熟考する長老たち
 
「でも、その血天井って、実は、大工さんが城を作るときについてしまった手足の脂が、長い年月の間に浮き出てきただけなんじゃって説があるんですよね」
と語るエミリの顔を見ながら、魔王は思っていた。
そんなに長い間、ここにいる決心をしてくれているのかエミリよ。
いつの日か、天井が血に染まるその日まで、ここにいてくれるとっ、と、
「いや、血には染まりません」
とエミリが突っ込んできそうなことを思う。
そんな魔王とエミリを見ていたマーレクは、なんだかんだで馴染んでるな、この二人、と思っていた。
給仕を終え、供の者とともに宮殿に戻ると、長老たちが待ち構えていた。
「どうされました?」
と訊くと、
「いろいろ考えたのだが。
新しいイケニエを用意して、神の子エミリを取り戻した方が良いのではないだろうか」
と言う。
「いや、あれは……、
戻らないんじゃないですかね?」
とマーレクは言った。
なんかいい感じにゴロゴロしてるからな、と思いながら。
だが、長老たちはその言葉に怯える。
「エミリ様はこの国には、もう戻らぬとおっしゃるのかっ。
我々のことなど、もう見捨てたとっ」
「いえ、そういうわけでは……」
と言いながら、マーレクは思い出していた。
先ほど、熱くエミリを見つめていた魔王を。
「魔王が返さないと思いますし」
「なんと、魔王は神の子を返さぬとっ」
「まあ、神の子を手の内にとどめておいた方が、いろいろと安心でしょうからな」
よく調べもせず、エミリをイケニエにしてしまったことを長老たちは後悔しているようだった。
いや、イケニエというか、まあ、花嫁として渡したのだが。
「誰かエミリ様を戻してくださるよう、交渉に行かせるか」
と長老たちは話し出す。
だいたい話し出したら長いので、今日明日に、話の結論が出ることもあるまい、と思いながら、マーレクは揉めている老人たちを置いてその場を去った。
 




