エミリ、部屋を作る
よしっ、なんか忙しくなってきたぞっ、とエミリはロンヤードや兵士たちのための部屋の準備にとりかかる。
魔王様が同じ部屋をたくさん複製してくださるみたいだから、とりあえず、ひとつ、これと思う部屋を作ればいいわけよね?
どんな部屋が落ち着いて。
どんな部屋が便利かな。
リゾートホテルのような感じ?
エミリは想像してみた。
ふかふかのソファに大きな南国の観葉植物。
ウェルカムドリンクに、王様みたいな広いベッド。
戸惑った兵士たちが広い部屋の中央に全員で寄り添い合い、
「落ち着きませんっ」
と震える幻が見えた。
かと言って、私が奴隷としてくらしてた横穴みたいなのも情緒ないしなあ。
魔族の人たちの部屋も参考にならないしな。
あの人たち、家具とかにはこだわらないし。
休むという概念があまりないから。
とりあえず、誰にも襲われない自分の陣地があればいいみたいだしなあ。
レオのような将軍クラスの上官でも、眠るときは、なにもない穴にごろ寝しているだけのようだった。
便利なものがそろったたくさんの部屋かあ。
「あ、そうだ」
とエミリは思いつく。
魔女アンジェラが作った、人間が食べてもあまり死にそうにない草や肉で作った鍋料理が外で振る舞われていた。
要するに、魔族の役には立たない草ということなのだが。
「あの、お部屋の方ご用意できたんですけど」
とエミリは微笑み、みなに声をかける。
「兵士たちにまでとは、かたじけない。
ほんとうに我々は外で寝たのでよかったのだが。
……いや、ほんとうに外で寝たのでよかったのだが」
ロンヤードは遠慮しているのか、そう繰り返す。
特に魔物たちが怖くはないエミリは、ロンヤードたちが城に泊まりたがらない理由がピンと来ないまま、
「まあ、とりあえず、中へどうぞ」
と彼らをふたたび城に通した。
城という名の巨大な岩山の中には、長い長い廊下ができており、たくさんの木のドアがあった。
それぞれのドアの側にランプがあり、廊下は雰囲気のある感じに明るい。
そのドアの前に、レストランのボーイのような格好をした虫歯菌たちが、手に白い布をかけ、頭を下げてずらりと並んで立っていた。
虫歯菌たちが、エミリが王国から来た人間たちをもてなすと聞いて、おもてなしを買ってでたのだ。
失礼だが、そんな知能があったとはっ、とエミリは虫歯菌たちのご厚意に感謝する。




