突然、真っ白に燃え尽きました……
なにをしに来たのか、さっさと帰ろうとするマーレクをエミリは止めた。
「ねえ、最後まで聞いてよ。
マーレク、野菜のタネを融通してくれないかしら?」
エミリの頭の中では汗水たらして開墾し、タネを蒔き、水をやって収穫し。
やっと食事にありつけていた。
……実際、呑気にそんなことをしていたら、途中で飢え死にすると思うのだが。
「タネですか。
安易に他国に持ち出すのは、ちょっと。
でもまあ、エミリ様の頼みなら、大丈夫だと思いますけど」
でも、とマーレクは小首をかしげて言う。
「タネじゃなくて、野菜を持ってきたのでは駄目なのですか?」
「えっ?」
「野菜がご入用なのでしょう?
洞穴の入り口まで、何日かにいっぺん、野菜を運ばせますよ。
それじゃ駄目なのですか?
自分でタネから育てないと食べられない決まりでも魔王の城にはあるのですか?」
「……いやない。
ありがとう」
そう言い、エミリはその場に座り込む。
「どうしたんですか」
「なんか急にやる気が失せただけ。
頑張って、タネもらって育てて、早く食糧を作らなきゃって思ってたんだけど。
そうよね。
最初から野菜をもらえばよかったんだわ。
……なんなら、食堂の食事運んでもらえばいいんじゃない?」
「食堂の食事じゃなくて、エミリ様用に王宮でお作りしますよ。
半日かかると噂でしたが。
魔物との戦闘とかなければ、ここ、そんなに遠くないですし」
「あ、そうか。
そうね。
ありがとう。
うん。
なんかやる気なくなった……」
エミリは膝を抱えた。
ぐつぐつトマトは煮詰まっている。
かき混ぜなくなったせいか、ちょっとコゲ臭い匂いが辺りに漂いはじめていた。
「これっ、このままでいいんですかっ? エミリ様っ」
とマーレクがかき回すのに使っていた、魔女から借りた木のしゃもじを慌ててつかむ。
「……異世界に来ても、チートな能力ないけど。
この世界、そもそもあっても使う必要ないのでは?
って、えっ?
ここ、開墾したり、町を発展させたり、自分でおいしいものとか作ったりとかしなくていいの?
異世界なのにっ?
私、ここで、なにすればいいのっ?」
マーレクは、地面に向かい、ブツブツ言い続けるエミリの代わりに、鍋をかき混ぜながら文句を言っていた。
「あなた、ほんとに、アイーシャ様とは違う意味でめんどくさい人ですね~っ」
と。
 




