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#04 未詳図


 降りだしそう。


 一面の暗い曇り空を見上げ、どこか俯瞰(ふかん)するように思考を泳がす。


 降りだせば一巻の終わり。そうはわかってはいるのに抜け出すことができない。


 いまや頭に描いた(つたな)い地図はかすみ、この道は正しいのか、自分はどこへ向おうとしているのか、そんな自問する声だけが心内に反響する。


 そんな疑問をなげかける心とは裏腹に、勇気が()がれ、力が入らなくなったいまでも、頭だけはひたすらに突き進むことを望む。


 ちぐはぐになっていく心身と、今にも消えゆきそうな地図。

 そんな二つを繋ぎとめ、必死にもがく最中(さなか)、ふとあることが彼女の脳裏によぎる。

 

 ここは日の出るうちに巨木を注視できる、迂回された例の分岐所なのではないのかと。

 もし、そうであるならば。


 日中に眺めみれるのならば、それは終わりが近いことだと予期し、頭に留めた光景が、眼前に広がることだけ夢見て灯りを掲げる。

 

 

 一心の希望を預け乗せた小さな光が照らしだしたのは、なんてことはない、ありふれたただの木肌だった。

 

 

 予想する景色などどこにもない、最悪の結果にへたり込む。

 もうどうすればよいのかわからなかった。

 頼みの地図は空を描いた全くのガラクタだった。もう(すが)ることはできない。

 支えを失った身体はついに尽き果て、立つことすらままならない。

 ガラクタを信じ踏み抜いたのだ。

 今はどこで地を踏み、沈み込んだのかすらわかりようもなかった。


 最後に覆いつくす雨雲が視界に映り、思わず吐き気を覚えて膝を折る。

 静寂を乱す子供のしゃくり声が木霊する。

 (こうべ)を垂れ、塞ぎこむ彼女。

 しかし()しくも浮かんだ疑問がまた、彼女の重い頭をあげさせる。

 

 泣いてなんか、いないのに

 

 彼女自身疲れ果て、喉を震わす余力すら残っていないというのに、この声は、延々と泣き続ける。


 だれが泣いているの


 止どまることのない声。

 悲しみに暮れ、泣きじゃくるその声は、ひたすらに山林を濡らし続ける。


 四方で涙が満ちていく。


 そんな錯覚を覚えるほどの極限状態だというのに、彼女はただ(あえ)ぐことしかできなかった。


 泣き声に臆したのではなかった。


 目の前の世界が、身体の芯まで震え上がらせたのだ。


 映しこむ光景が目を離さない。

 映ったのはいましがた見ていた大木。

 灯りを照らし、勝手に落胆したもの。

 目の前で崩れ落ち、意にも解さなかったもの。

  

 そんなものにどうして、


 どうして

 顔がついているのだろう。



わたしをみるな

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