私を覚えておいでですかっ?
「エミリ姫っ。
私を覚えておいでですかっ」
絨毯が砂地に下りた途端、魔王を突き飛ばす勢いでやってきたその男は、ユーシリヤのサガン王子と名乗った。
「えーと。
何処かでお会いしましたっけ?」
姫、と呼ばれるということは、つい、最近の知り合いだよな?
とエミリが思ったとき、サガン王子は言った。
「この間、いきなり、我が城の謁見の間の扉を開けて、あ、という顔をなさり、すぐに消えられたではないですかっ」
あ~、あのときの、とエミリは思い出す。
会ったか会わないか、わからないくらいの邂逅だな、それ、と思った。
「あなたの美しさが忘れられず、ずっと思い焦がれておりました」
「そうなの。
それで、ここまでついて来てしまったの。
魔王様を倒して、エミリを手に入れたいそうよ」
と横からアイーシャが言う。
いや、魔王様、ここにいますけど……、と思ったが。
魔王は人間の王子の言うことなど気にも留めていないようで、物珍しげに宮殿の方を眺めていた。
「あのー、アイーシャさんとサガン王子はどんな関係なんですか?」
エミリがそう問うと、アイーシャは両の腰に手をやり言う。
「どんな関係もないわ。
この人が、私が嫁いだ国を滅ぼした縁で一緒にいるだけよ」
……いやそれ、どんな縁ですか、と思ったが。
アイーシャはサガン王子に、一宿一飯の恩義があるという。
「でも、嫁ぎ先を滅ぼしてきたって。
それ、結構危険な方ではないですかね?」
と呟くエミリに、マーレクが、
「いや、この場に魔王様以上に危険な方はいないと思いますけどね」
と言ったが。
エミリは、魔王様がこの場で一番、安全な人のような気がしていた。
「ところで、エミリ姫は神の子だと、ここの者たちに聞きましたが。
どのようなことができるのですか?」
サガン王子は期待に満ちた目でエミリを見ながら問うてくる。
いや、どのようなって……。
なにか私、できたっけな? とエミリは首を捻った。
そもそも、なんで私、神の子とか言われてんだっけ?
そう思いながら、エミリは、みなに言った。
「いいえ。
私は神の子などではありませんし。
なにもできることなどありません。
ここにいらっしゃる皆様や、あちらで休みなく働いていらっしゃる皆様の方が、私などより、よほど、できることが多いはずです」
エミリはこの場にいる重臣たちや、砂漠を行ったり来たりしながら、重い荷物を運んだりしている、かつての仲間たちを見た。
――なんという尊いお言葉っ!
エミリ様っ、とみながエミリに跪く。
もちろん、魔王とマーレク、アイーシャにセレスティア姫は跪かなかったが……。




