簡易版 空飛ぶ絨毯ができました
その頃、エミリたちは、コーヒー豆を探しに魔法の絨毯で飛び立とうとしていた。
「あの、狭いなって思うんですけど」
と言うエミリに魔王は言う。
「このサイズのものしか動かせないのだ。
仕方なかろう」
魔王は約束通り、エミリに魔法の絨毯を作ってくれていた。
いや、魔法の絨毯というか。
ルーカスから買った絨毯を魔王が飛ばしてくれるだけなのだが……。
動力源が魔王なので、エミリ一人では、飛ぶことはできない。
魔王も一緒に乗らねばならないのだが、絨毯は狭く小さく、二人で乗ると、ぎゅうぎゅうだ。
ようやく立てるくらいの広さしかない。
エミリは知らなかったが、実はこれはレオの入れ知恵だった。
「魔王様、魔王様。
せっかく魔法の絨毯を作られるのなら、エミリ様と二人、ぴったり寄り添うようにして、空の旅をお楽しみになってはいかがでしょうか?
ルーカスに小さな絨毯を用意させ、これくらいしか動かせぬというのです。
あっ、もちろん、魔王様がこの城だって動かせること、存じておりますけどね」
気を利かせてそう言ったレオの頭の中では、二人はお互いを見つめ合い、狭い魔法の絨毯の上に立っていた。
レオは更に妄想する。
後ろから魔王様がエミリ様をお支えになってもいいな。
そう思うレオの頭の中では、魔王がエミリの後ろに立ち――
現代の人間が見たら、
「……タイタニック?」
と呟きそうなポーズをとっていた。
タイタニックな感じに魔法の絨毯の上に立つ美しいエミリと堂々たる魔王。
二人の前には、美しい夕焼け。
いや、エミリと魔王自身が夕焼けの中に浮かんでいる感じだ。
完璧だっ、とレオは思っていた。
この状況なら、必ず、エミリ様は魔王様と恋に落ちられるに違いないっ。
だが、待てよ。
エミリ様が空飛ぶ絨毯の上に立つのは怖いとおっしゃるかもしれないな。
その場合は、魔王様がお座りになり、エミリ様がそのお膝にお座りになられるのもよい。
レオの妄想の中。
エミリは魔王の逞しい胸に背を預け、夕陽を見つめていた。
そのエミリの髪が暖かな風に棚引き、魔王の鼻先をくすぐる。
魔王がそれをそっと手で押さえると、エミリが魔王を振り向いた。
穏やかな夕暮れの光に煌めく瞳と瞳。
二人は極自然に見つめ合う。
完璧だっ、とまた、レオは思った。
「エミリ様」
レオが笑顔で絨毯の乗り方を提案しようとしたとき、エミリが絨毯を指差し、問うた。
「魔王様、上と下、どちらがよろしいですか?」
「は?」
と魔王とレオが訊き返す。
「一人が絨毯の上に乗り。
もう一人が絨毯を手でつかんでぶら下がったら、よいではないですか」
「いやいやいやっ。
何故、そうなるのですっ」
とレオが叫び、ルーカスが、
「いやそれ、下の奴、拷問だろ」
と言い、魔王が、
「わかった。
私がぶら下がろう。
お前に男らしいところを見せるいい機会かもしれん」
とそのまま懸垂でもやり出しそうな勢いで言う。
「おやめください、魔王様っ」
とレオが止めたとき、エミリが言った。
「いえいえ、魔王様。
言い出しっぺは私です。
私が下になりますよ」
「エミリ様もおやめくださいっ」
と叫びながら、レオは思っていた。
……ベンチの時も思ったが、エミリ様といい雰囲気になるのは、魔王様と言えど、なかなか難しそうだな、と。




