合格祝い
「3人とも、合格おめでとう~!!」
高校受験に無事合格したハルとヨシコ、太田がハルの屋敷に集まっている皆から祝福されていた。
合格発表の翌日、遥香が知り合い皆を呼んで、祝福パーティを企画してくれたのであった。
「今日は皆来てくれて、ありがと~
是非楽しんでってね~」
ハルは合格した安心感からか、ライブのミュージシャンみたいなことを言った。
「ハルちゃん、おめでとう~」
早速、瀬戸がハルを抱きしめに来た。
「うぐっ!!愛さん!!ありがと!!
でも、ジュースがこぼれる…」
「あっ、ごめんごめん。」
そう言って、瀬戸はハルから離れた。
「てか、既にお前にかかってるから…
しょうがないな~」
一緒に来ていた神山がハンカチで瀬戸にかかったジュースを拭いてあげた。
「おっ!仲いいね~
上手くいってるみたいで良かったよ~」
ハルは茶化すように神山に言った。
「…まぁ、君が変なこと言わなければ、仲が悪くなるようなことはあんまりないよ。」
「そうなの?
てか、私、そんな変なこと言った覚え無いんだけど。」
「…そういうのが一番たちが悪いよ…
まぁ、とにかく合格おめでとう。」
神山はため息をつきながら、ハルを祝福した。
「ちょ、ちょっとそんな男と話してないで、私とおしゃべりしようよ~」
瀬戸は恥ずかしがっている様子だった。
「だから、動くなって、まだべたべたしてるから!
ちょっと洗面所借りるよ。」
「どうぞ、ごゆっくり~」
神山と瀬戸は洗面所へと向かうのであった。
やっぱり、どちらかというと神山の方がお兄さんなんだなとハルは笑った。
すると、遥香と聡が寄ってきた。
「ハル。ヨッシー。太田君。おめっとさん!
ヨシコはともかく、まさか、ハルも私と一緒の学校に来れるとは思ってなかったよ~」
「…相変わらず、失礼なこと言うよね。遥香ちゃんは…」
「いやいや。今回は素直に感心してるんだよ。
知らぬ間にそんなに賢くなってたとは思ってなくてね。」
「ハルちゃん、3年生になってから、太田君につきっきりで勉強教えてもらってたもんね~
私も教えてもらってたけど~」
「えっ、そうなんだ。」
遥香は意外そうな顔をした。
「そうなんだよ~
ホント太田のおかげだよ~
ありがとね!」
そう言ってハルは太田の肩を強めにたたいた。
「い、いや、加藤さんの飲み込みが早かっただけだよ。
でも、僕なんかがお役に立ててよかったよ。」
太田は謙遜しながらも、ハルの感謝を受けて、嬉しそうだった。
その様子を見ながら、遥香は聡に小声で呟いた。
「…意外なライバル出現だね…」
聡はため息をついて、遥香に言った。
「だから、そんなんじゃねぇって。
というか、太田なら全然いいんじゃねぇ?」
「あれ?
なんかもう諦めちゃった感じ?」
遥香はまたも意外そうな顔をした。
「そもそもいとこだし。
妹みたいなもんだよ。
それに太田なら医者の息子で、全国でも有名な高校に合格してるし、将来有望じゃん。
親戚の俺もあやかれそうだし。」
「えぇ~なんかつまんない。
しかも、超やらしい考えだし。」
「うるせぇよ!
ホントお前って、憎たらしい奴だよな。
中学の時はそんなんじゃなかったのによ。」
聡はうんざりした様子だった。
そんな様子を見て、ハルは二人に言った。
「いつの間に二人ってそんな仲良くなったの?」
すると、聡は急に恥ずかしそうにしながら、ハルに言い訳のように言った。
「べ、別に仲良くねぇよ!!
塾が一緒ってだけだよ!!」
遥香は特に気にする様子もなく、聡に言った。
「そんな否定しなくても。
別に普通に友達なんだし。」
「…なんか似たようなやり取りを違うやつとした覚えがあるわ…」
聡は何故かがっくりしていた。
一通り、皆とおしゃべりした後、ゲーム画面が勝手に動いているのを見て、遥香が皆に言い出した。
「ねぇ。桜さんとゲームしてみようよ~」
ハルは遥香の提案に難しい顔をした。
「…やめといた方がいいよ。
桜おねぇちゃん。めちゃめちゃ強いから。」
「そうなの?
逆にどんだけ強いか興味あるわ。
いつもはなんのゲームしてるの?」
「え~と、私とはふよぷよしたりするけど、基本RPGばっかやってるね。
たま~に格闘ゲームすることもあるけど、これまた強いんだよ。
私、一回も勝ったことないもん。」
「…ほぉ…それは一つ手合わせ願いたいものだね…」
ハルの言葉を聞いて、神山が眼鏡をくいっと上げて、桜との対戦を申し込んだ。
桜は神山の真剣な表情を見て、ゲームの手を止めた。
「…いいでしょう。
あなたなら、私にも対抗できるかもしれませんね。
では、何で勝負しますか?」
ハルは桜の言葉を神山に伝えた。
「桜おねぇちゃんが勝負していいって。
何で勝負する?」
「ふよぷよでいいよ。
僕もパズルゲームは得意だからね。」
神山は自信満々に言った。
「ふふ。面白い。
かかってきなさい。」
そう言って、桜は律儀に今やっているゲームのセーブポイントまで戻って、セーブして、ゲームを消した。
そして、ふよぷよのゲームディスクをフワリと浮かせて、ゲーム機のディスク入れを空け、ディスク交換を行い、再び、ゲームを起動させた。
「なんか微妙にタイミングを外された気分だけど、相変わらず、すごいね。
やっぱり、始めはびっくりするわ。」
神山は若干ビビりながら、コントローラを手に取った。
他の皆は慣れているようだったが、異常な光景を初めて目の当たりにした瀬戸はテンション高めに驚いていた。
「すご~い!!
話には聞いてたけど、ホントだったんだね!!
めっちゃインスタ映えしそう!!」
「写真はやめといた方がいいよ。
何回か撮ったことあるけど、すごい怖く映るから。」
「そ、そうなんだ。
それはそれで、インスタ映えしそうだけど、やめとくよ。」
瀬戸は微妙に怖がって、写真を撮るのをやめた。
そうして、二人の対戦が始まった。
序盤、桜と神山の二人ともほぼ一緒のパズルの組み方になった。
スピードも同じでパズルをある程度ためてから、連鎖で消していき、相手の邪魔ぷよを相殺する形でほとんど差はなかった。
「…中々、やりますね。」
「…この組み方するって、完全にやりこんでるな…」
桜と神山はお互いを認め合っていた。
傍から見ていた皆はものすごい勢いで連鎖していく様子を見て、おぉ~と興奮していた。
二人ともほぼ互角で、連鎖のタイミング、相手に邪魔をするタイミングの勝負になっていた。
先に仕掛けたのは神山だった。
神山は桜よりも早い段階で細かな連鎖で次々と消していき、邪魔ぷよを桜に送った。
しかし、桜は邪魔ぷよに焦ることなく、ギリギリまで溜めていき、大きな連鎖を成功させた。
すると、神山はその大きな邪魔ぷよを相殺することができず、邪魔ぷよが画面いっぱいに降ってきた。
そして、桜は止めの連鎖を仕上げて、神山は敗北したのだった。
「くそ~やっぱり、先にやると負けるんだよな~
でも、本当に強いわ~」
神山は負けたが、致し方なしと桜の強さを素直に認めた。
「やはり、あなたも強かったですよ。
残念ながら、私の予想よりかは弱かっただけですよ。」
桜は勝ち誇った顔で神山に言い放った。
一応、ハルは桜のセリフを神山に伝えた。
「桜おねぇちゃんが神山さんも強かったって。
ただ、予想よりかは弱かったって言ってるよ。」
「…それ、僕に伝える必要あった?」
神山はハルの残酷な言葉にうなだれた。
「いや~桜さん本当に強かったんだね~
これ見た後だと、流石に勝負できないわ。」
「ふふ。当たり前ですよ。」
遥香の称賛の言葉に桜は得意げになった。
「でも、ボードゲームとかだったら、勝負できるんじゃない~」
ヨシコが何の気なしに提案した。
遥香も賛同して、ハルに聞いた。
「それいいね。
ボードゲーム的なゲームは無いの?」
「え~と、確か…
あったあった。
「金太郎電鉄」なら皆でできるし、いいかも。」
ハルは「金太郎電鉄」と呼ばれる日本各所を巡って、資産を増やすゲームを取り出した。
「ただ、言っとくけど、これも桜おねぇちゃん強いからね。
まぁ、運要素があるから、勝てるとしたらこれかな?」
「「金鉄」なら私も自信あるよ。
じゃあ、桜さんとやりたい人~?」
遥香は桜と「金太郎電鉄」をやるメンバーを募った。
「リベンジさせてもらおうかな。」
またもや神山が名乗り出た。
「じゃあ、僕、いいですか?」
意外にも太田が名乗り出たのだった。
「よし!
じゃあ、桜さんと私と神山さん、太田君で勝負しよ~」
「いいでしょう。
かかってきなさい。」
桜も乗り気であった。
ハルは桜がこんなに楽しそうなのは初めてかもと思い、なんだか嬉しくなって、ゲーム画面を見守っていた。
総一郎は皆の楽しそうな様子を見て、優しく微笑んだが、やはり、寂しい気持ちはぬぐえなかった。
そんな感じで祝福パーティーは楽しく続いたのだった。
「…いや~まさか、太田が優勝するとはね~
桜おねぇちゃん、3位だったじゃん。」
パーティーが終わり、皆が帰った後、後片付けをしながら、ハルは桜に嫌味っぽく言った。
「あれは太田が最後の最後に資産取り換えのカードを私に使用してきたからで、ほとんどずっと1位でしたよ!
あんなのクソゲーですよ!」
桜は悔しそうにハルに言った。
「ははは。
まぁ、あそこであのカード引く当たり、太田っぽいけどね。
流石は医者の息子。」
「それは関係なくないですか…」
桜はゲームをしながら、ハルに突っ込んだ。
「でも、楽しかったね!
また、みんな呼んでパーティーしようね~」
ハルは嬉しそうに桜と総一郎に言った。
総一郎は無理やり作った笑顔でハルに答えた。
「…そうだね。
また、いつでも皆を呼んでいいからね。」
「うん!」
そう言って、ハルはテキパキと後片付けを進めた。
桜は総一郎の様子を見て、ため息をつくのであった。
翌日、強い雨が降って、屋敷の至る所で雨漏りが発生していた。
「良く降るね~
てか、雨漏り全然直ってないじゃん。」
ハルは慣れた様子で雨漏りの箇所にバケツを置いたり、タオルを置いた後、ソファーに座りながら、愚痴を呟いた。
その様子を見て、隣に座っていた総一郎は勇気を振り絞って、ハルに言った。
「ハル。
大事な話があるんだ。」
ハルはいつもと違う様子の総一郎に戸惑いながら、総一郎に聞いた。
「急にどしたの?」
総一郎は迷いながらもハルに説明した。
「…実は屋敷の寿命が来てね…
建て替えないといけないんだ…
一度、屋敷を取り壊して、もう一度、新しい形に建て替えるんだ…」
「そうなんだ。
じゃあ、このお屋敷がきれいになるんだ!!
やったじゃん!?」
ハルは何だそんなことかと、むしろ良いことだと思い、嬉々として総一郎に言った。
そんな嬉しそうなハルを見て、総一郎は中々、その後のことを言い出せずに黙ってしまった。
ハルは総一郎の深刻そうな様子を見て、心配になり、声をかけた。
「…総一郎?どしたの?大丈夫?」
総一郎は意を決して、顔を上げて、ハルに言った。
「屋敷が無くなると、桜さんは成仏してしまうんだ。
だから、屋敷を取り壊すということは桜さんがいなくなってしまうことなんだよ。」
「えっ…」
ハルは言葉を失った。
そして、ゲームをしていた桜がハルの前にドンと立ち、胸を張って言った。
「そうです。
この度、私は成仏することになりました。」
「はっ?何それ?」
ハルは呆然とした。
「私の「心残り」はこのお屋敷を最後まで見届けることだったのですよ。
このお屋敷の寿命が来てしまった以上、私も一緒に消えていくということです。」
桜は当然のことのようにハルに自分の最後について、伝えた。
しばらく、雨がザーと降る音とバケツに雨漏りが滴るピチャンという音だけが、屋敷に響いていた。
続く