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第一話 国政ギルド


 夕焼けの空、

 まだ太陽が輝いてるのが見えていて、光の当たりかたによっては金色にも見えるオレンジ色の空を、翼のある中型ほどの影が飛んでいる。


そしてよく通る大きな鳴き声をあげて、


小さくて丸い、玉の花のような炎を吐いた。




赤いレンガと木材の深い色が残る、涼しげな気候のため屋根が高く、寒さと乾燥にも強い様な綺麗な家が建ち並ぶ、北欧系の街並み。

その中でも一際大きい、砦の様な白いレンガの建物を中心に、細やかな石畳で作られた街の大通りまで人で溢れていた。


新たな討伐の成果を讃える歓声に、また英雄の帰還を喜ぶ声。人々の手から色鮮やかな花ビラが吹き乱れて、一人の男を祭り上げる。

また冒険者ギルドは大きな賑わいを見せていた。



ここは、都市アキレスの国政ギルド。


ギルドによる商市場が発達して、大きさも、中から大にいたる大きめの都市ではあるが、国政のギルドとなると少し珍しい。


国政とは、国がギルドの管理運営に大きく関わる事で。

そこら辺にある、町外れのギルドや個人のギルドより、クエストの難易度審査、共に報酬量も中抜きなどが発生しないように、国から派遣された審査員が存在する。


厳格であり、公正公平なる、

地域の小さな問題もクエストとする、

至極真っ当なギルドだ。


だからこそ、報酬が正しく支払われると言う情報が知れわたり、上位の冒険者やその他多くの強者も旅の終点や、メインの拠点として活用する。

だから隣接する市場も大きく成長を遂げている。


そして上位の冒険者ともなれば、民衆の憧れの的であり、子どもたちに夢を見せる英雄的存在だ。

討伐の帰還を歓迎されること自体は、ここ都市アキレスでも珍しくない。

だが今回の一件は、上位冒険者の時と比べものにならないほどの人が集まっていた。

大通りの群衆が大通りにつながる横の通行を完全に止めて、横幅も十数メートルはある大通りが、今や一本の線しか残っていない。

もしかしたら、この都市全体の人が集まって居るのでは無いだろうか。




チャリンッ


「今回の討伐依頼、お疲れ様です!」

受付では、淡い栗色のした外ハネの巻髪に、髪と同じ色のパッチリと綺麗に揃ったまつ毛の、その中には、まるでエメラルドの宝石ように輝く、見ているだけで穏やかになれる緑の瞳をした。

活勢のい娘がいた。


体にピッタリ合う、受付嬢の制服を着てはいるが、まだまだ年若い少女に見える。


その娘は受付の下に潜ると、また覗くようにして受付帽の乗った頭を出し。同時に足元から取り出した、ずいぶん重いお金の音がする袋を、しっかりと両手で持って上に置いた。


ギルドの内装は、外観と同じ真っ白なレンガ調が続いていたが、黒檀の木材の量が増え。なんとも神秘的で高価そうな雰囲気を放っている、その受付けも。

装飾の豪華な深い青緑ヒスイ色で作られた金属の枠に、報酬の受け渡し用の穴が空いて、顔の鼻の上が見えない様なガラスの間板を挟んでいた。


その受付の正面に立つのは、今まさにあの群衆の間を通って、歓声を背に浴びて帰ってきた一人の男だった。


報酬を受け取ろうと一歩近づいた、その靴底から、重厚な金属の音がする。


彼の装備は、見るからに分厚く硬そうな革製のブーツ。


ぼんやりと鈍い光を反射する、鉄に植物の茎がうねったようなパターンが入った膝当てがあり。

周囲の者の目線は、そこから上に上がっていく、男としての大事な部分、筋肉質で少し太い太ももを綺麗に隙間なく覆う、皮と鉄のプレートが縫い付けられた腰鎧。


それらの装備に、主に使われている素材は、ベージュ色の布と、白色の皮、それとそこまで質が良さそうでは無い白味がかった鉄の塊。


右肩に飛び出る剣の柄から、膝下丁度まで伸びる、白い大盾にも見える鞘に入れられた。

…まさか剣聖の武器とは到底思えない、ギルド前の露天でも、抜き身で適当に売っていた普通の大剣。


それなのに、剣を取り出しやすいようにオーダーメイドで工夫された、右胸から右の肩まですっかり開いた鎧も。

左側だけを固めた胸部鎧。同じ理由で左肩にだけつけた服の袖が裏返されたような形の、鉄のバックラーも。


コレも、アレも、コレも、アレも、


その全てが激しい戦い物語る、小さな傷が重なり、幾戦いくせんと使い込んだ皮の色、鏡面がくすんで、近づいて見ても顔も反射もしない鉄の鎧。

それらは確かに、一般的な金属を使用した重装備ではあるが、一見してもギルド内にいる中位の冒険者の方が、いい装備をつけている。


名声に見合わない装備。少し強い言葉を使えるならあくまで粗悪品に分類されるだろう、その武具たち。


それらの中で、一つだけ例外的な物があるとすれば、背中にある白い鞘だ。


コレだけは一目見ただけでわかる、緻密さがあった。角ばった棺桶のような形の鞘は、背中に掛けるためのベルトも、頑丈そうで、一般人は見たこともないような竜皮。

それは他の装備と品も質も違い過ぎて、その男は、誰かから急に高級品をプレゼントされたから仕方なく着けているような、場違い感があった。



頑強な右手で、報酬の袋に手を伸ばす。

報酬袋を受けとる時、その男の背後から。


「……すげー」

「あれが『剣聖』かー…」

「報酬が桁違いすぎんだろ。」

「あの腕で私を振り回してッ//」


などと、息を呑んだ後の、掠れるような声で、彼、「剣聖」に感嘆にも聞こえる声と彼を切望する声と尊敬の眼差しを向ける声が聞こえる。


ーーーーそう。

大老の銀獅子。はるか過去から魔王に次ぐ、

魔界No.2の戦力を持つと言われた、獣の王。



魔王を倒した歴代の勇者の攻撃ですら、退屈そうにあくびをされながら弾かれ、全く歯が立たず、

また、魔王に対する勇者の剣のような特効の武器を見つけられず。

世界の歴史その物が目を逸らし続けてきた、その最強のモンスターを狩った事から、彼の名は広がった。


『剣聖のヘリウス』


世界歴で見ても今まで、1500年程の歴史の中で、彼を入れて、僅か二例しか存在しない稀有なスキル『剣聖』を携え、なんの変哲もない鉄剣で、幾多の名のあるモンスターを狩ってきた、

その実績からこうも言われた。


世界最強の剣士と。



いつもは憧れる存在である上位冒険者も、熱のある視線で見る。


その男の顔は、年相応に老け始めた薄いほうれい線に目元の勇ましくも年齢には逆らえない深い堀、

薄い銀髪を短く切り揃えてあるから、最近急に生えてきた数本の白髪もあまり目立っていない。

タレ目でも吊り目でもない、普通な黒眼に、

脂肪は少なくシュッとした顔、そしてそこまで濃くもない顎髭を携えた。


皆が思い描く強者のような筋肉がガッツリあるわけでもなく、スキル頼りのひょろひょろに細い身体をしてるわけでもない、

一般的な冒険者の様相に、コレと言って特徴もない顔。


冒険者からしたら、

とくに、何の変哲もないおじさんだった。


「ありがとう!テネスちゃん、……今日もおもて、騒ぎになっちゃってごめんね。」


そんなおじさんが、手を合わせながら、困ったような苦笑いを向けられた受付嬢の少女は。


『テネス』

この街で今、一番人気の受付嬢だ。


その仕事ぶりの理由は、その小さめの背や、

懐っこい妹を思わせる愛嬌も一例としてあるだろう。

がそれはさておき、このギルドを国政たる由縁、国から派遣された国政員とは彼女の事だ。

若干この年で国に認められる技能、ギルドを回す仕事の速さと共に、的確なアドバイスをすることができるサポーターとしての腕もあるだろう。


そして高給取りの国政員とサポーターとしての可憐な少女のあわよくばを狙う。血眼の奴らを寄せ付けないほど、ガードも固い。

そのはずだが、おじさんの微笑みにテネスは、顔を隠しながら頬をあからめた。



そんな受付で、目の前の様子にも気づかず、報酬を懐にしまったヘリウスは、おもむろにギルドの大扉を開ける。


ゴゴゴゴッッ


重そうな大扉を片手で開けると、今さっきまで人だかりが出来ていた街並みも、もう日常の風景に戻っていた。


「子供たちのために、サインしてやろうと思ったのに、やっぱり撤収も早いなぁ。」


一度振り返ればまた歓声が上がるであろう、ギルドを後にして、でも何も言わずに出るのは失礼だと思い、軽く手を振った。


案の定、歓声が上がったがすぐに扉を閉じてしまえば、何も見てない何も聞いてないのと変わらないだろう。


「ふぅ〜…」


道端の商売が盛んで、人は明るく、酒場は昼夜問わず賑わいを見せている、この都市アキレスの日常。

それを尻目に男は自身の宿まで歩き出した。



俺はヘリウス


剣聖の名前で知られる、最強の剣士、

……と言われているが。


大昔の獅子を倒したおかげで、国からも莫大な報酬と絶対の名声を、約束された。

それもコレも、全部はこのスキルのおかげだと、今はもう…理解している。



だが最強の剣士と言われたのも、十年前。

この力をもってして、何をしなくとも一刻一刻と流れていく年には勝てず、

今はもう三十歳も一歩手前のおじさんだ。



昔から何度も何度も、もう少し、かっこよく貫禄が出て来るまで歳を取ったら、名声を盾にちょっと有名な流派でも作って、世界の各所に作った道場で後任の育成に力を入れようと、思っていた。

今も今までも、そう何度も思っている、

だが実際には手を出せないでいた。


俺は昔からそうだった。

齢が十二の時、年に一回ある適齢期の子供のスキルを見る場所で、腰の曲がったお婆さんに冒険者になれと言われた。


その言葉の通り、と言うより、家族に背中を押されたし、俺も田舎町のただの村人よりは稼げると思って、冒険者になりにいった。


初めてのギルド、そこでも自分の意思じゃなく、また先輩を名乗る冒険者の人に促され、剣を握ったら、驚かれた。



それからずっと、ずっと、剣を振っては、モンスターを切り、剣を振る毎日。


溜まりに溜まった金も、使い方を知らなければ、ただの光るガラクタだ。



でも何も考えずに周りに流されるまま生きてきた俺だけど、ずっと疑問だった…


「俺には本当に力があるのか?」


「本当にみんなに必要とされているのは、俺じゃなく、この《《スキルだけ》》なんじゃないか」と。


この時までは。


カクヨム自作からの転載です。


楽しんでー!


ご愛読ありがとうございます。

不定期な投稿ペースではありますが、

作品を気に入っていただけたら、ぜひ評価・フォローなど、謹んでお願いします。

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