なにしにここに来たんだったかな……
そのあと、歓迎の宴が開かれ、なにをしに来たんだっかな、と魔王は目的を見失う。
そうだ。
エミリを魔法の絨毯に乗せてやり。
ちょっとお互いの距離を縮めながら、コーヒー豆とやらを探す旅に出ようとしていたんだったと思い出したとき。
ちゃっかりエミリの左横に座っていたサガン王子がエミリに言うのが聞こえてきた。
「コーヒー豆ですか。
私の国に良い豆がありますよ」
「ほんとうですか?」
「貢ぎ物として贈られてくるのです。
差し上げますよ。
ぜひ、我が国にも遊びにいらしてください」
「ありがとうございますっ」
エミリが上機嫌になったのはいいが。
余計なことをしてくれるな、サガン王子、と魔王は思っていた。
エミリと二人でもっと空の旅を楽しむ予定だったのに、これでは旅が終わってしまうではないか。
というか、こいつは、アイーシャとかいうあの強烈な姫が嫁いだ国を滅ぼした奴なのでは?
いわば、敵国の王子。
いいのだろうか、こんな歓待されていて……と呑気なこの国の人々に不安を覚えるが。
よく考えたら、魔王の自分が歓待されている時点で異常だった。
大国の余裕かな、と思ったのだが、それだけではない。
今や、この国には神の子という後ろ盾があるせいだった。
おまけに、この神の子がいれば、なにかのオマケのように、魔王までついてくる。
実際、エミリのおかげで、サガン王子の国とは敵対しそうになかった。
いや、それはエミリが神の子であるせいではなかったのだが――。
エミリに笑顔を向けていたサガン王子が、ふいに、こちらを向いて言う。
「魔王様。
エミリ様はほんとうに素晴らしい花嫁ですね。
魔王様がうらやましいです。
もっと早く、エミリ様と出会っていれば……
エミリ様は神の子の使命として、魔王様のもとに嫁がれたのでしょうか?」
「いえ、イケニエに……」
とめでたい席で、余計な話を蒸し返そうとするエミリの背を、殺す勢いでマーレクが突いた。
ぐふっ、と妙な声を上げて、咳き込む神の子に、マーレクが、
「大丈夫ですか、神の子よ」
と親切そうに冷たい水の入った金の盃を差し出す。
まあ、サガン王子はイケニエのことはアイーシャに聞いて知っていたのだが。
彼は、それもまた神の子の尊い使命なのだろうと思っていた。
「いやあ、それにしても、ほんとうにお似合いですね、魔王様とエミリ様。
残念ながら、私の入り込む余地などなさそうです」
少し寂しげにだが、微笑むサガン王子に、
……なんだ、この男、いい奴ではないかっ、と魔王の機嫌も良くなった。
そのとき、いきなり、
「ときにサガン王子、アイーシャは嫁ぎ先がなくなり、嫁に行けなくなってしまったのだが。
もしよければもらってくれぬか」
と誰かが言い出した。
戦から帰ってきていた王様らしい。
セレスティア姫の方が父親より圧がすごいので、ちょっぴり影が薄いが……。
王のその言葉に、サガン王子とアイーシャは顔を見合わせ、
「いえいえ」
「はあ、まあ……」
と双方、曖昧な返事をし、愛想笑いを浮かべて誤魔化していた。
後ろでぼそりとマーレクが、
「これ、もしかして、王の策略ですかね?
アイーシャやセレスティア様が嫁入りしようとすると、その国、滅びますからね」
厄介な国に送りつけたら、戦わずして勝てそうですよね、と呟いていた。




