神のわざとは――
「ああそうそう」
と暗い洞穴の中を眺めながらマーレクが言う。
「その王家の香りですが、魔物を呼び込む効果があるという噂です」
何故っ!?
エミリとアイーシャは洞穴に向かい、踏み込んだ足を引っ込めた。
「その昔、王家の者に退治され、洞窟に押し込められた恨みから魔物たちが寄ってくるという説と。
もともと魔物が好む香りが組み込まれている、という説がありますね」
「な、なんで、わざわざそんなもの組み込んでるのよっ」
とアイーシャが噛み付くように言う。
「魔物を呼び出すためですかね?」
「なんのためにっ?」
と二人で叫んでいた。
だが、言ったマーレク自身が小首をかしげている。
「交渉するためですかね?
なにか境のことで話があるときとか」
いや、町役場か。
「それか、なにか協力して欲しいときとか。
あるいは、魔物を倒してレベルアップしたいときとか」
そんな適当なことを言ったあとで、
「まあ、参りましょうか」
とマーレクはさっさと洞穴に入っていく。
「たっ、倒せないわよ、私、魔物なんてっ」
とアイーシャがわめく。
「私も倒せませんが……。
あの、何処かに泉でもあったら、この香りを流したいのですが」
そうエミリは言ったが、
「ああでも、その香りは王族の証でもあるので」
いやいやまあまあ、と適当なことを言いながら、マーレクは、ずんずん中に入っていく。
早く終わらせたいのかもしれないが。
魔物が出てきたとき、この人倒せるのだろうかな?
そういや、神のわざとやらが使えるんだったな。
などと思いながら、仕方ないので、エミリもついて入る。
真っ暗ではないが、中はかなり暗かった。
「マーレクッ、光を出しなさいよっ」
先頭を歩くマーレクに向かい、アイーシャが叫んだ。
「そんなわざは使えません」
振り返りもせず、マーレクは言う。
「じゃあ、何処かで灯りをとってきなさいよっ」
「少し先が明るいです。
すぐに出口があるのかも」
「ほんとに?」
「はあ、まあ、もしかしたら」
「あんた意外と適当ねっ」
揉める二人のあとをエミリはそろりそろりとついていく。
足元がひんやりしていた。
時折、たまっているのだろう水が、ぴちゃりと足に跳ねる。
この時代の靴はサンダルなので、直接、足に水が当たって、ぞわっとしてしまう。
洞穴の水たまりかあ。
なんか住んでそうでやだな~。
地面がぬるっとしているので、たまに滑ったりして、足元がふらつくが、壁に手をつくのは嫌だった。
――絶対、足がいっぱいある虫とかがいるっ!
魔物も魔獣も見たことがないエミリにとっては、とりあえず、足がいっぱいある虫の方が怖かった。
「あ、あのー、マーレクさん」
エミリは、どんどん歩いていってしまう、マーレクに向かい、呼びかけた。
「マーレクでいいです」
「じゃあ、私もエミリでいいです。
マーレクさんは神のわざが使えるのですよね?
なにができるのですか?
虫とか倒せます?」
「なんで虫よっ」
魔獣でしょっ? とアイーシャが叫んだ。
「虫なら踏めばいいじゃない。
私でも倒せるわよっ。
って、なに懐いてんのよ、こらっ」
頼りがいのあるアイーシャの腕を思わず、つかんで振り払われた。
「虫ですか。
私は神官なので、殺生はちょっと……」
「じゃあ、魔物が近寄れないよう、結界が張れるとか?」
とアイーシャが訊き、
「虫が近寄れないよう、結界が張れるとか?」
とエミリが訊いた。
アイーシャが振り向いて言う。
「ちょっと。
虫が近寄れない結界ってなに?」
「……ベー○とか、アー○ ノーマットとかですかね?」
「なにそれ、どんな術?」
と二人で話していると、前からマーレクが言ってきた。
「私は魔物は倒せませんし、結界も張れません」
「じゃあ、なにができるのよ」
「天気が読めます」
なんだって? とアイーシャとふたり、身を乗り出した。
「明日の天気がわかります。
調子がいいときは、一週間先までわかります」
それは……
農家さんとか、漁師さんとかならわかるのでは……。
予報の精度がいいとか。
なんかすごい術でわかるとかなのだろうか、と思ったが、
「それ、どうやってわかるのよ」
とアイーシャに訊かれたマーレクは、
「空を見たり、風を読んだりですかね」
と子どもでもできそうなことを言ってくる。
いやまあ、先の天気を知ることは、この太古の文明では、すごく助かることかもしれないのだが……。
「ちょっとそれ、今、この魔窟で、なんの役に立つのよっ」
とアイーシャが心の内を代弁してくれた。




