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夢を実現させるために『引き立て役令嬢』で小銭を稼ぐことにしました

作者: みのり

 強大国サイファン王国の片隅にある、田舎領地イムール。


 隆々と連なる山々と深い森に囲まれたこの土地を治めるイムール男爵ことウィリット・トルネットは、三年前から他領の領主や貴族からある特殊な依頼が持ち込まれるようになった。


 「イムール男爵殿、本日はお時間を頂きありがとうございます。さっそくですが、我が家もご令嬢のお力をお借りしたいと思っているのです。」


 イムールは旅に使う主要な道からも遠く離れているせいか、他国・他領から来る人々との交流はほぼ無い。領民の数は他領の半分ほどしかいない。ついでに金も娯楽も無い。そんな土地に他領の貴族が危険を冒してまでわざわざ足を運んでやって来るのには訳があった。


 「ご令嬢の肖像画をお貸し下さい!この通りです!」


 深々と下げられた頭を見下ろしながら、ウィリットは溜息を零しながらガックリと肩を落とした。その肖像画は、つい二日前に返ってきたばかりである。ちなみに同じものがあと九枚あるのだが、それらは全て()()で他領に出かけている。今度こそ十枚全てが揃ったらこの依頼を受けるのはやめようと心に決めていたのに、もう出かけることになってしまった。


 ----どうしたものか…。


 ウンウンと悩みながら深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。しかしその隣では目をキラキラと輝かせる娘が相手の見えない場所で両手を組み、盛大に喜んでいた。


*


 ことの始まりは三年前。イムール領内に住む貴族たちのいつもの集会だった。ウィリットの娘メイリーンは当時十七歳で、そろそろ結婚相手を捜し始める年頃に差し掛かっていた。


 「まったく…私の息子はもう二十五だというのに、全然結婚する気が無いのよ。」

 「私の息子もそうなの!まだ自由でいたいとか言って、遊び回ってばかりいるのよ。」


 社交界の先輩方の話を黙って聞き、適切に相槌を打つ。領主の娘とはいえ、年功序列と女同士の会話の礼儀は弁えていた。


 「今もせっかく良い縁談が来ているのに、息子は肖像画を見ようともしないのよ?どうすればその気になってくれるのかしら…。」

 「夫人が良い縁談だと仰るのなら、相手のご令嬢はきっと引く手数多でしょうね。より良い条件の方に行かれる可能性も…。」

 「あの!少しよろしいでしょうか?」


 メイリーンはサッと手を上げて二人の夫人の注意を引き、周囲の視線を一身に浴びた。領主の娘として常に視線に晒されてきたせいか、普通の令嬢なら緊張する場面でもメイリーンにとっては日常風景だ。夫人たちは互いに視線を交わし、チラとメイリーンを横目に見た。


 「あら…メイリーン様、どうぞお話し下さいませ。」

 「ありがとうございます。先程のご縁談の件ですが、私の肖像画をお使いになってはいかがでしょう?」

 「肖像画を?」


 何を言ってるのかしら、という呆れた表情を隠そうともしない夫人たちに、メイリーンはペラペラと説明を始めた。


 「そうです。実は以前肖像画を描きに来た絵師に、普通のものとは別にもう一枚描かせたものがあるのです。」

 「もう一枚…ですか?」

 「はい。それを持って、その本命のご令嬢のものと並べて見せ、こう仰って下さい。『もう一つ縁談があるの。こちらのご令嬢よ。お母様はこちらの縁談の方を進めたいわ』。そうすれば、必ずご子息はそのお相手をお選びになるはずです!」


 メイリーンは側にいた侍女のユネットに声をかけ、その肖像画を別室に運ぶように指示を出した。ユネットは幼い頃から姉妹のように育った姉のような存在だ。妹のような主人が確実に何かを企んでいる様子に呆れつつ、言われた通り布を被せた状態で運び、メイリーンのもとへ戻った。


 「ありがとう、ユネット。ではマッケナ夫人、参りましょうか。申し訳ありませんが、皆様はご遠慮下さいませね。」

 「私だけですか?」

 「はい。」


 メイリーンは困惑するマッケナ夫人にニコリと微笑みを向け、ユネットと共に先に立った。用意された部屋へと案内し、肖像画の前に立つ。最初は面倒そうにしていたマッケナ夫人も、すっかりどんな肖像画なのかと興味を引かれていた。メイリーンが最初の客にマッケナ夫人を選んだ理由はこれだった。マッケナ夫人は人一倍好奇心の強い人なのだ。


 「さて、ここからは相談なのですが、この肖像画をご覧になる前に私と取り引きをして頂きたいのです。」

 「どういったものでしょうか?」

 「とても簡単です。この肖像画の貸し出し料を頂きたいのです。」

 「つまりお金を払えと仰るのですか?」

 「そうです。その代わり、必ずご子息が本命のご令嬢をお選びになることをお約束します。」

 「いいでしょう。そこまで仰るのでしたらお支払い致しますわ。」

 「ありがとうございます。ちなみに、料金はこれぐらいです。」


 メイリーンは両手を使って金額を示した。その金額に夫人は少し考えたが、すでに好奇心が膨らんでいる。もしもダメだったらメイリーンの親である領主に訴えれば良いと結論を出し、首を縦に振った。


 「交渉成立ですね。ではどうぞご覧下さい。」


 メイリーンがユネットに視線を向けて小さく頷く。ハラリと優雅に舞い落ちる布の奥から現れたのは、一切美化修正していないメイリーンの肖像画だった。釣り上がった気の強そうな目元。父親譲りの大きな鼻と唇。尖った耳。短い首。貧相な胸元。癖毛を無理矢理まとめた髪型に日焼けた肌の令嬢が、薄ら笑いをうかべている。まるで目の前にいるメイリーンがそのまま絵の中に入ったようだった。


 「こ、これは…!」

 「どうです?まさに私そのものでしょう?」

 「それはそうですが、これではあなた様だけではなく領主様を侮辱することになってしまいます!」

 「交渉は成立したはずですよ。」

 「わざと酷い絵をご用意してらっしゃると思ったのです!」

 「ご安心下さい、父にはすでに話を通してあります。」


 メイリーンは夫人に向けてニコリと笑い、心の中であっかんべをした。父親に話をしたのは本当だが、許可は得ていない。そもそも親の言うことなど聞いたことがない。何事もダメと言われたら黙ってするのみである。メイリーンは領内でも有名な親泣かせ令嬢だった。


 「もちろん、私は一切口外致しません。マッケナ夫人はこれを持ち帰り、ご子息に縁談を決めさせるだけで良いのです。あとは返却の際に料金さえお支払い頂ければ全て丸く収まります。」

 「でも…」

 「ご子息に早く落ち着いてもらいたいのでしょう?このままでは何年先になるか分かりませんよ?」

 「う…」

 「もしどこの馬の骨とも分からない娘に入れ込んだりしたらどうなさいます?」


 声を潜め、遠慮なく心の隙間につけ込む。グイグイと押した後にしばらく間を置いてメイリーンはスッと背を伸ばした。引き時だ。


 「分かりました。突然のことで申し訳ありません。このお話は無かったことに致しましょう。ユネット、これを片付けておいて。」

 「かしこまりました。」

 「あ、お、お待ちになって!!」

 「はい?」


 白々しくキョトンとした顔を向けて、首を傾げる。メイリーンはマッケナ夫人の表情を見て確信した。


 ----かかった!


 夫人の困惑した顔に『ちょっと試してみたいかも』と書いてある。好奇心の塊を持つもの同士、匂いで分かるのだ。メイリーンは言い出しにくそうな夫人の代わりに口を開いた。


 「マッケナ夫人、これは単なる取り引きです。私から提案したものであり、私は金銭を受け取るのですから気を病む必要は一切ありません。」

 「…。」

 「試してみますか?」


 マッケナ夫人はコクリと頷いた。


*


「トーマーズ子爵家の令嬢との縁談がまとまったよ、ありがとう!」

「あなた様のことをルーンスター伯爵家にも紹介してよろしいでしょうか?」

「あなた様のおかげでアンバー子爵家のご子息も結婚することになったそうですよ。」


 十七歳から始まり、かれこれ三年。メイリーン・トルネットは『引き立て役令嬢』として縁談をゴネる息子を持つ親にとってなくてはならない存在になった。


 ----まさかこんなに儲かるとはね〜。


 最初はほんの好奇心から始めたことだった。しかしマッケナ男爵家の成功を皮切りに依頼は徐々に増え始め、気が付けば財布の中身はパッツパツに膨れ上がっていき、今では他領からも依頼を受けるようになった。


 「私の顔に泥を塗りおって!」

 「すでに泥だらけみたいな顔でしょうが!」


 肖像画の貸し出しを父親であるウィリットにバレた時、ウィリットはメイリーンを呼び付けるなり顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。しかしこれも、当然想定内である。メイリーンからすれば、大事な局面で失態を繰り返して領地をじわじわと削られているような無能貧乏領主に、今さらどれだけの体面が残っているんだと言いたくなった。言いたくなったので、言うことにした。ぐうの音も出ないとはこのことかと思った瞬間だった。


 「とにかく、私は生まれ持った自分の才能で将来の財産を蓄えているのです。」

 「お前の縁談はどうなる!いつまでも庶民に混ざって土いじりをしているつもりか!?領主の娘が!」

 「私?私は結婚なんてしませんよ。それに土いじりの何が悪いのですか。土はいろんなことを教えてくれますし、おいしい野菜を育ててくれます。」

 「お前がすることではない!」

 「それは私が決めることです。私は庶民に混ざって野菜を育て、それを食べる。そして肖像画で得た現金で必要なものを買う。好きな時に寝て、畑に出て、疲れたら休む。そんな老後を夢見ているのです。邪魔したらお父様でも許しませんよ。では、これから芽の間引き作業がありますので失礼します。」

 「あっコラ!待ちなさい!メイリーン!!」


 誰が待つかとスキップしているうちに三年が経ち、今では今朝のように堂々と父親を混ぜて交渉するようになった。事前に二人で話し合い、金額を設定する。そして報酬の一部を家計に入れることで父親の口を完全に封じた。


 手元にある最後の肖像画をのせた馬車を見送り、メイリーンはユネットと共に畑へと向かった。ユネットはすでに結婚していて、三歳になる息子がいる。結婚を機に仕事を辞めるかと思っていたが、『メイリーンの行く末が気になる』というどこか引っかかる理由でメイリーンの側に戻ってきた。


 「こんにちは、メイリーン様!ユネットさん!」

 「こんにちは、タンジさん!今日も精が出ますね!」


 すでに仕事をしている人々と挨拶を交わしながら自分の畑へ向かう。髪を束ねて腕を捲り、野菜の実り具合を確かめて回った。


 ----うん、キャベツも玉ねぎもニンジンも、よく育ってるわね。


 メイリーンは幼い頃からこうして野菜が育っていく様子を見るのが好きだった。最初は使用人の後を追って側で作業を見ているだけだったが、初めて収穫の手伝いをした時にその魅力にどっぷりとハマってしまったのだ。今思い返せば、それがメイリーンの将来設計を決めたと言っても過言ではない。予想外の気候変動や虫被害などで何度も挫折を繰り返したが、その度に畑スキルが上がっていくようで、そこにもまた喜びを感じた。これはもう、死ぬまで畑仕事をしろという天からの命かもしれないとすら思った。


 気が付けば日は傾き始め、メイリーンはキリのいいところまで作業を終わらせてから急いで帰り支度を始めた。畑に出ると多くの知人がいる。もう十年以上も付き合いがある人たちばかりで、顔を合わせればお喋りをするのも楽しみの一つだが、つい夢中になり作業の手が止まってしまうのだ。その分作業が遅れると分かっていても、これだけはやめられない。貴族同士の凝り固まった会話より、クワを片手に大きな口を開けてお喋りする方が何倍も楽しいし、メイリーンの性に合っていた。


 「ユネット、お待たせ!遅くなってごめん!」

 「まだ大丈夫ですよ。ずいぶん日が延びましたから、屋敷に着く頃はまだ明るいはずです。」

 「そうじゃなくて、ユネットはこれからまだ子供の世話もあるんだから。早く帰れなくてごめんね、って意味よ!」

 「あらまぁ、相変わらずお優しいですね。」


 明日の作業の段取りについて話しながら帰り道を歩いていると、屋敷が見えてきた辺りで二人のもとへ駆け寄ってくる人影があることに気が付いた。屋敷で働く侍従のフットだ。メイリーンよりも四歳下の新米侍従である。


 「お、お、お嬢様!大変です!」

 「どうしたのよ。お父様の髪がとうとう全部抜け落ちたの?」

 「違います!すぐに応接室に来るようにと旦那様から言付けられて来たのです!すぐにお戻り下さい!」


 メイリーンとユネットは顔を見合わせ、速度を変えることなくのんびりと屋敷に戻った。大した距離でもないのだから、今さら足を速めたところで何も変わらない。メイリーンは玄関でユネットと別れ、一人で応接室へ向かった。扉をノックして返事を待つ。そして開けられた扉に身を滑らせた。


 「お父様、お呼びですか…あら?あなたは確か…。」

 「こんにちは、メイリーン様。」


 メイリーンは応接室に入るなり、ウィリットの対面に座る若い男に目を止めた。二日前、貸し出していた肖像画を返しに来たハードン公爵家の侍従ランドルフだ。ハードン公爵家は国王一家の遠い親戚に当たり、メイリーンはとうとうそんな由緒正しい家からも依頼がくるようになったのかと内心小躍りしながら喜んでいたのだが。


 ----やっぱり、この美貌は一度見たら忘れられないわね。


 黒い髪に大きなすみれ色の瞳。スッと通った鼻筋に、形の良い唇。輝くようなきめ細かい肌。落ち着いた物腰。見ているだけで目の保養になる。しかしすでに帰路についていると思っていた侍従がなぜまだこの地にいるのか。

 ニコニコと微笑むランドルフに首を傾げたところで、ウィリットの焦り声が耳を貫いた。


 「ここここら!メイリーン!なんだその格好は!!」

 「はい?今畑から戻ってきたところなのです。すぐに来るようにと言われたからこのまま来たのですよ。」

 「だからといって泥だらけで来る奴があるか!!」

 「私は気にしませんよ。メイリーン様、どうぞお掛け下さい。」


 ランドルフはスッと手を差し出し、空いている席に座るよう促した。その仕草に違和感を覚えつつも、言われた通りにソファに座る。メイリーンが側に来た侍女に茶は要らないと言っているのを横目に見ながら、ランドルフは静かに口を開いた。


 「ではイムール男爵殿、さっそく本題に入りましょう。ハードン公爵家次男ランドルフ・ハードンは、メイリーン嬢との縁談を正式に申し込みます。」

 「は!?」

 「え!?」


 何かがガチャンと壊れる音がしてシンと静まり返る。ウィリットとメイリーンはあんぐりと口を開けて、微笑むランドルフを見返した。こんな時、口を開くのはウィリットではなくメイリーンだ。


 「え、え?あの、あなたは…いえ、あなた様はハードン公爵家の侍従ではないのですか?」

 「違います。騙してしまってすみません。」

 「えっと…確か今回のご依頼は、まさにあなた様のご縁談の引き立て役…だったと思うのですが。」

 「はい、そのようですね。」

 「ご両親にとってご本命だったご令嬢は?」

 「お断りしました。私は自分の妻になる女性は自分の目で確かめたい主義でして。こちらに来るより先に本命とやらの令嬢の肖像画を返しに行ったのですが、見た目も中身も絵と違いすぎて驚きました。」


 ランドルフはまるで他人事のような口調でその時の様子を話し始めた。


 ランドルフが侍従の振りをして本命の令嬢の屋敷を訪れた時だった。令嬢は偶然玄関の近くにいて、侍従が執事に肖像画を返しているところをバッチリ見てしまった。断られるとは思っていなかった令嬢は持っていた扇子を床に投げ付け、この世の怒りの全てを背負ったような恐ろしい眼差しでランドルフを睨みつけてきたという。


 「その後、止めに入った侍女の頬を殴って突き飛ばしてましてね。せっかくなので近所を回って彼女についての話を聞いたら、まー評判が悪いのなんの。どんなに絵が美しくとも絶対に嫌だと思いました。」

 「それでなぜ私を?私の肖像画の意味はご存知のはずです。それに何もこんな貧乏領主の娘を娶らなくとも、あなた様ならもっと良いご縁談がありますでしょう?」

 「ですから、私は自分の目で確かめると言ったではないですか。私があの肖像画を返しにきた時、あなたはただの侍従である私に対してとても丁寧に対応して下さいましたよね。」


 ランドルフがトルネット家の屋敷を訪れた時、メイリーンは長旅のせめてもの慰労にと、上等な茶葉で淹れた茶と焼き菓子を全員に振る舞った。そしてちょっとした小話で笑いを誘い、帰りの長旅の土産にしていた。しかしそれは今回に限ったことではない。遠路はるばるやって来て大金を払ってくれるお客様全員へのサービスであり、ただのおもてなしのつもりだったのだ。間違ってもこうして求婚されたかったわけではない。

 メイリーンは深く息を吸い、ランドルフの目を真っ直ぐに見つめてから頭を下げた。


 「申し訳ありません。お受けできません。」

 「メイリーン!?何を言ってるんだ!!」

 「メイリーン嬢、理由をお聞きしてもよろしいですか?」

 「私はこの地を離れたくないのです。ご覧の通り私は畑仕事が好きで、仲間と共に土いじりを一生続けていきたいと思っているのです。それが私の夢であり、唯一望んでいる人生なのです。」

 「そのようですね。実は今回も近所を回って、あなたについての話を聞いて回ってみたのです。」

 「え!?」

 「何を聞いたかは詳しくは話しませんが、あなたがいかにこの地を愛し、民を大事になさっているかはよく分かりました。教えを乞う時は相手が誰であれきちんと頭を下げて感謝を伝え、災害や獣害などで被害が出れば私財を投じて彼らを救ってきたそうですね。」


 ランドルフは立ち上がり、メイリーンのもとへ歩み寄った。そして床に片膝をつき、胸に手を当てて極上の笑顔を浮かべて口を開いた。


 「もしあなたが望むのなら、私は婿養子としてこの地に来ます。」

 「は、はい!?」

 「次男ですから、その点はお気になさらず。ですからあなたは今まで通り畑仕事を続けて下さい。」

 「え、ちょっと待って下さ…」

 「それから私はあなたが安心して畑仕事に専念できるよう、削られたこの地を元の大きさに戻してさらに豊かにしてみせましょう。お約束します。なのでメイリーン嬢、私の妻になって頂けませんか?」


 差し出された手を見下ろし、メイリーンは顔を真っ赤にして固まった。結婚など、己の人生設計の一度も・どこにも記されてなかったことだ。引き立て役の使命を全うする頃には婚期も過ぎて、クワを片手に自由気ままな独身ライフを満喫する予定だったのに。


 「ちなみに今出払っている肖像画は全て回収に向かわせています。」

 「な!?なぜそんな勝手なことを!!」

 「当然でしょう?愛する妻を道具のように扱われるのは我慢なりません。」

 「妻!?ま、ま、まだ返事は…」

 「その表情で分かりますが…そうですね、やはりきちんと聞いておきたい。」

 「う、うぅ…」

 「私と結婚して下さいますか?」

 「お、お願い致します…」


 泥だらけの手を太ももの間に隠して頭を下げる。ランドルフはメイリーンの手をそっと取り出して両手で包み、ニコリと微笑んだ。

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