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異世界に来てもチートな能力ないんですが、なんとなく魔王様の嫁になりました  作者: 菱沼あゆ


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大団円 イケニエ花嫁の結婚


「ときに魔王様、式はあげられたのですかな?」


 そんなことを重臣のひとりに魔王は訊かれた。


「ああ、魔族は結婚式などされないのですかね?


 人間は契約に縛られる生き物。


 つい、そう言ったことを派手にやりがちですけどね」

と言って、重臣たちは笑っている。


 そういえば、エミリも結婚式の話をしていたな。


 あのときは、そのまま流れてしまったが、と魔王は列席している客たちと楽しそうに話しているエミリを見る。



 食後はみな、思い思いの場所でゆっくりしていた。


 エミリは魔王と二人、宮殿のテラスから闇に包まれた砂漠と、空一面の星々を眺める。


「エミリよ。

 結婚式をしてみるか」


「え?」


「どうやってやるのかよくわからぬが。


 ……人間は契約に縛られる生き物だと、大臣たちが言っていた。


 私は――


 お前に永遠に私の側にいて欲しい。


 そんな風に私がお前を縛りつけようとするのは迷惑か?」


 なんでしょう。

 今はそう言われることが嫌ではないです、とエミリは照れて俯く。


「結婚式とは、(つがい)になったと、おのれが信じるものに誓うこと。

 そんな風にお前は言っておったな」


 魔王はそっとエミリの頬に触れてきた。


「私は神には誓えぬが。

 お前になら誓えるぞ。


 エミリよ。

 永遠(とわ)に共に生きよう。

 楽しいときも、愉快なときも」


「楽しいときも、愉快なときもですか?

 それだとずっと楽しいですね」

とエミリは笑う。


「うむ。

 お前といると、ずっと楽しいからな。


 お前を見ているだけで、浮き立つような心地がしてくる。


 お前がいれば、きっと、どんなことでも笑って乗り越えられる――」


「……魔王様」


 そっと魔王が口づけてきた。


 魔族にキスされるとかはじめて……。


 いや、誰ともないから、どのみち、はじめてか。


 照れるな。


 っていうか、これ、どうしたら、いいのかな?

 などと、エミリがもじもじしているうちに、魔王は離れていた。


 魔王も少し恥ずかしげに視線をそらし、下を見た。


 そういえば、砂漠から謎の掛け声が聞こえてきている。


 一緒に覗き込むと、星明かりの下、兵士たちとアイーシャが師匠とともに訓練をしていた。


「うん?

 あの師匠とやらは、昔、城に攻めてきた勇者のひとりでは」


 若き日の面影が残っておる、と魔王は言う。


「つい、この間のことのような気がするのに。

 人間とは、簡単に歳をとるものなのだな」


 その言葉に、エミリはふと、不安になる。


「私と結婚して大丈夫ですか?

 人間は早くに死んでしまいます。


 魔王様、一人になられたとき、寂しくないですか?」


 魔王は微笑み、

「では、私も人間になろう」

と言い出した。


「なれるのですか?」


「お前のためにその(すべ)を探そう。

 お前のいない人生はこの先考えられないからな」


「あっ、そうだ。

 それよりも、私が魔族になったら良いのではないですか?」


「そうか。

 それがよいな」


 長くお前と共にいられる、と言われる。


「でも、どうやってなるんですかね? 魔族って」


「そうだな。

 私にもわからぬが。


 まあ、まだまだ時間はあるだろう。

 その間に考えよう」


 魔王の城でも、そうじゃなくとも、二人の時は、ゆったりと流れていた。


「はあっ」

というアイーシャの掛け声が響く中、二人はもう一度、そっと唇を重ねる――。



 翌朝、みなに報告すると、


「そうか。

 式をやるのか、それはめでたい。


 私の代わりにイケニエになってくれたお前は私の実の妹も同然。


 派手に祝ってやってやろうぞ!」

とセレスティアが宣言する。


 マーレクは、


「え?

 姫が仕切るんですか?


 嫁に行こうとするたび、相手の国が滅びたりして結婚できない姫ががっ」


 不吉じゃないですかっ、と言って、どつかれていたが……。


 急なことだったのに、みなが神の子の祝い事だからと総出で準備をしてくれた。


 エミリの奴隷仲間たちも見られるよう、砂漠に造られた開けっぴろげな神殿で式は行われることになった。


 エミリはまたあの、赤い薔薇を浮かせたロバの乳の風呂に浸けられながら思う。


 女子高生だったのに、この世界にいつの間にかいて。


 この世界で結婚しようとしている。


 これはいつか、覚める夢なのではとも思うけど。


 これが夢ならば。


 どうか、永遠に終わることなき、長い長い夢でありますように――。


 青い宝石のついた革のサンダルを履かされ、砂漠に踏み出したエミリだったが、サンダルが少し小さく、じゅっ、と熱い砂にカカトが触れる。


「あつっ」

とよろけたエミリは、


 これ、絶対夢じゃないっ、と思う。



 着飾ったアイーシャに先導され、エミリは神殿に足を踏み入れる。


 日干しレンガの神殿の中は太陽が遮られているせいで、ひんやりとしていた。


 先に到着していた魔王が自分を出迎えてくれる。


 エミリは花嫁らしい装束を身に纏っていたが。


 魔王は特に変わりもなく、いつも通りの『魔王様』だった。


 常に正装だからだ。


 魔王がエミリに手を差し出す。


 そっと大きなその手を取ると、神殿を取り囲む群衆から歓声が上がった。


 その中にはカイルたち奴隷も、ルーカスたち商人も。


 呼ばれてやってきたレオたち魔族もいる。


 もちろん、ゾウが前世な虫歯菌も――。



 大きな金の机で調印式が行われた。


 魔王がよくわからない文字を書き、拇印を押す。


 エミリは壁に書いたのと同じ文字で、エミリと書いた。


 拇印を押す。


 それを掲げ、マーレクが宣言した。


「ここに魔王と神の子の婚姻が成立した」


 わあっ、と歓声が上がる中、エミリは言う。


「いや~、だから、神の子じゃありませんってっ」


 だが、マーレクが、にやりと笑って言った。


「だって、自分でそう書いておられるではないですか」


 エミリはあの日、壁に書いたのと同じ文字で、「エ ミ リ」と表記していた。


 もちろん、それは『神の子』と読める。


「だから違うんですってばーっ」

とエミリは叫んだが。


 みなもう振る舞い酒に手をつけ、花嫁も花婿もそっちのけで騒ぎはじめる。


 誰も見ていないのをいいことに、魔王は微笑み、エミリにそっと口づけた。



 我ラハ 此処ニ 誓ウ。

 永遠ニ 共ニアルコトヲ――


           魔王

           神の子


                     完



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