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10/12

少年




「ラーピン1号!」


 しれっとエレベーター内に現れたラーピン1号に手を伸ばせば、ヒョイと腕の中に収まった。

 口の周りにはよく見ると食べ物のカスがついている。

 ほのかに香る、この香りは……はっ!私が隠しておいたお菓子!くっどうやってとったんだこいつ。

 

「やぁ、ラーピン。久しぶり、ラーピン1号って名前をもらったんだね」


「うん。まぁね」


「おねーさん、ラーピン1号ははいい子にしてた?」


「もちろん。すごく食い意地が張ってたけど」


「ふぅん……俺のことちょっとは思い出してくれた?俺会いたくなったりした?」


「えっ」


 少年は、ゆっくりと私に近づいてきた。

 いつの間にかレッドドードーと説明された羽根の綺麗な鳥は床に降ろされ、くてんと身をくねらせている。


 近づいてきた少年は思っていたよりも背が高かくなっていた。


 少年と呼んでいいのかも悩む歳に見える。


 私がはじめて彼と出会ってから、どれほど経ったというのだろうか。

 ぐんぐん上昇しているように感じるエレベーターは、たったの一階も上がってはいない。表示はまだまだ4階には辿り着きそうにない。


「……お姉さんは全然変わらないね」


 ほんの少しの静寂の中、少年がポツリと寂しそうに呟き、腕の中のラーピンを優しく撫でつけた。ラーピンが大きな目をしぱしぱさせて気持ちよさそうに身を委ねている。


「少年は、随分、大きくなったね」


 そう言えば、ゆっくりとした動作で顔をあげる。細まった目から、ほんの少しの期待が垣間見えた気がした。

 

「それに随分格好良くなったね」


 細まった目が大きく見開いていく。

 その表情が驚愕から歓喜に移り変わっていくのがよくわかった。



「はじめて会った時は私よりも小さかったよね」

「ああ、恥ずかしいな。でもそうだったね。俺はあの時からおねーさんに会えるのが楽しみで仕方がなかったよ」


「わ、すごく…たらしっぽい」


「たらしって…、俺、おねーさん以外にこんな事言わないよ」


「それ!そういうとこだよ」

「俺は……」


 ムッとした表情になった少年は、怒り出すかと思ったら途端に寂しそうな表情になって、「俺はさ」とポツリとこぼした。


「......おねーさんに会いたいんだ。見てよ。ちゃんと。俺を」


 歪められた顔が、瞳が、今にも泣き出しそうになっている。


 ほんの少し震える手が、頬にぴたりと添えられる。どきりとした。その近すぎる顔に、心臓がうるさく暴れ回っている。


 恥ずかしくなり咄嗟に顔をひねれば、操作盤に反射して映る自分の顔が映り込む。


 目に入った顔はどうにも情けない。

 それすら見ていられなくて、結局少年の顔を見ることになってしまった。

 私の顔が熱を持っているのか、少年の手が冷えているのかはわからない。頬に触れたその手の指先は驚くほど冷えている。


「おねーさんは全然変わってない。変わっていくのは俺だけだ。もう会えなくなるかもって......心配しているのは、俺だけだ」


 小さな声で、絞り出すように話す少年は、苦しそうに唇を噛んだ。


「少年......」


 少年は苦しそうに眉をひそめ、私を睨みつけた。


「おねーさん、気づいてたかな?俺、もう少年なんて歳じゃない。もう何年も経ってる...何年も経ってるんだ。おねーさんにとっては、そうでもないんだろうね......俺にとっては、もう10年以上だ。10年以上おねーさんに囚われてる」



 コツン、と額に少年の額がぶつかる。

 クシャリ、と少年の前髪と私の前髪が混ざり合い、不思議な色合いになる。





「俺はおねーさんが好きだよ」



 チン、と機械的な、無機質な音がエレベーター内に響いた。

数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。

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