タイトル未定
――――――私は、昨日の出来事を、静かに考えれる時間ができた。
自分の何が甘えているのかを、何が嫌だったのかを考えていた。生活してきた中に会話が色々あった。忘れていたり、どうしても思い出せない内容もある。けど、お世話になったリアさんや、叔母様。あの人たちとの別れは、もう少し、もう少しだけ自分が甘えなければ、もっと良いほうで動けていたんじゃないかって……今でも思っている。
叔母様の、あの時の顔。リアさんのあの時の行動は、私が日々に聞き出せたことで、もう少し良い終わりができたかもしれない。エルドラさんとの争いは、そういった事からの積み重なっていた人の心が招いてしまった気がする。約束、その事は変わらない、変えれるのは自分の中の考え。甘さだけ……。
朝日を遮る石の中で私は思いながら、自分のこれからの目標を考え込む。ここに動くことは、成長する事。甘えず成長する事。なら、私は甘えない。誰にも甘えない。あの背中を、あの危険な事をさせないためにも、私は石の家から這い出るように外へと顔を出す。
「揺ラセーー、揺ラセーー!!」近くで、ゴブリン達は慌ただしく動いている。声を張りながら、複数人で大きな木々を揺らしている。すると、木からは、雨の様に水が降ってくる。下にある大き目の器たちに貯めるように上空から降る水をシャワーの様に浴びている。
水は、とても高い場所にある木にある、葉に霜を多く含み、水を生み出す。この世界のよくある朝。
これは、私がいた場所でも変わらなかった。基本的に、この水を確保するために、朝は忙しい。この水を手にいれる事は、いろんな生物はそれぞれ苦労していると聞いた。色んな道具で水を集め、その日から、水が数日持つようにしている事もある。
私は甘えない。
「ゴブリンさんおはようございます。何かお手伝いできますか?」
「ナラ、手伝エ。アの木を揺らスゾ!」
誰でもいい、誰でもいいから声をかけ、必要な所に手を貸してゆく。それを繰り返す。自分の今できる事を、足を使って覚えていくように、私の身体は今、木にぶつかるように、周りの同じタイミングに合わすように、揺れ動くゴブリンと木を揺らす。
何度も、水を浴びながら、見えそうな空を覗くように私は、自分の中で声をかけていた。
「もう少しできるよね?」
多く集まった水を見て、動けたことを自覚するように。一緒に動いたゴブリンと、同じように動き覚える。日のあたらない森の中。それでも、できるだけ涼しい場所へと水を運び始める。皆が寝ていた簡易的な石の家を使って日よけにする。
もう少し、上からの土煙をよけるように、落ちてきた大きな葉を使い蓋をしてゆく。
「できた」どれくらいかかったかわからないけど、手慣れてないわりに早くできたほうだと思いながら、皆の動きを見つめる。
中央では、ゴブリンが料理をするように焚火をしている。私も手伝おうと足を向かわせる。
「何か手伝いましょうか?」
「ここはイイ。ゆっくりシテナ」
ニコニコとしながら、料理の準備を始めるゴブリン達は瞬く間に火をおこし、焚火の準備を終わらす。他にもあちこちで、動き回る場所で声をかけるが断られるばかり。水の確保をしたぐらいで何もできていない。
「おはよう。元気か?」
木に横たわり、ゆっくりしている私にエルドラさんが声をかける。
水浸して、さっぱりしてそうな髪を後ろにまわしゆっくりと深呼吸をする。
「久しぶりに、さっぱりできた。君も手伝ったんだって?偉いじゃないか」
子供に向ける、その言葉を私は快く受け取れなかった「大したことじゃ」小さく言う言葉に吐息が重なる「なんだ。そんなに小さくなって」私の頭をぐしゃぐしゃにするように手がこねくり回す。
慌てて「やめてくださいよ」と、少し痛かったその手をはねるようにしてしまった。慌てて叩くようにはねた事を謝り言い訳をするように言葉を付け加える。
「ごめんなさい。ゴブリンの皆さんに、いろんな事を手伝って、いろんなことを学ぼうとしてたんですけど、一つしか手伝わしてもらえなくって」
「いいじゃないか、一つでも」指がゴブリンの一人。小さなゴブリンを刺しながら口は動く「あれは、これから同じように覚えていくんだろうな。まるで君と一緒だ」その指差を見ながら、本当に小さいゴブリンは、果物を葉において準備をしている「あれが私」
「どの種族、どの生物も順番がある。変にすぐできるものもいないし、何でも教えてはくれない。ゴブリンが一つ教えたのは、彼らにも教える順番があるからだ。私でも、マナに、すぐ全ては教えないだろうな」
納得はできる。でも、納得だけじゃ理解できない事もあるとわかっている「でも、もう少しできる事があったと思います」自分の中の心の声を吐くように、伝えるが、きっとこれも甘えてるんだろうなと自覚する。
「なら、せっかくもらった槍もあるんだ。一本貸そう」
木の槍が私の足元に刺さる。『ほら』っと声を入れるように、私の身体を起こすように促される。少し危ないと、静かな場所へと案内され槍の構え方がスタートした。
「いいか。色々迷っているだろうが、ここでの君は、まだ早い。まずは身体を動かそう。頭ではない身体で、覚える事も多くある。足を肩幅に広げ槍を構える」
私の真似をしてみろと、見やすく前で構える。木の槍は思ったより軽く振り回そうとしなければ困るような重さではなかった。構えやすいように身体の重心を、利き足に。
「肩には、まっすぐ構える以外の力はいらない。そう、身体に力を入れない。持っている。刺している、それは軽くするんだ」
身体を支えられるように、手と身体が重ねられる。
「右足に、重心を置き、左手で押すようにする。そうすることでまっすぐと伸び止める動きはないから、想像以上に早く出る」
言われたように、左手で押し込む。風を刺す、こういった感覚はよくわからないけど、目の前に流れるマナの動きが避けるように見える。鋭い音が風を切ると思っていたが、そういった事はまだ無いようで「よし!」と、元気な声が響く。
「これでいいんですか?」不安になる自分の動きに、エルドラさんは「初めはこんなものだ。それを続ければ身体がしやすい型を覚えていくさ」続けるように、刺すようにジェスチャーされる。掴めたかどうかわからないけど、何度かしてゆくうちに無心で刺し始めていた。
その姿勢を見てか、エルドラさんも横になって一緒についていた。エルドラさんの槍は音を鳴らしながら鋭く止まる。
「マナ。君に聞きたいことがある」
「はい!」
槍を刺すことはお互いに止まらなかった。
「君は、幽霊の時、かなり夜目が利いていたな。私も夜目が利くが、あの夜。森の木が重なって一気に暗くなったのは覚えているか?私は、思ったより早い事で、目が慣れるのに時間がかかっていた。君はあの時、暗くて見えないとかと思わなかったか?」
あの時、槍を上げて私を呼ぶエルドラさんの姿はきっちりと見えていた。てっきり夜目が利いていないと思っていた。でも、お互いに夜目があるのに、どうして一人だけ見えていないのか、そんなに急激に暗くなったのか思い出そうとするが、思い出せない。
「いえ……夜目が利いていました」
「そうか。考えすぎか」それた話を戻すように「マナ、もう少し肩を出しながら、身体を止めてみろ」とアドバイスが再び入る。繰り返すようにできるだけ、動きやすい角度で、姿勢を維持しながら従う。
「止めるとき、もう少し添えてる手を少し浮かせて、止める時に手を当てるんだ」
繰り返される指導は、私の身体を動きを覚えてゆく。言われたとおりにしてゆくだけなのに、まるで扱いなれていく気がする。手の止め方を変え、腰の動きを考え、音がするように手が槍を止めた時。私の槍先は音を発した。
「おお!早いな」ほめるように手が叩かれる。嬉しそうにしているエルドラさんは槍を身体の隣で縦にしてこちらに歩む。
「今日はこれくらいにしよう。十分だ。人を刺すぐらいならこれぐらいでいい」言葉を理解した時、私がしてるのは、何なのかを持っていた槍を見て確認するように口が動く「刺すこと以外は、流石にできないですかね。傷つける以外で、何か」自分の中で、他人に対して傷つける行為を、自分がしたいとは思っていなかった。槍とは、本来そういうものだそれはわかっている
「そうだな。叩きつけたりできるが、傷つけないようにはできないだろう。槍は、本来狩りや、争いの元で作られる。物が理解できれば、それはわかる話だろう」突拍子もない会話をしたみたいに、さも当たり前の事をしゃべるその姿は首をかしげている。
当たり前のことを聞く私は「そうですよね」と簡単に言葉を終わらせ「そろそろゴブリン達の料理ができても、おかしくはないか」私はその事を告げられ、槍を返そうとする。
「マナ。君は持っておきなさい」木の槍に掴んだ手に重ねるようにして、押し戻される「君が、したくない事を私は理解できる。それは傷つけるもの。一度、槍を見た時、その先を見た時に、君は、そう思える事だろう」頷き、その言葉に、返すことはできなかった「だが、森でその事はできない。誰かが傷つくか、自分が怪我をするか、そういった場面がある。昨日、見たはずだ。あの幽霊を」
手足を生やし、追いかけるその姿は、寝て忘れる事はできない。実際触れてしまったら吹き飛ばされたのかはわからないが、襲ってきてたのは事実だ。
「見たはずだ、私とエルフの接近で、その扱いの理由を」リアさんは、私のために、前に立っていたのを思い出す。手に持っていたものは刃物と言う武器、きっとその手に持っていたものが、他人を傷つける事は知っていたはず。
「そういった突発的な事で、守れない事もあるかもしれない。森は、もう数日続く、どんなことがあるかもわからない。だから、その時は自分で、自分を守るんだ。逃げても立ち向かってもいい。手段を持っておくんだ。時間さえ稼げば、今の私は、必ず君の元に来れるから。頼んだぞ」肩に手を載せられ、その横を通り抜けるエルドラさんを、見送るほか私にはない。
甘い考えを妥協してくれたともいえる言葉に、もう少し、考え方を変えないといけない。突発的、私が突発的に襲われて、エルドラさんがこなかった時、その時はどうするの?いや違う、そのなってから頼ったら、きっとこれは甘えてる。嫌な事を他人に任せる事は、私がいま逃げてはいけない事。
探す声が聞こえる「みんナ。朝ご飯ダゾ!!オーーーイ!」声に反応するように「すまない。ここだ、今行くぞ!」歩みを止める事はなくただ言葉だけが私に投げかけられる。
「まだ考える時間はある。ゆっくり考えよう。けど食事!まずは、食事をいただこう」
エルドラさんを追いかけ食事をいただく。昨日と同じような一般的な食事。いつもと変わらない味なのに、今日の食事はとても重たく感じた。抜けきらない考えが、食事中私の胃の中でめぐるようだった。考えが、食事の様に分解される事は、なかった。
私とエルドラさんは、食事を終え、ゴブリン達と同じように移動の支度を済ませる。ゴブリン達の様に長旅の準備はない、私達は、持っていけるものは少なく、頂いた木の実を袋に詰め、
「色々世話になった」
「いいって事ヨ。マタナ」
「さようなら」
「お前もナ」
挨拶を済ませ、森を散策するように進み始める。早ければ一日と少し、森を探索しながらの向かう先に、目的地がある。エルドラさんの後を追いかけながら進むのは、時間がたつにつれて慣れてきた。
合わせてくれているかもしれないながらに、私はあの時の答えを考えながら、ついて行っている。答えをせかされる事もない、ただ考えさせてくれる時間は、どこか優しく感じる。
夜を過ぎ、朝を迎え、木の隙間で寝た、身体が少し痛くなった、朝の目覚め「予定通り、あと半日ほどで村につく。昼につけばおいしい料理くらいは何かあるだろう。休憩として、食事でもしよう」あと半日ではあるが、慣れない旅は、無事に終わりを迎えようとしていた。
お互いに、朝食を手にするために、水と果物や木の実を用意する私と、身体には肉がいるとの事でで、エルドラさんは肉を手に入れるため、何処かへ向かう。
「水は良し」ゴブリン達のマネをするように、水を確保するのはたやすかった。エルドラさんが持参していた、持ち運びに必要な小さな筒は、量が知れていた。次に木の実を探そうと、元となった場所からできるだけ、離れないようにしながら探している。
「見つけた」細い木にできた木の実を見つけ、できるだけ取れそうなものを、少しの高さをよじ登りながら回収していく。人数分を集め終え、戻ろうとしていた時、遠くから獣の吠える声が、木をなぎ倒す音と共に聞こえ始める。
「クオォォオォオ」何処か悲しそうな、でもそれと言って聞き覚えの無い声は、木々を振動させる。聞けば聞くほど、腹の奥に響く声は、私の耳をふさぎ始める。
動かないように、ただ待っていると、次第に、木をなぎ倒す音は近くなってくる。
「クオォォオォオ」
「なんだか、嫌な声……」
呟き、響き渡る声の主と、離れるように進んでゆくが、正直、自身がない。響き渡る声が、あまりにも広く感じ取れて、方向がわからない。恐怖は増長されるように、背中に背負っている槍をかかえるように、木の陰に隠れながら、時間が過ぎるのを待つ。
こんな時、エルドラさんの言葉を思い出してしまう自分が嫌だった『森は、もう数日続く、どんなことがあるかもわからない』本当に起きてしまった。考えがまとまるまで、何もなければと思っていた『だから、その時は自分で、自分を守るんだ』迷いながら今ここで、私は縮こまっている。
近くの木が、音をたてて目の前に転がるように飛んでくる。いきなりの事で恐ろしくなりながら、私は木陰から覗き込むように、飛んできた方向を向く。
振動するように、ずっしりとした足音を立てながら、踏みしめる足音は、その正体をあかす。私の身長を優に超えている、狼のような獣。獣は、その場で木をなぎ倒しながら、地面をめがけて前足を下ろし、暴れている。
「クオォォオォオ」
獣は、自身の足元へ向け吠えながら。樹間から見える人影がちらつき始める。
「人だ!エルドラさん!?」私は叫ぶように、その影の正体を探るように、走り抜ける。獣の姿が、ある程度見えた時、足元にいた人影は、人の集団だった。
見るからに、耳が普通の人、槍を構え、向かってくる足をよけるようにして、また構える。その集団の後ろに、ゆっくり歩きながら獣に近づいていく、白い服を着た女性が目に入る。
長く動く獣の足は、地面をえぐるようにして、一人の男の身体を吹き飛ばす。
「大丈夫ですか!」私は近くに飛んできた男の顔を、起こすように確認する。身体には切り傷はない。切り裂かれているわけではないが、衝撃で気絶している。
次々に飛ばされている影が見える中で、何も持っていない女性だけが、ただ前に歩んでいるのが目に焼き付く。まるで死ぬ気だ。
戦って勝てるわけがない。私の中はそれだけが廻る。空いている頭は、エルドラさんの声が繰り返されるように響く。
『逃げても立ち向かってもいい』人を置いて、私は逃げたくない。逃げるわけにはいかない。甘えた心は、逃げたいと言いながら、私が見捨てるのは、嫌だ。
『時間さえ稼げば、今の私は、』言葉に甘えるわけじゃない、戦える気がしないだけ。止まった足をたたき始める。身体をたたくようにしないと、私は動けそうになかった。
エルドラさんの最後の言葉を、私はかき消すように自分に叫んでいた「助けがなくても、来なくても!嫌だから、行くんだ!」納得なんてできない。頭じゃない、言葉でもない、ただ体を動かすように、鞭を討つように私は重い足を動かす。
女性が、獣の前に立っている。私の手が、彼女の手首をつかむ。エルドラさんのような、槍で刺す勇気なんてない、リアさんのような心の強さで、戦うなんて事はできない、私は声を上げる。
「危ないですからぁ、逃げましょう!」とてつもなく、情けなくかすれた裏声が、その場に響き渡る。私の顔を見るように、女性は振り向くが、同時に獣の顔も、こちらに近づいてきていた。
考えもなく、私は、いやと言いながらも槍を持ち、女性の前に体を出していた。
――――――私の身体の前には、女性の顔や身体よりも前にある、獣の口が目に入る。
――――――クオォオォオォオォォォオオ……