姫様は売り切れました
マーレクはロンヤードが他の長老たちに報告するのを後ろから眺めていた。
「ともかく、魔王様はエミリ様にメロメロです。
到底、取り返せそうにはありません」
残念そうな顔をする長老たちにロンヤードが言う。
「ですが、このままの方が我が国になにかあったとき、魔族に守ってもらえるのではないですか?
なにせ、ここは魔王様最愛のエミリ様の故郷なのですから」
いつの間にか横に来ていたセレスティア姫に向かい、マーレクは呟く。
「いや、故郷って。
エミリ様はもともと流れ者ですし。
奴隷としてこき使った挙句に、生贄として差し出したのに、我が国に配慮してもらえますかね?」
「さあな」
と他人事のようにセレスティアは言う。
「どうかされましたか?」
とマーレクが振り向くと、セレスティアは渋い顔をして言った。
「実は――
急遽、輿入れする姫が必要になって、アイーシャを送り出したのだが。
あれが上手くやるだろうかと不安になってな」
「すぐに送り返されそうですね……」
ふう、とセレスティアは溜息をつき、
「逆に私は嫁がなくてよくなりそうだ」
と言った。
「向こうの国が別の国に滅ぼされてしまったようなのだ。
我が国まで攻め入って来そうなんで、兄が出陣していったのだが。
兄が死んだらどうするかな」
と薄情な妹は、兄のことより、国の行く末を心配をする。
「あとの兄弟たちは不甲斐ない奴か、なにか企んでいる奴ばかり。
私が後を継ぐかな」
「それもよろしいかと」
と言ったマーレクにセレスティアが言う。
「しかし、後継者も必要だから。
結婚をして、子をもうけねばならんな。
そうだ、マーレク。
お前、私と結婚して、傀儡の王となってみるか」
「……結構です」
それくらいなら、魔王の城に行って、エミリ様にこき使われいてる方がマシです、とマーレクは言った。
「そうか。
まあ、私もお前はちょっとな」
と、では、何故言いましたか、というようなことをセレスティアは言う。
「それにしても、ちょっと姫がいることになり都合したとか。
ちょっとしたありもので作ってみましたので、これ、どうぞ、と厨房の娘が言ってくるのと変わらない感じですが」
さすがにアイーシャが可哀想になって、マーレクはそう言ったが、セレスティアは、その話の別の箇所が気になったようだった。
「お前に、そんなこと言ってくる厨房の娘がいるのか」
「はい、いつも、美味しいものを持ってきてくれますよ」
「その娘はお前に気があるのではないのか?」
「そんなこともないと思いますが」
「……お前なんぞの何処がいいのだろうかな?」
今、結婚してみるかと言ったくせに、心底疑問そうにセレスティアは小首をかしげていた。




