遠慮せずともよいぞ
夜、エミリはマーレクが持ってきてくれた食事を魔王とともに食べた。
「うん。
なんか人間の味がわかってきた気がするぞ」
と魔王は頷く。
いや……人間の味はわからないでください、とエミリは固まる。
人間たちが食べる料理の味が、と言いたいのだろうが。
相手が魔王なだけに、人間の味な気がして仕方がない。
……いつか食われそうになったら、このごついフォークのようなものと、ナイフのようなもので反撃しようと、エミリは思う。
「それにしても、すべり棒を消してしまってよかったのか?
なにか凶悪なものがやってきたとき、逃げる術がないではないか」
「そうですよね」
と一見、凶悪な魔王と、どう見ても凶悪な魔獣、レオが話し合ってくれてる。
「はあ。
でも、すべり棒は逆に命を落としそうだったので。
そうだ。
空飛ぶ魔法の絨毯とかあるといいですね」
ピンチになったとき、部屋の絨毯がふわりと舞い上がり、窓から空へと逃げるのだ。
「なるほど。
空飛ぶ魔法の絨毯か。
どのような構造か、よくわからぬが。
ともかく、絨毯が飛べばいいのだな。
豪奢なやつを作ってやろう。
部屋いっぱいの大きなやつを」
と魔王は頷く。
エミリは想像してみた。
部屋で魔王に襲われかけ、魔法の絨毯を、
「えいっ」
と飛ばす自分。
部屋いっぱいに広がった絨毯は、ふわりと舞い上がり。
絨毯の上にいたエミリと魔王を空の旅へと連れ出した。
……いや、駄目じゃないですか。
「あのー、魔王様。
絨毯のサイズは小さめでお願いします」
「そうか?
狭いとお前が落ちないだろうか」
「落ちない程度にお願いします」
両足の幅くらいしかない魔法の絨毯の上で、座れもせず、バランスを崩さないよう、立って飛んでいくのは勘弁だ。
「あまり大きいと窓が通り抜けられませんし」
「なるほど、そうだな。
それにしても、小さくてよいとか、お前は控えめなやつだな。
我々はもう夫婦であるのに、遠慮などしなくてよいのだぞ、エミリ」
と言って、魔王は笑っていた。




