黄金の腕輪の娘
「お前の国は何処だ。
案内せよ」
なんだかわからないが、殺されそうにはないなと思ったアイーシャは、まあいいですけど、と言いかけ、はっと気づく。
「もしや、我が国も滅ぼすおつもりですか?」
「いや、単に、それと同じ腕輪をしていた娘に興味があるのだ。
娘さえ手に入れば別によい」
今逆らうことは難しそうだなと思ったとき、王子は後ろに控えていた者たちに命じた。
「どうやら、長旅をしてこられたようだ。
姫たちに食事と酒を用意せよ」
はっ、と供の兵士のひとりが何処かに伝言に行く。
食事と酒か。
じゃあ、まあいいか、とアイーシャは空腹に耐えられず、国と誰だか知らないその娘を謎の王子に売り渡しかけた。
しかし、娘って誰だろうな。
他国に嫁いだ親戚たちなら、もう国にはいないし、この人連れて帰っても大丈夫か。
セレスティアお姉様なら、こんな男の一人や二人。
簡単にやっておしまいになられるだろうし。
……待てよ。
そういえば、エミリも持っているかも、この腕輪。
エミリか。
あいつなら、大丈夫か。
本人、得体が知れないし。
エミリの側には、魔王にレオ様までいるんでしょうから。
まあ、もう魔族に食われちゃってるかもしれないけど、と思ったとき、王子が言った。
「私はユーシリヤのサガン王子だ」
「アルタイスのアイーシャです。
サガン王子、その娘には、どちらでお会いになられたのですか?」
「それが、私が王に謁見しているとき、扉を開け、急に現れたのだ。
その美しさと、えーっ? という驚いたようなマヌケ顔が忘れられなくてな」
「……それは、エミリですね。
えーっ? というマヌケ顔、間違いないです」
とアイーシャは断言する。
「ほう。
エミリというのか、その娘は。
愛らしい名だ」
「でも、エミリは……」
と言いかけ、そこでアイーシャは迷う。
もう魔王の物になってますよ、と言おうものなら、じゃあ、お前たちは用無しだと言われて。
歓待されなかったり、殺されたりするかもしれない。
いや、意外とエミリを奪いに魔王の許に行くから供をせよ、とか言い出すかもしれないな。
あっ、そしたら、レオ様に会えるじゃないっ。
私、もう嫁入り先なくなったしっ。
今、私は独り身っ。
「王子っ」
と身を乗り出し、アイーシャは言った。
「哀れなことに、エミリは魔王のイケニエとなるために。
形ばかりの花嫁として、貢がれたところなのです」
「なんとっ!
あのような美しく儚げな人を魔王へのイケニエにっ?」
……いや、今、あなた、マヌケ面をしていたと言っていましたよ。
「今ならまだ間に合うかもしれません。
奪いに行かれてはっ?」
「可哀想に、エミリよ。
まだ命あるのなら、きっと今頃、寂しさに打ち震えているに違いないっ」
いや……奴は何処でも、のんびりマイペースにやってそうですけどね。
「助けに行こう、アイーシャ殿っ」
「わかりましたわ、王子っ」
「では今すぐ出立だっ」
「いや、それはちょっと」
と慌ててアイーシャは止めた。
まだ酒も料理もいただいてなかったからだ。




