ロンヤード、神の子にねぎらわれる
神の子エミリが王妃の椅子から、ロンヤードに声をかけてきた。
「ロンヤード様、長旅、大変でしたね。
ロンヤード様が出立されたとマーレクに聞いてから、三日経ってますよ」
ロンヤードが出発してから、マーレクはすでに九回くらい、ここに来ている。
「あの洞穴を抜けるのに抵抗があったので、古来より使われていた回り道をしてきました。
途中、賊に襲われて、謎の老人に助けてもらったり、いろいろありまして……」
「謎の老人ですか」
そんな話をしている間に、いつの間にかこの部屋の入り口に来ていたマーレクが、警戒するようにロンヤードたちを眺めていた。
……なにやら、魔王サイドに立って、こちらを窺っている気がするのだが。
マーレクよ。
お前の立ち位置は何処だ、とロンヤードは思う。
「謎の老人って、どんな方なのですか?」
一方、エミリは、ロンヤードがここに来た理由より。
この軍勢でも敵わなかった相手から、たった一人で、ロンヤードたちを助けた老人の方に興味を示しているようだった。
だが、特にそこには興味ないらしい魔王がロンヤードを見据えて言った。
「ロンヤードよ」
おお。
さすが魔王だ。
その威厳のある口調だけで、なにかの呪いにかけられそうだ、とロンヤードは、神の子エミリと並ぶと、まるで一対の至宝のごとき、美しき魔王を見上げる。
「お前はエミリを取り返しに来たのか」
なんとっ。
我々の心を読んだぞっ。
まだなにも訪問の目的は言っていないのにっ。
これが魔王の力かっ、とロンヤードは恐れ慄いたが。
魔王がそれを知っていたのは、単に、マーレクが三日に来たとき、ペラッとしゃべってしまっていたからだった。
だが、魔王の迫力にやられているロンヤードは気づかない。
「エミリ様を我が国に帰らせていただきたい。
その代わりに、別の姫をお送りいたしますので」
うやうやしく頭を下げたロンヤードに、魔王ではなく、マーレクが言った。
「別の姫って誰ですか?
まさか、アイーシャですか?
あんなものを送りつけたら、魔王様が怒って、攻め込んできますよ」
あれはやめた方がいい、と言い出すマーレクに、
だから、お前の立ち位置は何処だ~っ、と思いはしたが。
アイーシャはエミリと違い、ホンモノの姫だが。
確かに、あっちの方がニセモノ感強いな、とロンヤードも思っていた。




