一瞬の邂逅
「エミリよ。
この者がお前の作った城の模型に反応しておるぞ」
と魔王が言う中、
「この建物、どこかで見たことが……」
と虫歯菌は手を震わせ、傾いた城の模型に近づいていく。
「まさか。
この魔族の人、私と同じ世界から来た人だとか……?」
そう呟いたエミリに、マーレクが訊き返す。
「この者が、神の子であるお前と同じ世界から来たというのか?
下等な悪魔だぞ?」
虫歯菌は城の模型の前で目を閉じると、遠い過去に思いを馳せるような顔をする。
懐かしいなにかの姿を見たのか、口許がやさしく微笑んだ。
そのあと、虫歯菌はカッと目を開くと、朗々とした声で名乗りを上げる。
「我が名はドン・ペドロ!
大阪城に住まうゾウなりっ!」
ゾウなのかっ。
っていういか、ゾウって、異世界の魔族に転生したりするのかっ。
……いや、まあ、そうだよな。
同じ種族にしか転生できないのなら、絶滅危惧種の魂とか生まれ変われなくなるもんな。
そんなことをエミリが考えていると、魔王が言う。
「ほう。
この者、お前が以前住んでいた国から来たのか。
では、二人で語らってもよいぞ。
話が盛り上がるであろう」
「……盛り上がりますかね?」
この方、ゾウなんで。
虫歯菌は目を閉じ、かつての大阪城や秀吉の記憶に浸っていたようだったが。
やはり、特に語り合えることはないようだった。
そして、彼らは全員同じ見た目なうえに、何処からともなく、わらわら湧いてくるので。
すぐに、どの虫歯菌が、前世、大阪城で飼われていたゾウ、ドン・ペドロなのか、わからなくなってしまった……。




