ビール
「はぁ」
今日も疲れたなーなんて、スーツのシャツの襟元を緩め、ボタンを一つ外す。
それだけで身体は相当な解放感を得た気がする。
もう日課になりつつある、自宅に1番近いコンビニエンスストアに寄ると、そろそろ店員さんが私の顔を覚えはじめたのか、ぺこりと会釈された。
私もへこりと会釈し、1番奥にある飲料コーナーにノロノロと進んでいく。
重い扉を開けば、ひんやりとした冷気が流れてきて、ふわりと顔にぶつかった。
適当なビールを手に取り吟味していく。結局は値段と相談なので、悲しいかな、結局毎日一緒のビールになってしまうのだ。
今日も今日とて、喉越し重視の銀のアルミ缶を手に取り、数本カゴに入れていく。
適当な惣菜。
焼きイカやサラダ。
ベーコンやソーセージといった酒のつまみを数点カゴに放り込めばあっという間にカゴはいっぱいだ。
お菓子コーナーに立ち寄れば、やはりここは魅惑の誘惑コーナーで、ついつい手が伸びてしまう。
会計を待つ間にも、新発売のお菓子を見つけては、まだ入り込める隙間を探して、そこに滑り込ませていく。
店員の思惑通り、レジに向かう間にカゴの中はいっぱいになってしまった。幸せいっぱい夢いっぱいのカゴの出来上がりである。
そこそこの金額になり、そこそこ大きなった袋を受け取り、ダラダラと帰路に着く。
今日は最近お気に入りのドラマの日だ。有名なネット小説がアニメになり、ドラマになったものらしい。これがまた癖になるのである。
自然と足どりは軽くなり、気分良くマンションに入っていく。
先週のドラマはどう言うふうに終わったっけな、と思考を巡らせ、前回感動したシーンをいくつか思い出し、今回の内容を予想していく。
ついに脳みそが思い出すことを諦め、これ以上ドラマのシーンが思い出せなくなったところで、携帯を取り出した。
これは現代の病気なんだろうなぁなんて思いながら、サクサクと前回のドラマの内容を検索していく。
チン、とエレベーターが到着の合図を知らせれば、扉が左右に開き、開ききったところで中に乗り込んだ。
ガサガサと大きくなったビニール袋の重力にふらつきながら、壁に体重を預けたところで、扉が閉まる。
自分の降りる階数を押せば、ゴウン、とかすかな振動と共にゆっくり動きはじめた。
とうとう本日の予想すら諦めて、ネタバレを検索しはじめたところで、携帯の画面がチカチカと不鮮明になり、画面がくるくる回る風車が表示され、そのまま圏外になった。
おや、と思っていると、手元が暗くなったり明るくなったりを繰り返し、幾度か点滅したように私の影ができたり消えたりした。
天井を見れば、室内灯の点滅の仕業だった。
やはりこれか、と合点がいったが、それを導き出すまでにかかった時間を意識すれば、それはもう悲しいほどに時間がかかっていた。
もはやそれを恥ずかしいと自覚するまでに時間がかかっている脳みそに、呆れるしかない。
チン、という軽い音が室内に響き、まだ4階に到達していないのに突如エレベーターが止まり、扉が左右にスーッと開いた。
ん?
鈍った脳みそが回り始めた頃に、エレベーターの外、扉の先に広がる真っ暗な暗闇を覗き込めば、ギョルン、と小さな目玉が幾つも突如現れ、一斉にこちらを見た。
「うぎゃっ!」
あまりの異常かつ恐ろしい光景に、腰を抜かしそうになっていると、目玉と同じ場所からカラカラと笑声が聞こえてきた。
聞き馴染みのない、青年の笑い声だ。
その笑い声が響けば、目玉の大群はギョルンと向きを変える。
目玉が浮かぶ暗闇の中から現れたのは、自称冒険者と名乗っていたあの少年だった。