いいお湯でした
「いや~、いいお湯でした。
ちょっと滝の『打たせ湯』とやらで、肌が真っ赤になりましたが」
と風呂から出て、ほこほこになったロンヤードが笑う。
切れ者だが、いつもは気が合わない部下とも和気藹々入れてよかった、とエミリはロンヤードに感謝された。
葡萄酒を差し入れたのもよかったのかもしれない。
マーレクが毎度、食事のときに持ってきてくれる葡萄酒が多めなので、甕ごと置いて溜めていたのだ。
「少し打たせ湯、勢いが強すぎですかね?
ちょっと落ちるお湯の量を調節したらいいかもしれないですね」
そう言いながら、エミリがジャングル風呂の上の崖を見ると、すでにスタンバイしていた虫歯菌たちが、すぐに工事をはじめてくれる。
ロンヤードが感心したように言った。
「いや~、魔物というのは、極悪非道なことばかりを繰り返す輩なのだと思っていましたが。
意外におとなしく、従順で勤勉なのですね。
まあ、それもこれも、エミリ様に仕えているからこそなのでしょうが」
「いえいえ。
彼らが仕えているのは、私ではなく、魔王様です。
皆様、おやさしいので、私の言うことも聞いてはくださいますが」
そう断ったあとで、エミリは魔物たちを褒める。
「ほんとうによくできた方々なのですよ。
もちろん、すべての魔物がそうというわけではないと思いますので。
道中、魔物に遭遇されたときは、充分お気をつけを。
でも、この城の方々は、みな立派な魔物の方々なんですよ」
とエミリは微笑み言ったが、横で聞いていたマーレクは、
「どちらかと言うと、極悪非道なことをする方が、魔物的には立派な魔物なのでは……」
と呟いていた。
「そういえば、今、あそこで働いている魔物の中には、私の国で立派な城を築いた方に飼われていたゾウが前世だったという方もいらっしゃるのですよ」
誰がそうなのか、ちょっと見分けはつかないんだが……。
「ほう、それは尊いことですな」
そうロンヤードは頷き言ったが。
またマーレクが横から口を挟んでくる。
「立派な城を築いた方ならともかく、築いた人に飼われていたゾウが尊いかはわからないですよね」
と。




