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お化けの一生  作者: EFG
ハルと桜
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エピローグ


「…よいしょっと…」


 高校の入学式が近づいていた頃、建て替え工事のため、ハルと総一郎は屋敷にあるものを段ボールに詰めていた。


 新しい屋敷ができるまで、恵一の家にお世話になることになっており、その荷物をまとめていたのだった。


 ハルがテレビ台の中のものをまとめようと、テレビ台を覗き込むと一冊の本が出てきた。


「なんだこれ?」


 見たこともない本を何気なく開くと、なんと、西南小学校の図書室の本だった。


「えぇ~私、こんなの借りた覚えないんだけど…」


 裏の貸し出しカードが入ったままで、ハルの名前は書かれていなかった。


「あれ?おかしいな?

 借りる時は貸し出しカードは渡すもんだと思うんだけど…」



 ハルはしばらく考えて、あることに気付いた。



「あっ!!そういうことか!!

 桜おねぇちゃんめ~

 そういうことは言っといてよ~」


 ハルは桜に文句を言って、西南小学校に電話した。



「ごめん。総一郎。

 ちょっと、小学校に本を返してくる~」


「分かった~

 荷物まとめとくよ~

 …って小学校?」


 総一郎の疑問に答えることなく、ハルはさっさと学校に走って向かったのだった。




「失礼しま~す。」


 約3年ぶりにハルは西南小学校の職員室のドアを開けた。


「久しぶりね。加藤さん。」


 出迎えてくれたのは小学1年生の時の担任の先生だった。


「お久しぶりです。すみません。

 すっかり借りていた本を返すの忘れてまして。」


「いいのよ。大抵の人は返してくれないからね。

 返してくれるだけマシよ。」


 そう言って、先生は図書室のカギを取って、二人は図書室に向かった。


 冬休みだったので、学校は静かなものだった。



「じゃあ、返却のところに置いておいて。」


 先生にそう言われて、図書室に入ってすぐの返却ボックスに本を返した。


「あの~久しぶりに来たんで、少しだけ本を読ませてもらってもいいですか?」


「まぁ、久しぶりですものね。

 気持ちは分かるわ。

 私は職員室に戻るから、帰る時に声をかけて。」


 そう言って、先生は職員室に向かった。



 ハルは先生が職員室に行ったのを確認して、直ぐに図書室から出て、そばにある女子トイレへと向かった。



 そして、ハルは一番奥の個室まで行き、一旦、深呼吸して落ち着いてから、ドアを叩いた。


「…花子さん。いますか?」


 すると、誰もいないはずのトイレから、返事が返ってきた。


「…どうぞ。」


 ハルは言われた通り、ドアを開けた。


 すると、そこにはおかっぱの可愛らしい少女がトイレに座っていた。



「…ひょっとして、あなたがハルさんですか?」


「…はい。

 今日は桜おねぇちゃんのことで、あなたに伝えたいことがあり、来ました。」


 そして、ハルは桜が成仏した話を花子さんに伝えた。




「…そうですか。

 寂しくなりますが、あの方が笑って成仏できたのなら良かったです。」


 花子さんは笑って、ハルの話を聞いてくれた。


「え~実は笑ってたかは分からないんですよね。

 急にいなくなっちゃったから。」


「そうなんですか?

 では、結局、桜さんの「心残り」というが何だったのかは分からずじまいということですか?」


 ハルは花子さんの質問に笑って答えた。


「…多分…多分ですけど、桜おねぇちゃんの「心残り」は自分が生まれたことだったんじゃないかと思います…

 ずっと、桜おねぇちゃんは何でもかんでも自分のせいって思う節があったから…

 私が桜って名前で生まれたことを両親に感謝しないとって言ったら、成仏しちゃったんです…

 その時初めて、生まれてきて良かったって思ってくれたんじゃないかなって、私は思ってます。」


 花子さんも優しく微笑んだ。


「そうですね…

 桜さんはいつももっと自分のために物事を考えなさいと声をかけてくれたんです。

 恐らく、自責の念が強かったため、自分と同じように考えてほしくないと思っていたんでしょう。

 本当に優しい方でした。」


「そんなに優しかったですか?

 私には意地悪ばっかりしてましたよ。」


「ふふふ。私には優しかったですよ。

 でも、ハルさんの話をする時は本当に楽しそうにしてました。

 なんだか、うらやましかったですもの。」


「そうなんだ。

 まぁ、私はそう思うってだけで本当に桜おねぇちゃんの「心残り」がそうだったのかは分からないんですけどね。

 花子さんは桜おねぇちゃんから、何か聞いてませんか?」



 ハルの質問に花子さんは少し考えた後、思い出し笑いをするように言った。



「そう言えば、「私がいなくなることで、ハルが悲しんで泣いている姿を見てみたい」って言ってましたよ。

 ひょっとしたら、いなくなったと見せかけただけかもしれませんね。」



 花子さんの話を聞いて、ハルは声を出して笑った。


「ははは。それが一番桜おねぇちゃんっぽいわ~」




「じゃあ、そろそろ行きます。」


 しばらく、他愛もない話した後、ハルは花子さんに言った。


「そうですか。

 今日はわざわざ来てくれてありがとうございます。

 楽しかったです。」


「いえいえ。

 桜おねぇちゃんが図書室の本を持ち出したのは多分、友人の花子さんに伝えてほしかったんだと思いますから。」


「そうだったんですか。

 最後まで礼儀を重んじていたんですね。」


「まぁ、一言言っといて欲しかったけどね。」



 ハルは言いずらそうにしていたが、最後に花子さんに聞いた。



「…花子さんは一人で寂しくないですか?

 成仏したいとは思いませんか?

 もし、良ければ、そういう人を紹介できますけど…」


 花子さんは笑って、答えた。


「えぇ。大丈夫ですよ。

 私、トイレだけじゃなくて、一応学校全体も見えますから、元気な生徒を見ていると寂しくなんかありませんよ。

 それに私はまだ、自分に納得ができていないので…」


「でも、それじゃあ、ずっと成仏できないんじゃあ…」


「…大丈夫です。

 どんな思いも時間が経てば、風化するものです。

 だから、もう少しだけ私はここにいますよ。」


「…そうですか…」


 ハルは少し悲しそうな顔をした。


 花子さんはハルの様子を見て、笑って言った。


「やっぱり、桜さんの言う通り、ハルさんも優しい方ですね。

 いいんですよ。

 ハルさんは自分のために、自分の思うように生きて下さい。

 それが、私と桜さんの願いなんですから。」


 ハルは花子さんの顔をまっすぐ見て、満面の笑みで答えた。


「うん!!

 ありがと!!

 今日花子さんと話せてよかったよ!!」


 そうして、ハルは花子さんに手を振って、ドアを閉めた。




 小学校からの帰り道、ハルは晴天の空を見上げながら、大きめの声で呟いた。



「さてと~桜おねぇちゃんのお墓を探して、お墓参りしないと!!

 もういいよね!!

 桜おねぇちゃん!!」



 終わり


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