演技派女優は誰?
「おい、お前……いい加減にしろ」
「へ?誰よ。尊い団長様を煩わせている奴は」
辺りを見渡し、団長の怒りの矛先を探すのは、花屋の娘のメアリージュンだ。焦茶色の髪に日焼けした肌にそばかすのある可愛らしい顔の女の子だった。
「あなたね、団長様を煩わせる存在は」
メアリージュンは1人の女性に詰め寄る。
「あの……いえ……私は……彼の」
「はぁ?彼?私の尊い団長様に付き纏うのはやめて欲しいですわ。ねぇ、団長様?」
「…………いや、私は君に言っているのだが」
「へ?私?」
「あぁ、ずっと君を見ていた」
「わ、私を見ていた!?団長様……それなら早くに声を掛けてくれればいいのに〜もう、団長様ったら」
恥ずかしそうにするメアリージュン。
「いや……そうではなくて」
「あの……メアリージュンです。覚えてますか?一度街で助けていただいて……その時、貴方は私に恋をしましたのよね?」
「は?」
慌てるのは団長であった。そして、メアリージュンの後ろで悲しそうに見つめる女性は団長の婚約者のメアリーだった。
「エディ?そちらのお嬢さんは?」
「いや、違う。メアリー違うんだ」
「もう、団長様ったら〜。メアリーだなんて私を愛称で呼ぶなんて。積極的ですね」
身体をくねらせるメアリージュン。
「あなたの逞しい身体を忘れられなくて……あの日は私にとって特別な日でした」
「エディ?その人と?」
「何を言う、俺は君以外を愛していないし、何もない」
「え?団長……私以外は愛していない……もう、こんな所で恥ずかしいですわ」
メアリージュンはクルクルと回りながら恥ずかしいそうに顔を隠している。
「私は昔から君を……君だけ見ていた」
「昔から?何度もお花を買いに来たのも私に会いに?」
「関係の無い者は黙っていろ」
団長は低く怒りの籠った言葉をメアリージュンに投げつける。しかし。
「ほら、皆様これから大切な話があるのよ。黙ってなさい」
メアリージュンは周囲の人に睨み言い放つ。そして、自分の口にチャックをする仕草を見せつける。
「しーですわよ。しー」
目を閉じて胸の前で腕を組み団長の言葉を待つメアリージュン。
「ずっと昔からから君が好きだった。俺は……言葉が足りないがいつも君だけを想い君と一緒に……君が私の妻になる事を夢見て団長となった。私の妻になってもらないだろうか」
「団長様、は…『はい。私もエディの事を昔からお慕いしてました』…………ん?」
「そうか……良かったよ。メアリー愛してる。すぐに国王の元へ行き婚姻の許可をもらおう。すぐに……すぐに君を私の妻にしたい。君の全てが欲しい。さぁ行こうかメアリー」
「はい、エディ」
団長はメアリージュンの横を通り越しメアリーの元に行き跪き手の甲にキスをする。そして横抱きにし、急ぎメアリーの父である国王の元に行くのだった。
呆然とするメアリージュンの肩に触れるのは。
「ククッ……ずっと見てだけど……君……君……」
「うっ……」
話しかけてきた騎士を睨むメアリージュンであった。
「いや、花屋の娘が立ち入っていい場所ではないから、この場から……ククッ……ぷっ……わ、私と一緒に出て行ってもらえるかな」
「……わかりました。護衛騎士様……それでは皆様……ご協力ありがとうございました」
ペコリと頭を下げ、微妙な空気の場となった廊下を後にするメアリージュンと護衛騎士だった。
王宮の庭園のベンチにすわる。メアリージュンと護衛騎士。
「うっ……うっ……恥をかいたわ。もう……私……お嫁に行けない……うっ……」
「アメリア……泣かないで。ちゃんと、お嫁にはいけるから」
「だって……私、皆んなの前でクルクル回ったり……お口チャックしたのよ」
「あぁ、とても可愛かったよ」
頭を撫でる護衛騎士。
「最後……笑いそうになってた……」
「ごめんね……うちの団長がヘタレだからさ〜」
「うっ……うっ……」
「アメリアがあまりにも可愛いからさ……途中で抱きしめたくなってね。我慢するのが大変だったよ」
「うっ……うっ、グズッ……まだ、メアリージュンよ……」
「そうだったね……もうこんな物は取ってしまおうか」
護衛騎士の男はメアリージュンの髪に触れてカチカチと金属を外していくとサラサラの金色の髪が姿をあらわす。涙でぐちゃぐちゃの顔を拭いてあげるとハンカチには茶色で汚れる。そしてメアリージュンことアメリアの白い肌が姿を現す。
「頑張ったアメリアを抱っこしたいな〜」
「………………」
口を尖らせながら男の膝の上に乗り抱きつく。男はおでこや頬にチュッチュッとキスを繰り返す。
「ふふっ。くすぐったい」
「アメリア。やっと笑ってくれたね」
ベンチでイチャイチャする2人。
「おや副団長にアメリア様、ご機嫌よう」
「おう」
「あの副団長?先程の花屋の娘は帰りましたか?」
「ん?どうした?」
「いや……その可愛らしい子だったので……一緒にお茶でもどうかと思ってました」
「は?あのクルクル回転娘と?」
「はい、あの場にいた騎士達には好評でしたよ。あの『お口にチャック』と『しー』の姿が特にね。昔のアメリア様を思い出すと皆で言ってました」
「…………」
「アメリア良かったな褒められて」
「う……うっ……酷い……」
「ん?副団長?」
副団長はベンチの下を指差す。そこには焦茶色のカツラと茶色に汚れたハンカチが置いてあった。
「え?まさか、花屋の娘って……」
「僕の婚約者はなかなかの演技派で可愛らしいだろ」
「そうでしたか……ぷぷっ……」
「うっ……笑った……今、笑ったわね」
「すいません。アメリア様……これで団長達が式を挙げてくれれば、お2人も結婚式ですね。待ちましたからね〜かなり」
「そうなんだよ。いや〜待ちきれなくてさ。この通り」
副団長は膝の上のアメリアのお腹を撫でるのだった。
「え?副団長?」
「団長がモタモタしてるのが悪い」
「国王に怒られますね……」
「あぁ……覚悟はしてるよ」
「副団長にアメリア第2王女、ご懐妊おめでとうございます」
「ありがと……」
「ありがとな。他の奴らには花屋の娘がアメリアだと言わない様にな」
「はい。それでは失礼します」
国王にしこたま怒られた第2王女のアメリアと婚約者の副団長は、団長と第1王女のメアリーの後押しもあり、先に結婚式を近くの教会でガーデンパーティー形式で行い。部下達と教会の子供達に祝福され楽しい一日となった。
そして数ヶ月後
「ウギャーウギャー」
「アメリアありがとう。頑張ったね」
アメリアの頬にキスをする夫。
「うん。頑張ったよ。見て見て可愛いの。私達の赤ちゃん」
「あぁ可愛いな……僕がパパだ。よろしくね。僕らの可愛いお姫様」
――おしまい――
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