第3話 狩猟大会のワルツ
森の朝霧が、湿った土と腐葉土の匂いを乗せて、濃く立ち込めていた。夜の間に降った雨で濡れた木の葉が、俺のマントの裾を打ち、ひやりとした感触を残していく。周囲からは、仲間たちの不満げな囁き声に混じって、枝から滴り落ちる水の音と、まだ目覚めきらない鳥たちの微かな鳴き声だけが聞こえてくる。
母と暮らした森とは違う。あの森の空気は、もっと生命の匂いに満ちていた。ここは、どこかよそよそしく、冷たい空気が漂っている。
俺は他の冒険者たちと共に狩猟大会の集合地点に向かっていた。鉄刃ギルドの旗印を掲げた一行は総勢二十名。貴族の道楽に付き合わされる羽目になった冒険者たちの顔には、明らかな不満が浮かんでいる。
「なんで俺たちが貴族の遊びに付き合わなきゃならねえんだ」
「金になるからいいじゃないか。文句言うなよ」
「でも八百長なんて、気分が悪い」
仲間たちの愚痴を聞き流しながら、俺は昨夜のバルガスが投げた言葉を思い出していた。奴の口からこぼれる酒の匂いが、今でも鼻の奥に残っている。獣のような笑い声も、耳から離れない。
『来週、貴族主催の狩猟大会がある。お前にも参加してもらう』
奴の太い指が地図上の一点を示していた。指先についた肉汁の汚れが、地図の文字を滲ませている。
『アルフォンス・ケイン伯爵のお気に入りの冒険者がいる。奴が優勝すれば、俺たちの賭けは大損だ。だが、もし途中で「不慮の事故」が起これば……』
バルガスの薄汚い笑みが脳裏に蘇る。八百長。汚い仕事だ。だが、奴に近づくためには必要な段階でもある。
――母さん、俺はどれだけ汚れることも厭わない。お前の仇を討つためなら。
集合地点に到着すると、既に貴族たちが豪華なテントを張って待機していた。絹の服に身を包んだ男女が、葡萄酒を片手に談笑している。宝石の装身具が朝日に反射して、まばゆい光を放っていた。
まるで、安全なガラスの向こう側から、飢えた獣たちの殺し合いを眺める神々のように。俺たちの命は、彼らにとってワインの肴にもならない、使い捨ての娯楽なのだ。
「諸君、よく集まってくれた!」
アルフォンス・ケイン伯爵が声高に宣言する。小太りの中年男で、金の装飾品をじゃらじゃらと身に着けていた。香水の甘ったるい匂いが風に乗って漂ってくる。俺の胸の奥で、嫌悪感が小さくうねった。
「今日の獲物はディアボア!森の奥に巣食う凶悪な魔獣だ。最も多くの獲物を仕留めた者には、この黄金の短剣を贈呈しよう!」
冒険者たちの間にざわめきが起こる。ディアボア――猪に似た魔獣だが、その牙は毒を含み、突進力は馬車をも粉砕する危険な相手だ。過去に何人もの冒険者が、あの魔獣の餌食になっている。
俺は冷静に参加者を観察する。筋肉質の男、小柄で俊敏そうな女、経験豊富そうな老練な冒険者。だが、その中で一際目立つ男がいた。
レオン・ヴァルガス。金髪碧眼の美青年で、貴族の女たちが黄色い声を上げている。整った顔立ちと優雅な立ち振る舞いが、まるで騎士物語の主人公のようだった。アルフォンス伯爵のお気に入りで、今回の大会で優勝最有力候補とされていた。
――あいつがターゲットか。
「それでは、狩猟開始!」
伯爵の号令と共に、冒険者たちが森の奥へと散っていく。革靴が湿った地面を踏みしめる音、武具がぶつかり合う金属音、そして徐々に遠ざかる話し声。俺もまた、他の者たちに遅れをとらないよう足を向けた。
森は深く、古い。巨大な樹木が天を覆い、足元には腐葉土が厚く積もっている。陽光がわずかに差し込む場所では、埃のような光の粒子が舞い踊っていた。鳥たちの鳴き声と、遠くから響く魔獣の咆哮が混じり合い、不気味な交響曲を奏でている。
俺はレオンの後を密かに追った。奴は確かに腕が立つようで、既に二匹のディアボアを仕留めていた。剣技は洗練されており、無駄のない動きで魔獣を倒していく。血しぶきを避ける身のこなしも見事だった。
――だが、それも今のうちだ。
俺の胸の奥で、何かが小さく軋むのを感じる。無関係な人間を、俺の復讐のために陥れる。母さんは、こんなやり方を望んだろうか。
いや、と俺は首を振る。感傷は不要だ。これは、あの獣の懐に入るための、ただの「鍵」に過ぎない。俺がこれから歩む道は、善人の道ではない。今更、一つの汚れをためらうな。
午後になり、レオンが休憩のため大きな岩に腰を下ろした時、俺は行動を開始した。木の陰から静かに近づき、適度な距離を保つ。彼の疲れた息遣いが、静寂の森に小さく響いていた。
そして、左目をわずかに開く。
蛇眼の力が僅かに漏れ出す。視界が一瞬、金色に染まる。レオンの足元にある小石に視線を向けると、それがゆっくりと石化を始めた。表面だけ、ほんの薄皮一枚分だけ。見た目には何も変わらないが、石の性質が微妙に変化している。
レオンが立ち上がる。次のディアボアを求めて歩き始めた時、俺が石化した小石を踏んだ。
硬くなった表面が滑り、レオンの足が大きくよろめく。バランスを崩した彼の体が、近くにあった木の根に激しくぶつかった。鈍い音が森に響く。
「うぐっ!」
レオンが苦痛の声を上げる。右足首を押さえ、顔を歪めていた。額に脂汗が浮かんでいる。
「畜生……捻挫か」
完璧に見せかけた災難。誰が見ても、ただの不運な事故にしか見えない。俺の心の奥で、冷たい満足感が小さく渦巻いた。
俺は木陰から姿を現し、心配そうな表情を作る。
「大丈夫ですか?」
「ああ、君は……すまない、足を挫いてしまった」
レオンの声には、明らかな落胆が滲んでいた。彼にとって、この大会がどれほど重要だったのかが伝わってくる。
「応急処置をしましょう。動かさない方がいい」
俺は親切な冒険者を演じながら、レオンの足首に包帯を巻く。彼の肌は温かく、脈拍が早く打っている。これで奴は狩猟を続けることができなくなった。
「済まないな。君も狩猟の邪魔をしてしまって」
「いえいえ。冒険者同士、助け合うのは当然です」
内心では冷たい満足感が広がっていた。バルガスの命令を完璧に遂行した。これで奴は俺をより信頼するだろう。
――そして、油断する。
夕方、狩猟大会が終了した。結果は予想通り、レオンの棄権により他の冒険者が優勝を果たした。貴族たちは落胆していたが、バルガスは一人、満足げな笑みを浮かべていた。奴の目に浮かぶ欲深い光が、俺の嫌悪感を掻き立てる。
「よくやった、ソル」
ギルドに戻った後、バルガスが俺を事務所に呼んだ。机の上には金貨の山が積まれている。燭台の光に照らされて、金属が鈍く光っていた。
「賭けは大成功だ。これも君のおかげだ」
「お役に立てて光栄です」
俺は表情を変えずに答える。バルガスの目には、もはや疑いの色は見えなかった。完全に俺を信頼している。愚かな男だ。
「君は本当に使える男だ。これからも頼みにしたい仕事がたくさんある」
奴が葉巻に火をつけながら続ける。煙草の煙が事務所に広がり、俺の喉をひりつかせる。
「今夜は祝杯をあげよう。特別な酒を用意している」
――来た。
「それでは、二人きりでゆっくり飲もう」
バルガスが立ち上がり、事務所の奥の扉を指差す。奴の足音が床板を軋ませる。
「酒蔵に上等な酒を置いてある。君のような有能な部下にふさわしい代物だ」
俺たちは薄暗い石造りの廊下を歩いていく。壁に掛けられた松明の炎が、我々の影を長く床に投げかけていた。バルガスは上機嫌で鼻歌を歌っている。音程の外れた、耳障りな調べだった。
奴は気づいていない。自分が死神に手招きされて、地獄への階段を降りていることに。
廊下の奥で酒蔵の重い扉が開かれる。樽が整然と並んだ静寂の空間。熟成された葡萄酒の甘い香りと、石壁のひんやりとした匂い、そして微かな黴の匂いが混じり合っている。重い扉が閉ざされると、外の喧騒は完全に途絶え、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえた。松明の炎が燃えるパチパチという小さな音以外、ここには何の音もない。
復讐を遂げるには、完璧すぎる舞台だった。
「この樽の酒は特別でな」
バルガスが最奥の巨大な樽を指差しながら得意げに語る。奴の声が石壁に反響して、不気味に響いた。
「魔獣討伐の記念に醸造した代物だ。七年前、俺たちが伝説のメドゥーサを討伐した時の――」
奴の言葉が唐突に途切れる。俺が静かに口を開いたからだ。
「あんたの斧、覚えている」
バルガスの太い体が硬直する。奴の血色の良かった顔から一瞬で血の気が引いていく。まるで氷水を浴びせられたかのように。酒蔵の空気が、一瞬で凍りついたかのようだった。
「あの時、母の首を刎ねた斧だ」
酒蔵の空気が凍りつく。バルガスの手が反射的に腰の武器に向かったが、動きが止まる。
目の前の少年から放たれる殺気が、あまりにも異質だった。これまで数百の戦場を駆け抜け、山のような死体を築いてきた歴戦の冒険者である彼の本能が、鋭く警鐘を鳴らしている。
――これには、勝てない。
野生動物が天敵を前にして本能的に死を悟るように、バルガスは戦うことの無意味さを理解してしまった。
「ソル・アッシュ?まさか、まさかお前は――」
「俺の本当の名前はソレン」
俺は左目の眼帯をゆっくりと外す。金色に光る蛇の瞳が暗闇の中で妖しく輝いた。その光を見た瞬間、バルガスの顔が完全に青ざめる。奴の唇が震え始める。
「お前たちが殺したメデューサの息子だ」
バルガスの唇が震え始める。奴は七年前の記憶を必死に思い出そうとしていた。冷や汗が頬を伝い、床に滴り落ちる。
「あの盲目の――生きていたのか!あの時確かに殺したはずだ!」
「母さんを殺した十二人の冒険者」
俺は短剣をゆっくりと抜きながら一歩ずつ近づいていく。刃に反射した松明の光が、バルガスの恐怖に染まった顔を照らし出していた。金属が擦れる微かな音が、石の空間に響く。
「一人ずつ、確実に殺していく」
バルガスの手が腰の斧に向かう。だが、もうその手に力は宿っていない。彼は武器に触れることすらできずにいた。指先が震えて、柄を掴むことができない。
「待て!あの時のことは仕方なかったんだ!俺たちは依頼を受けただけで――」
「理由など聞かない」
俺の声は氷のように冷たく響く。感情の欠片も宿らない、機械的な音調だった。酒蔵の石壁が、その声を何度も反響させる。
「お前たちは、そこにいた。それだけで、万死に値する」
俺の言葉が、冷たい宣告として酒蔵に響き渡る。
左の眼帯を外した俺の視界が、禍々しい金色に染まった。蛇眼の力が解放され、その視線がバルガスの足元に突き刺さる。
「ひっ…!」
バルガスが短い悲鳴を上げた。だが、何かが斬りつけられるわけでも、炎に焼かれるわけでもない。最初は、何も起こらなかった。
いや――何かが、始まっていた。
「足が……足の感覚が……ない?」
バルガスが狼狽の声を上げる。彼の足先から、生命の色が急速に失われていく。まるで極寒の地で凍傷にかかったかのように、肌は血の気を失い、蝋のような灰色へと変色していく。彼は必死に足指を動かそうとするが、それはもう彼の体の一部ではなく、ただの石の塊と化していた。
「許してくれ!俺には妻も子供もいるんだ!頼む、見逃してくれ!」
バルガスが必死に懇願する。だが俺の表情は微動だにしない。蛇眼の金色の光だけが、暗闇の中で静かに、そして無慈悲に輝いている。
次の瞬間、バルガスの顔が苦痛に歪んだ。
それは外からの痛みではない。内側から、自らの体を破壊される、根源的な絶叫だった。
「ぐ…あ…あああああッ!痛い!中が、中から何かが……!」
石化は皮膚の上を這い上がるのではない。血管を、骨を、神経を、内側から侵食していくのだ。
彼の血管の中で、温かい血液がどろりとしたセメントのように凝固し始める。脈打つたびに、砂利と化した血球が血管壁を削り、耐え難い激痛を全身に走らせる。骨が石へと置換されるたびに、ミシミシと、自らの体が軋む音が腹の底から聞こえてくる。
「母さんも、痛かっただろうな」
俺は、彼の苦悶を観察しながら、静かに呟いた。
「足が、足がああああ!」
石化は足首を越え、ふくらはぎの肉を硬い岩へと変えていく。筋肉が収縮しながら硬化し、彼の足はありえない方向に捻じ曲がった。皮膚が乾燥してひび割れ、その亀裂から血の代わりに灰色の粉がサラサラとこぼれ落ちる。
――母さんにも、家族がいた。俺という息子が。
「母さんにも言えることだ」
石化の波は、止まることなく膝から腰へと這い上がる。下半身の自由を完全に奪われたバルガスは、もはや絶叫することしかできない。
「やめろ!やめてくれ!金なら!金ならいくらでも——」
「金で母さんが生き返るのか?」
俺の冷静な問いかけが、彼の希望を打ち砕く。石化が腹部に達し、内臓が一つずつその機能を停止していく。胃が、腸が、肝臓が、ただの重い石の塊へと変わる感覚。生命活動が内側から強制的に終了させられていく恐怖に、彼の瞳から涙が溢れた。
「七年間、俺が味わった絶望を知っているか?すべてを奪われた痛みを理解できるか?」
石化が肺に及び、呼吸が困難になる。空気を求めるように口を喘がせるが、石化した横隔膜は動かない。助けを呼ぼうにも、硬化し始めた声帯は、ヒューヒューという空気が漏れる音しか発しなかった。
バルガスの顔に、完全な諦めと絶望が浮かぶ。彼は自分の運命を悟ったのだ。
「せめて——せめて安らかに——」
か細い、最後の懇願。俺は、それにも冷たく答える。
「母さんにそんな慈悲をかけたか?」
俺の問いに、バルガスは答えることができない。
石化はついに首を駆け上がり、彼の顔に達した。涙を流そうとしても、涙腺はすでに機能しない。意識だけがはっきりと残る中、彼の視界が、端からゆっくりと灰色に染まっていく。最後に映ったのは、感情の一切を消し去った、俺の金色の瞳。
やがて、その視界も完全に閉ざされた。命の灯火が消える、その最後の瞬間まで、彼は自分が「物」に変わっていく恐怖を、味わい尽くした。
静寂が酒蔵を支配する。
――二人目。
憎い男が一人、この世から消えた。胸がすくような達成感があるはずだった。だが、俺の心を満たしたのは、歓喜ではなく、冬の荒野のような、どこまでも広がる空虚な静けさだけだった。
あと十人。この空虚を、あと十回繰り返すのか。
俺の右手首に浮かび上がった蛇の鱗のような痣が、そんな自問を嘲笑うかのように、次なる標的の方角を示していた。西北西の方向。そう遠くない距離だ。
「残り十人」
俺は石像となったバルガスを見下ろしながら呟く。松明の光が、石化した奴の顔を不気味に照らし出していた。
そして、奴の懐を探る。復讐者としての冷静さを保ちながら、次の手がかりを探すのだ。死んだ男の体は、まだ微かに温もりを残している。
バルガスの内ポケットから、一枚の羊皮紙が出てきた。七年前のメドゥーサ討伐の記録。十二人の冒険者の名前と、その時の取り分が記されている。インクが少し滲んでいるが、文字は十分に読める。
「マルクス・ローガン……王都のギルドにいるのか」
三人目のターゲットの居場所が判明した。手首の痣が指し示すのも、確かに王都の方角だ。復讐の道筋が、また一つ明確になる。
俺は羊皮紙を懐に仕舞うと、酒蔵を後にする。松明を一つ手に取り、扉を開ける。廊下の向こうから、ギルドの喧騒が微かに聞こえてくる。今夜も冒険者たちが酒盛りを続けていることだろう。彼らは知らない。自分たちのギルドマスターが一人、永遠の石の眠りについたことを。
月明かりが差し込む窓の向こうで、街は平和な夜を迎えている。石畳の道を歩く人々の表情は穏やかで、誰もが明日への希望を抱いているように見えた。酒場からは陽気な笑い声が漏れ、夜警の男が静かに街を見回っている。
だが俺の復讐は始まったばかりだ。
「待っていろ」
俺は街の裏路地を通りながら、ギルドから離れていく。復讐の炎が、俺という名の蝋燭を、内側から溶かし続けていた。エウリュアレ母さんを殺した者たちへの報復。それが俺の生きる唯一の理由であり、同時に、俺の魂を燃やし尽くす呪いそのものだった。
蛇眼の奥で、母の憎悪が渦巻いている。その感情に飲み込まれそうになりながらも、俺は歩き続ける。足音が石畳に響く。
今日、俺は八百長という汚い仕事に手を染めた。無実の冒険者を陥れ、奴の夢を砕いた。そして今度は殺人者となった。
――俺はどれだけ汚れることも厭わない。
人間としての良心も、道徳も、すべてを捨て去る。復讐のためなら、悪魔にでも魂を売り渡そう。もう戻れない道を歩み始めてしまった。
夜風が頬を撫でていく。その冷たさが、俺の心に残った最後の温もりを奪い去ろうとしていた。エウリュアレ母さんと過ごした穏やかな日々。森で交わした優しい会話。すべてが遠い記憶の彼方に消えていく。
だが構わない。
――温もりなど、もう必要ない。
愛も、慈悲も、赦しも。そんなものは弱者の慰めに過ぎない。この世界は、強者が弱者を踏みにじる場所だ。俺は強者になる。どんな手段を使っても。
俺に必要なのは、ただ一つ。
復讐だけだ。
街の向こうに広がる闇の中へ、俺は静かに歩みを進めていく。手首の痣が指し示す方向へと。次の標的へと。そして最終的な復讐の完成へと――。
その時、背後から微かに聞こえた気がした。
『ソレン……そんなやり方では、あなたが壊れてしまう』
母さんの声が。悲しみに満ちた、優しい声が。風に混じって、確かに聞こえた気がした。
でも振り返ることはしない。振り返れば、きっと立ち止まってしまう。今更、迷いなど抱いている場合ではない。
だから俺は前だけを見つめて、闇の中を歩き続ける。
復讐という名の、終わりなき道を。
王都への道のりは長い。だが時間はある。三人目のマルクス・ローガンも、四人目も、そして最後の一人まで――
すべてを石に変えるまで、俺は止まらない。
夜が更けていく。街の灯りが一つずつ消えていく中で、俺だけが暗闇の中を歩き続けていた。復讐者として。母の仇を討つ息子として。そして、もう二度と元の自分には戻れない、哀れな怪物として。




