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黒い水

作者: ヘッツアー

 残業を終えようやく家の前まで帰り着いた。仕事が立て込んでいて数日深夜帰りが続いていた。

 コンビニで弁当を買い徒歩で家の前まで来てふと下を見た。視界の端に異物が見えたのだ。

 目前の足元に水たまりがある。

 あれ、雨降ったかな。そんなはずがない。ここ数日雨など降っていない。

 ここは高いブロック塀に挟まれた道で誰かが水を撒けるような場所でなかった。

 しかも今は深夜でこの時間に他人が通ることない、この先は自分の家しかなく行き止まりだから。

 家族の誰かが?いや家には自分しか住んでいない。両親は高齢で子どもに面倒かけたくないと介護施設に自ら入った。だから家に残っているのは自分だけだ。

 ではどうしてここに水たまりがあるのか。誰かがここに水を撒かなければ出来るものではない。

 というか、この水黒くないか。というか水か?

 外灯に照らされている液体は墨汁のように透明度がなく光を反射していた。

 なんだこれ?近くにあった小石を拾い水たまりに落としてみた。

 少し粘着性のある跳ね上がりを見せ小石は黒い液体に吸い込まれていく。

 おいおい意外に深いのか。

 どうなっているここになぜ穴があるんだ。この道は私有地でありホームセンターで買ってきて自ら敷いたタイルが敷かれているはずだ。穴などあるはずがない。

 事態の処理に脳が追いつかず呆然としていると、水たまりが揺れ出した。

 中央から周囲へ波紋がいくつも広がる。そしてー

 いきなりだった。にゅーっと水たまり中央から黒い棒のようなものが飛び出し一気に自分の頭上まで伸びていったのだ。

 思わず悲鳴を上げてしまった。ありえない事態だからだ。こんなものがこの水たまりの中に潜んでいられるはずがない。どう見てもそれは水面から2メートルは突き出している。そして水面下にはまだその先ががある。

 そしてようやく気づいたのだ、棒状のものの先端が手であることに。

 恐ろしく細くて長い黒い指が5本。その先は爪なのか指先なのかわからないが鋭く尖っている。

 その指が虚空を掴もうとしているのか開いたり閉じたりを繰り返していた。

 ぶくぶくと下で音がした。視線を落とすとー

 水たまりが泡立ち始めていた。いくつもの泡が湧いては弾けていく。これって

 水面下で誰か何かが呼吸している。直感的にそう思った。もう感情が麻痺して恐怖とか驚嘆とか表そうという意思が喪失していた。淡々と事態を観察し思考することで正気を保とうとしていたのだ。でなければ失神しているところだ。

 音が声に変わり始めていた。泡のはじける音でなく溺れて喘ぐ声の様のものが混じってきたのだ。

「ごぼがぼぐぼぐぐぼぎぐぼ・・・」

 その面は急に現れた。

 見慣れた顔だったことが精神に破綻を生じさせた。まさかそんなものがここで現れるとのほうが異常に感じられたのだ。

 視界がブラックアウトしていく。スイッチが切れ、た。




 朝になっていた。

 呆然とゆっくり起き上がる。

 なぜここに寝ている。あれ、どうして。

 記憶が蘇ってくる。咄嗟に下を見た。

 何もなかった。黒い水たまり・・・

 脳が合理的解決を求めてきたそして解決法を見つけた。

 夢だった。疲れと眠気で何かを錯覚し怯えて悲鳴を上げた。それだけだと。

 それでいいのだ。それよりも仕事にいかなければ。

 いそいで家に入りシャワーを浴びて着替えてトーストとコーヒーを飲み込むと家を出た。

 そして納得した。

 会社に着くと出張で地方の工場の視察に行っていた上司が溶液タンクに落ち命を落としたと別の部署の上司から部下たちに報告があったのだ。

 そのタンクの溶液が強い粘着性があるせいで落ちた上司が手を伸ばしたが掴んだ人間の力では引き上げることが出来ず逆に引き込まれそうになり手を離したせいで底なし沼に落ちたように溶液に吸い込まれていったと。

 ようやく引き上げたのは1時間後。溶液は黒かったせいで全身真っ黒となり、伸ばした腕がそのままで硬直していたという。

 やはりあのとき見たのは上司だったか。

 しかし、と思う。

 なぜ自分だったんだ。

 納得がいかない・・・

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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