猫足のバスタブをください
「あ、この世界に猫っていましたっけね?」
エミリはそう訊きながら、想像していた。
この世界の猫。
私たちの世界の猫とは違うかもしれない。
例えば……。
エミリは目の前にいる魔獣レオのケモミミを猫っぽくして。
猫のヒゲを生やし、黄色と白でまだらな猫の尻尾をつけてみた。
……可愛くはないな。
なんか逞しい感じだし。
だが、そこで魔王が頷き言った。
「猫か。
この辺りにもいるぞ。
あの、なんだかわからないが、やたらそばに寄ってきたり、上に乗ってきたりする小さきイキモノだな」
「そ、それですっ、たぶんっ」
「そいつが現れて足元にすり寄ってきただけで、なごんで。
無礼を働いたものを皆殺しにするのをやめてしまったりするイキモノだな」
いろいろツッコミたいところだが、まあ、やめておこう、とエミリは思った。
「ところで猫足のバスタブとはどのようなものなのだ?」
「えーとですね。
白い陶器の浴槽に……
陶器……
えーと。
白い石みたいなのでできた浴槽なんですけど。
それを金色の猫の足が支えてるんです」
みんな、しんとなる。
「ふむ、わかった」
と頷いたあと、魔王は思い詰めたような顔で言ってきた。
「白い石の浴槽を金色の猫の足が支えておるのか。
やりたくはないが、お前の為なら致し方ない」
その顔つきに、エミリは、ハッとする。
まさか本物の猫の足をもいで、つけようとっ!?
「ま、待ってくださいっ」
と言おうとしたとき、ドン、と目の前に金色の猫足のバスタブが現れた。
猫の足はもがれてはいなかった。
代わりに、四匹の金色の仔猫が身体をプルプルさせながら背中で白い石のバスタブを支えている。
ひい~っ!
「や、やめてあげて下さい!」
そういう意味じゃないんですっ。
私が悪ございましたっ、ととりあえず、エミリは猫たちと魔王様に向かい、土下座する。
なんだなんだと他の魔物たちも様子を見に来ていたが。
震える猫たちの様子を見て、魔物たちも震えている。
人間の女、あんないたいけな猫たちになんてことを、恐ろしいっ、とその顔に書いてあった。
「違うんですー!
私の言い方が悪かったんです~っ。
すみません~っ」
エミリは猫たちに陳謝し、魔王様に普通の色に戻してもらって飼うことにした。




