表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

#02 世界※り※※※

 

 白の野草を引き抜いた瞬間、おびただしいほどの血濡れた根が噴き出してくると、蜘蛛の子を散らすよう眼下広がる森へと消えていく。


 頂を覆うほどの血の群れに飲まれ、半ば流されるかたちで斜面から乗り出すと、ろくな抵抗もできぬまま、揉みし抱かれるかたちで滑落する。


 血と泥にもまれ、ドロドロになってしまった体をなんとか起き上がらせる。

 滑落し、傷こそ絶えない体だったが、それすらも手のひらに野草を握りしめているという実感が勝り、押し寄せる安堵が痛みをしのいだ。


 不思議な熱を帯びはじめた白の野草。


 その仄ほのかなぬくもりをしまい入れ、ひびにまみれたランタンをいそいそと取り換えると、彼女は追われるように後先考えず走りだす。



 山林は驚くほどに静かだった。

 先ほどの出来事など遠い過去の話だったかのような、物音ひとつない静けさだ。


 押し黙った木々の群れを駆け抜け、踏み鳴らしていく間、彼女は何一つとして考えることができなかった。

 胸に渦巻く様々な感情一つ一つが鼓動を掻き乱しては、上手く呼吸ができない。

 耳にたたきつける心音がとにかくうるさく、思考がうまくまとまらない。

 だがそれでも、これだけは断言できた。

 これは達成感からくる感情の高ぶりでもなければ、危機感が引き起こす恐怖の揺さぶりでもないのだと。


 激情の渦に飲まれたその時、突如山林を巡るつんざく悲鳴が鳴り上がり、溺れた意識が、ようやく視界へと舞い戻る。


 荒い息を吐きながら、付近を入念に探る。

 一心不乱に走り続け、滅茶苦茶な道筋を辿ってきたはずだった。

 だが頭より体が覚えていてくれたのだろう。

 道中例の巨木がよく見えた、かの行き道へと自分が迎っていたことに気が付き、たまらず胸を撫で落とす。

 しかしそれも束の間、ひどく不安に苛さいなまれた怯え顔を張り付かせると、今しがたおこった凄惨な悲鳴を思い出す。



 女の声だった。

 大きすぎてどんな声音かまでは聴き取れなかった。

 だが何故だか、この叫び声は耳に焼き付いて離れない。



 それが、とても、とても近しいものだと心が叫んだのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ