タイトル未定
私は、目の前の獣の口から何度も、繰り返される、うなりとも違う何か伝えてくるその声を聴き続けた。
「クオックオックオックオックオックオ」目の前で続く口からの音は、私の恐怖を駆り立てる。持っている槍は、握って縮こまるようにして、私の身体をこわばらせる。後ろの白い女性を、かばってはいるものの……いや、かばってなんかいない。頑張るとかじゃない。私はもう、怖くて、一歩も動けない。
「う……ぁ」
悪夢がまだ続くように「クオォォクオックオクオォクオックオックオ」何度も続くこの声を、私は聞いていく中、響く声で、徐々に体のどこかが壊れていってしまいそうだ。吠える恐怖に、考える時間を与える事はない。心の底からこの光景が多くの時間を感じさせる。
獣の鼻は近づき、私の匂いを嗅ぐ。再び笑うような鳴き声は、体の芯を凍り付かせるように響かせ続ける。声に続くように、口が開く。何時食べられてもおかしくはない。
身体を動かすんだ。槍を持つんだ、彼女の手をもって逃げれば、助かるだろうか?二人で逃げようと、女性の位置を確認しようと、視線が下を向いた時。影が覆っていた。
おかしな話なんだ。崩れた木々で、明るく照らされていたはずの、手元が影に覆われていることとは、何を意味しているか。
自分のきれいごとを捨てて、私は、顔を上げた。食べられたくない一心で、何もわからないまま、私は槍を握るだけ握って、振り下ろしながら、前へと踏み込みながら目を向け声を張る「うわああああああぁぁぁあ!」前を見ているからと言って、見えているわけではない。この視界は「食べられたくない。食われるもんか!」そう叫びながら、意識は別に振り続ける。
身体を張りながら、振り回すように顔を向け、目の前の影にこれでもかと、力を振り絞るように、槍をぶつけ続ける。
必死にぶつけ続ける中で、自身の手に衝撃が走る。近づいて獣の毛を殴るように、自分の拳が入り込んでいるように映りこむ。私の肩は荒げ、呼吸と同じように震わせ、獣の毛から抜け出す素手を、グーとパーを繰り返すように、両手をのぞき込む。振っているうちに、勢いで槍を落としていることに、私は気が付く。
「あれ、槍?」
その瞬間。獣の身体の上部が見えた。視界が空を飛んでいる。私の身体は、横から吹き飛ばされた。獣の顔から、遠くなるように、浮いた身体は、音をたて、すぐに硬い木へとぶつかる。
その衝撃は、今まで受けたことの無い痛みを伝え、視界はもうろうとしてゆく。遠くでは、女性と獣の距離が近づいている。朦朧としている頭は、もう何も考える事はできない「にげ……て……」思っている言葉を残して、私の視界は、身体の限界を教えるように暗転してゆく。
――――――ここはどこだろう?暗い世界にいるように流れる映像をただ傍観するように、明るくも食らい、その景色を私は知っていそうだった。身体が、手が、足が、見えはしないけど、ここに私は立っている。
不思議な感じだ。まるで誰かいるみたい。あたりを見回すが、どこも景色は変わらない。暗い中。誰かの声が響くように、別の意志があるように、私の意志と此処で、私に声をかけ続けている。
「童。童よ、」
ハッキリと、声が聞こえる。この暗い空間で、知らない声が、どこからか『誰?』私の声は出ているのか、それとも、意識しているだけの不思議な感覚は、まるで私に向きながら、ただ温かく優しい声のみが聞こえる。
目の前に影の中から人の形が浮かび上がる。
『童って、だれ?』顔は私に、向いているはずなのに、うすぼんやりとぼけているように、けど、どこかにこやかな温かみのある顔は「お主の事よ。童よ」私に、止まらない声をかけ続けている。
「こんなところで寝ぼけよって……まぁ、まだ赤子か。よいよい、よいか」
何もできない、大した人間ではない私に、嬉しそうに、その手は私にかざしている。目の前にいるはずなのに、何処か、この男性が、遠くなってゆくのを感じる。その存在を私は知らない。知らないはずなのに、私はこの男性を懐かしんでいる。不思議と、私は、身体を動かす。
「反応しよったわ。ハッハッハッハ。しっかり、勤めをがんれよ」
強い口調で、どこか優しい年老いた男の声は、私に向けて強く手を向け続ける。まるであの人と、出会うためにあるような、この空間は、少しづつ、白い背景へと色を変え、私の意識をどこか遠くへ、男を残して飛ばされる。
「会えてうれしかったぞ」
――――――「らーらー、ら~ん ららら~ん。ふふふ」
私の、視界はまだぼやけている。先ほどの白い空間はなく、違って見える白目の茶色と、白の布。どこか柔らかい物が、頭を載せ、枕の代わりにをしている。聞こえる歌は、どこか懐かしく、一定の音で聞こえる。目がはっきりするように、木の天井、人の服、順番にくっきり見え始める。
白い服の声は、女性。さっきまで聞いていた、声とは違う事を、認識していた。
「あら?こんばんわ。少しふざけてたの、聴こえてたりした?」
平和そうな、やんわりとしている女性の声と、視界の半分を包む、胸が話している。目の前に見える、光景は、それ以上はなかった。顔を上げれば、女性の起伏に向かっていってしまう事は避けたかった。
「えっと、どうでしょうか。あの、すみません、ここは??」
頭に置かれている手の感触が、会話の節々で撫でられる動作をしている。ゆったりと穏やかな声は「ここは、私達の村。そしてその村の、お客さん。ふふふ」のんびりと話す女性は、満足げな説明をしながらまるで人形をなで続けるように、頭をなでる。
覚まし始めた頭には、先ほどまでの光景が中心に、浮かび始める。四足歩行の大型の獣に、飛ばされ、私は木にぶつかり、その衝撃で意識を失った。今ここにいる私はどうやってここまで。
「私は、ここまでどうやって?」
「運ばれてきました」にこやかに、何かジェスチャーのような姿をしているのだろう。私の視界からでは腕を上げているようにしか見えない。二つの腕を右肩に抱えるように……さらわれてるか、荷物のような運ばれ方が、頭の中で描かれる。
「怪我はしてないか、手を当てていたのですが、少しだけ痛そうだっただけで、良かったです」
「あの、気になる話し方なのですが『当てていたのですが』とはいったい?」
「歌いながら手を当てていたら、なんだか髪の毛を撫でてみたいなって思いまして。それで、撫でてたら目が覚めたみたいで。へへ」
顔は見えないが、このにこにことしている口調は、彼女の顔を想像させる。想像の答え合わせもかねて、顔が見たくなり、動けない姿勢を、ずらして起こしたかったため、私は撫でる手をつかみ「すみません。私の体を起こしてもいいですか?」今の体制を伝える。
「そうですよね!」そう言って、彼女の両手は床へと向かい、床についた手は力を籠め、身体をのけようと、上半身が前かがみになってゆく。次第に、私の目先には、避けようとしていた事を、まるで意味をなさない事へと、なってゆく。
顔は胸へ押し当てられ、目の前は真っ暗に。徐々に持ち上がる頭は、そのまま膝をすべるように、勢いよく降下する。ゴンッととても鈍い音を響かせ、床へと私の頭は、叩きつけられる。
落とされた本人より「え!?」っと驚きながらも、何故なったのかを理解した時、彼女の落ち着いていた姿は「ごめんなさい!!いたの忘れてたの!!」慌てた姿へと変わってゆく「違うの!忘れてたんじゃなくて、ついうっかり……それだと私わざとみたいじゃない!?」どうしても、自身の言い訳が落ち着くことなく、あたふたとした動きが暴れている。
その姿を見ながら、わざとではないとわかるけど「痛いです」ぶつけた後頭部をなでながら、私は彼女の姿を眺めていた。
白い服。茶色の長い髪が結ばれている。白い服は赤も交えた巫女のような服装に、胸元と、上半身の各関節付近に石が付けられている。優しい顔は、どこか茶目っ気があるような、人懐っこそうな顔立ちがこちらに慌てて謝っている。
「ごめんなさい。痛いですよね?痛くなかったりしますか?けど、さっき痛いって言ってたので、手を当てましょうか!?」
「おお、落ち着いてください。大したことではないので」
想像以上に、心配して慌てている姿に、姉の姿が目に浮かぶ。大丈夫なように、身体を動かしながら、無事を教えるように視界で家を見渡してゆく。
同じような白い服。あの時は、せわしなくそんなにはっきりと見えていなかったけど、同じ感じはしていた。あの女性はどうなったのか、私と同じように運ばれていないか探していたがこの部屋にはいない。
「すみません。私のほかに、誰か来てませんでしたか?白い服の人とか。後、そうだ!」私は思い出すようにエルドラさんの顔が浮かんだ「白髪の、同じような石の装飾をしている女性とか、来てませんか!?」
畳立膝をしていた私は、前のめりに女性に聞きよるように迫る「えっと、エルドラの事ですか?彼女なら、あなたを運んできてましたよ」聞き馴染みのある名前が、来ている事を安堵させる。
下を向き、貯めた息を吐くように、胸をなでおろす。後でお礼をしたいから、どこにいるのか聞かないと「ん?」足元に、白色の見慣れない布が、一枚落ちていることに気が付く。
拾い上げ、私は「これは何ですか?」と、聞くように、口を開いた瞬間。彼女は、目をそらして手を前に突き出した時「あの!!ごめんなさい!!」私を突き飛ばす。
「へ?」
何があったのか。私は自分の足を上げた時や、腕を伸ばした時の自身の肌色の多さに、目線は下腹部へと向かう。次第に、自身の状況がつかめた時には、状況の悪さを認識しました。揺れ動く体の一部が、私のすべてを物語っていました。
「ごめんなさいぃぃぃいい!!!」
「きゃああぁぁぁあああああ!!!!」
悲鳴の声色は違ったものの。二人の男女の声が入り混じる部屋にいた、私の姿は、まさに、
――――――生まれたままの姿を見せつける。変態でした。