なんかゾロゾロ湧いてきました
「猫飼うことにしたんですか?」
食事を持ってきたマーレクが四匹の猫に群がられながら言う。
洞穴の前に置いておくとか言っていたのに、結局、自分でここまで持ってきたようだ。
無事に届くか分からないからだろう。
「もしや、魔族の中にエミリ様おひとりではお寂しいと思って、魔王様が気を利かせて愛玩動物を?」
「……いや、その猫、さっきまで私のバスタブの一部だったんだけど」
マーレクは窓際にドン、と置かれたバスタブに気づき、
「ほう、これは素敵ですね」
と言う。
あのあと、エミリが魔王に、いろいろ説明した結果、立派な金色の猫足のバスタブが出来上がっていた。
「優雅なバスタブですね。
アイーシャとかが……
失礼。
アイーシャ様とかが欲しがりそうです」
「マーレクはアイーシャと親しいの?」
「今は別に親しくないです。
幼いころはよく遊んでいましたが。
……ところで、あなた方は何を食べてるんですか」
「いや、さっきの煮詰まったトマト、もったいないから」
魔女がこれはどうするんだと運んできたのだ。
「ケチャップにはならなかったけど。
これはこれでなんとなくおいしいよ。
ああ、この鳥とかにかけたら、おいしいかもしれない」
と言うエミリの目はマーレクが運んできた焼かれた鳥を見ていたのだが。
レオと魔王の目は、ちょうど窓というか、くり抜かれた穴の向こうを飛んでいる鳥を見ていた。
――あの鳥に、このケチャップとやらになりそこねた赤い調味料をいきなりかけて食べようと言うのかっ。
人間の女、恐ろしいっ。
我々が人間を食べることはないが。
こいつらが我々に、ケチャップをかけて食べようとすることはあるんじゃないのかっ?
と震え上がっている。
「……それで、なんで皆さんも食べてるんですか?」
石の器に入れた赤いトマト煮込みを手にした魔王たちを見てマーレクが問う。
魔王は、
「いや、エミリひとりに、この怪しい煮込みを食べさせるとか、男としてどうかと思って」
と言い、レオは、
「悪魔の実の煮込み、魔王様が食べるのなら私もと思って」
と言い、横にいた、なんか触覚の生えた虫歯菌みたいな、見ようによっては可愛い小悪魔が言った。
「レオ様が食べるのなら私もと……」
何処からともなくやってきた他の魔族たちも、震えながらみんなで次々トマト煮込みをついでは食べている。
「何かそれぞれの忠誠心を試すために、毒食べさせてるみたいになってるんだけど……」
と申し訳なく思いながら言うエミリの横で、マーレクが言う。
「私は食べませんよ。
あなたに忠誠心などないので」
「……でしょうね」
とエミリは呟いた。




