また違う世界に転移したのかと思った……
こっちの世界に来てから、毎朝。
目は覚めたはずなんだが、またこれ、夢かな、と思う。
しかも、今日はまた景色が違った。
目覚めたとき、エミリは、狭苦しく、暗い洞穴ではなく、広々とした岩山の穴の、広々としたベッドで燦々と日に照らされていた。
――ああ、魔王の城か。
エミリは眩しさに、目をしぱしぱさせながら、ただ壁をくり抜かれただけの大きな窓を見る。
そういえば、入り口に鍵はかけたが、窓は閉められないから、このまんまだったな。
ここからいくらでも入って来れるのに、紳士だな、魔王様、とエミリが思ったとき、コンコン、とドアをノックする音がした。
「エミリ様、そろそろお目覚めですか?
マーレクが食事を運んできております」
とレオの声がする。
……朝食も持ってきてくれたのか。
っていうか、持ってきておいてもらってなんなんだが、奴は神官の仕事はしているのだろうか。
感謝しながらも不安になる。
下の広間っぽい、だだっ広い穴に行く。
ど真ん中に、ぽつんと大きなテーブルがあり。
そのテーブルにはマーレクが王宮の厨房から運んできた食事が二人分並べてあった。
魔王の分も約束通り、あるらしい。
「マーレク、朝はその辺のものでも、とって食べるからいいわよ」
エミリは申し訳なくなって言ったが、マーレクは、
「いえいえ。
魔王様にいろいろとご賞味いただいた方が、人間の味のバリエーションを早くに覚えていただけるので。
運んでこなくてよくなるかと思いまして」
と言う。
「それもそうね」
と言いながら、エミリは思っていた。
人間の味のバリエーションとか言われると、人間の作る味じゃなくて、人間の味みたいで怖いんだが……。
「でも、その辺のものをとって食べるって、なにを召し上がられるつもりだったんです?」
そうマーレクが訊いてくる。
「え? なんか森とか探してみようかと思って。
植物に詳しい魔女の人もいるし」
と言うと、レオの後ろに控えていた魔女が嬉しそうに、にんまり笑った。
ほう、と言ったマーレクは、
「本日、探索などされるのなら、私もついて行ってもよろしいですか。
魔王の森。
見たこともない薬草などありそうです」
と言い出す。
見たこともない、人が食べたら死ぬ薬草なら、たくさんありそうなんだけどね……。
そんなことを考えながら、エミリは魔王とともに、奴隷だったとき食べていたのより、具の多いスープを飲み、奴隷だったとき食べていたのより柔らかい肉を食べ。
奴隷だったとき食べていたのより、ふかふかしている気がするパンをかじった。
……気がする、くらいのやわらかさのパンを食べながら、エミリは思う。
よく考えたら、魔法で料理の再現をするのなら、この世界のパンとかより、私たちの世界のパンを作ってもらった方がおいしいんじゃない?
「……でも、それには、一度パンを作って、魔王様に食べてもらわないとな」
と呟く。
魔王をまるでパン製造機のように言いながら、エミリは食事を終えた。




