鏡像の少女
僕は鏡の前に立っている。
「お兄ちゃん…」
鏡の中から声がする。
「私はね。お兄ちゃんが大好き…」
あぁー。
この声は僕と同じ声だ...。
そう。物心ついた時から、その声は聞こえてはいた。
もしかしたらそれ以前も聞こえていたのかもしれない。
理由は分からなかったけれど、その声は安らぎに満ちていた。
その理由は聖堂学園に入学する時、両親から語られた過去により判明した。そして、その理由を聞いた時、僕の特殊な躰の理由も知った。僕達は、一卵性双生児として産まれてくる予定だったらしい。一卵性双生児としては珍しい異性一卵性双生児だった。
だが、共に産まれてくる筈だった妹はー。
産まれてはこなかったのだ…。
双子の片方が亡くなり、お腹の内で消えた様に見える現象を「バニシングツイン」と呼ぶ。通常であれば亡くなった胎児は子宮に吸収されて消えてしまうのだが、稀に胎児が吸収されず、もう片方の胎児へ宿る事もある。亡くなった胎児がもう片方の胎児へと結合した状態を「寄生性双生児」と言い、50万人に1人の確率で起こると言われている。
僕達は、そうだった…。
その上、【ミラー・ツイン】だったのだ。
【ミラー・ツイン】
一卵性双生児の中には…。
利き手が左右に分かれていたりー
旋毛が右巻き・左巻きと対称になったりする場合がある。
左右対称の特徴を多く持っている双子を【ミラー・ツイン】と呼ぶ。受精9ー12日前後で受精卵の分裂が発生した場合に【ミラー・ツイン】になると考えられている。
【ミラー・ツイン】の中には、様々な外的要因の累積によりごく稀に全臓器反転症、すなわち内臓位置の逆転(心臓が右にある等)が生じる場合もある。
僕は全臓器反転症だった。
【ミラー・ツイン】は単に顔の外観がー。
鏡像になっているだけではない。
生物学的な相違点で示される事もある。
鏡像的に異なった【人格の形成】【生活嗜好】【睡眠パターン】等、鏡像的相違が見られる場合もある。
だからか…。
僕の内に抑制の効かない衝動がある。
優しい片割れを失っている僕…。
人を壊したい衝動を抑えられない…。
「お兄ちゃん…。」
鏡の中から響く声がある。
いや…。
この声は躰の内から響いているのだろう。
「お兄ちゃん。もう罪を重ねないでね。お願いだから…。」
その声は、僕と同じ声だ。