったわ。ハッハッハッハ」童よ、儂はまだここで、この童を見ておるわ、安心せい。どこにも離れはせんよ……。動き続ける光に反応するように「しっかり、勤めをがんれよ」声をかけ続ける。



 鼻歌をやめないように「会えてうれしかったぞ」想いを載せて続ける。儂は、一人で、新たな役割をするように手を当て続ける。



――――――鼻歌は、ただひっそりと想いをのせ続ける。

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