シャワーが欲しいです
悪魔の実の煮込みをみんなが食べ終わり、不思議な連帯感が生まれたころ、魔王がエミリに訊いてきた。
「バスタブを用意したが。
これに湯を入れればいいのか」
「あ、魔王様。
もしかして、シャワーとかって作れますか?」
「シャワー?」
「こう、上から水とか湯とか落ちてきて、頭から被って身体が洗えるんです」
魔王はピンとこないようだった。
「なんて言うんでしょう。
ほら……えーと、滝みたいな感じで、上からドドドドッて湯が――」
説明している途中で、
「またそんな贅沢をおっしゃって」
とマーレクが口を挟んでくる。
「いや、よいのだ。
エミリは魔王である私の妃だからな。
遠慮なく要求を言え。
みなを困らせる類いのものでなければ聞いてやる」
みなを困らせるものでないのなら、か。
魔王様、さすが魔族を統べる人なだけのことはある。
立派なことを言うな~、とエミリは思っていたが、虫歯菌みたいな小悪魔たちは、
「エミリ様のせいで、煮詰まって、より青臭くなった悪魔の実を食べさせられて、すでに困っています~」
と半泣きに呟いていた。
さわやかな風味で美味しいと思うけどな、とエミリが思っていると、魔王が言う。
「よし、お前たち、外に出ていろ。
私が声をかけたら、扉を開けよ。
立派なシャワーとやらを作って、エミリを驚かせてみせようぞ」
エミリたちは素直に廊下に出てみた。
だが、よく考えたら、ただの穴でしかないこの部屋にはまだ扉がなかった。
エミリたちは少し離れた場所に行き、魔王に呼ばれるのを待った。
「シャワーというのですか。
浴場で上から降ってくる水、何処かで見たことがある気がしますよ」
とマーレクが言う。
「あるかもしれないわね。
私たちの世界でも、古代エジプトだが、ギリシャだかにあったらしいから」
そうエミリが言いかけたとき、魔王が、
「よし、戻ってこい、お前たち」
とよく響く声で言ってきた。
エミリ、マーレク、そして、虫歯菌たちは、ワクワクしながら部屋に戻りかけたが、すでにその音は聞こえていた。
ドドドドドド……
まさかっ!?
とエミリとマーレクは慌てて覗く。
部屋の壁に本物の滝が出現していた。
すごい勢いと水量で、滝の下にある愛らしい猫足のバスタブは破壊寸前。
部屋の陽だまりで、まったりしていたはずの猫たちは轟音と水飛沫に怯え、逃げ惑っていた。
「……あの、これで頭洗ったら死ぬと思います」
死に至る滝行だ……と思いながら、エミリは魔王に言った。
「あ、やっぱ、シャワーいいです」




