合コン ~カラオケ開始~
カラオケ店への道中、男3人と女4人が別に固まって、歩いていた。
女4人はべらべらと楽しそうに話していたが、男3人は初対面なこともあり、黙ったままだった。
神山は聡が自分よりも背が高く、明らかに体育会系の体形と態度であったため、少し警戒…というよりビビっていた。
聡は神山も太田も今まで話したことのなさそうなタイプだったため、どう話をすればよいのか考えていた。
太田は元々、話さない方だったので、比較的何も考えていなかった。
そんな空気にいたたまれなくなり、聡が神山に言葉をかけた。
「神山さん。
なんか、ハルがご迷惑をお掛けして、色々とすみません。」
聡は空手をやっているだけあって、上下関係にはきっちりしていた。
「い、いやいや、全然大丈夫だよ。
こういう扱いは慣れてるしね。」
神山は少し情けないことを言ったが、聡が礼儀正しく話してくれたことで、少し緊張がほぐれた。
「というか、君達も良く来たよね。
君達は何て誘われたの?」
「俺はハルに遊びに行こうってメールが来ただけで、他には特に。」
「僕もです。」
神山は二人の返答に少し呆れて、二人に同じようなことを言った。
「…本当にそれでよく来れたね…」
神山の言葉に聡は何故か恥ずかしそうにして、神山に返答した。
「い、いや!!
ちょっと受験勉強にも疲れて来てて、丁度遊びたい気分だったんすよ!!
ホント、それだけっすよ!!」
神山は分かりやすいな~といった表情で、少し聡のことが好きになったのだった。
そして、神山は太田にも聞いた。
「太田君はどうして今日来たの?」
太田も少し恥ずかしそうにしながら、神山に答えた。
「い、いや…僕は友達が少ないから、遊びに誘ってくれるだけで嬉しかったというか…
だから、皆さんの楽しそうな雰囲気を見てるだけで楽しいというか…」
神山はこれまた分かりやすいな~といった表情で、かなり太田のことが好きになったのだった。
聡もこいつ、いい奴だなと思ったのだった。
「…てか、桜っていうお化けの件…どう思います?」
聡は正直なところを神山に確認した。
「いや~正直、信じられないけど、あんなはっきり現象として現れるとね。
信じるしかないというか、なんというか。」
神山は何とも言えない表情で、答えた。
「僕は初めから信じれましたよ。」
太田は平気な顔をして言ってのけた。
「そうだ!!太田はなんで、そんなすんなり受け入れることができたんだよ?」
「…実は僕、悪い背後霊が憑いていたことがあって、その除霊をしてもらったことがあるんですよ。
正確には除霊できる人を紹介してもらったんですけど。」
「マジで!?除霊!?何それ!?」
なんだかんだ男子は男子で話が弾んだのであった。
そうして、一行はカラオケ店へと到着した。
「やっぱりここだったんだ。」
神山が受付をしている間に遥香が呟いた。
「遥香ちゃん、ここ知ってるの?」
「うん。何度か来たことあるよ。
…でもね…ここって実はお化けが出るって有名なんだよ…」
遥香は不気味な笑顔でハルに答えた。
「…えっ、マジで?
もう勘弁してよ〜」
ハルはすごく嫌そうだった。
「お前、お化けが見えるのに怖いんだな。」
聡が少し意地悪そうに笑って、ハルに言った。
「見えてる方が怖いんだよ!
桜おねぇちゃんだって、実は頭から血流してるんだからね!
桜おねぇちゃんに関してはもう流石に慣れたけどさ〜
見慣れない血みどろのお化けにはまだビビるよ〜」
「ま、マジか…
それはなんか、すまんかった…」
聡はハルの説明を受けて、自分でもぞっとして、素直に謝った。
その様子を見て、遥香は笑っていた。
「ははは。
まぁ、よくある話で夜中に勝手に選曲されたり、薄気味悪い女の人の声が聞こえるとかそんなだから、大丈夫だって。」
「いや、全然大丈夫じゃないよ…」
「いや、全然こえぇよ…」
ハルと聡は声をそろえて、突っ込んだのだった。
遥香はまた笑って、二人に言った。
「はは~さすがは親戚。息ぴったりだね~」
聡は少し顔を赤くして、遥香に言った。
「べ、別にそんなそろってねぇだろ!!」
「そんな必死に否定しなくても、いいじゃん。
別に親戚なんだし。」
ハルは何ともない顔で聡に言った。
「必死じゃないだろ!
…ほら、受け付け終わったみたいだし、行こうぜ!」
聡は何故か言い訳するように二人を急かした。
遥香は聡の様子をニヤニヤしながら、見ていたのだった。
そうして、皆は受付を済ませた神山に連れられて、指定された部屋へと入った。
部屋は8人くらいが入れるくらいの人数の割には広めの部屋だった。
「おぉ~~結構広いね~」
「そうだね~すごい機械がいっぱいだ~」
初めてカラオケの部屋に入ったハルとヨシコは周りを見ながら、楽しそうに話してながら、適当に隣どうしに席に座った。
そうすると、自然に女子3人と男子3人が向かい合うように座ることになっていった。
(…合コンなら席順とか重要なんだけどな~
こんな簡単に決めてくれるなら、楽でいいけど…)
神山は思っていたことを口には出さないようにした。
「飲み物は飲み放題で受付のところにあるから、適当に持って来たらいいよ。」
「すごい!飲み放題なんだ~」
ハルは驚いていた。
(…子供は本当楽でいいな…)
神山はこんなに気楽な合コンがあるだろうかと内心思っていた。
そして、神山の指示に従って、各々、好きな飲み物を持ってきた。
「じゃあ、誰から歌う~?」
皆が席に着いたところで、ハルが話を切り出した。
「主催者なんだから、お前から歌えばいいだろ。」
聡はハルを指名した。
「やだよ!!はずいし!!
大体、主催者じゃないし!!
主催者っていうなら、遥香ちゃんから歌ってよ~」
ハルは遥香を指名した。
「私は別にいいけど、そもそも合コンのカラオケってそんなに歌うものなのかな?
そこらへんどうなんですか?神山さん?」
遥香は優等生らしく、冷静に神山に聞いた。
「え~と、そうだな~
まぁでも、始めの方は適当に歌うかな~
そんで、慣れてきた頃に歌うのやめて話す感じだよ。」
神山は自分の経験してきた合コンの説明をした。
「流石、経験豊富ですね~
大人の男って感じで素敵です~
そんな神山さんの歌声聞いてみたいな~」
遥香は猫なで声で神山にお願いした。
「そ、そう?
じゃあ、歌っちゃおうかな~」
神山も悪い気がしなかったのか、曲を選び出したのだった。
「…これ、合コンじゃなくて、接待じゃね?」
聡は小さな声で呟いた。
そして、神山は若い子でも分かるような今時の曲を選曲して、歌った。
歌い終わった後、皆は拍手をして、各々感想を述べていった。
「すごいじゃん!アニソン歌うかと思ってたのに!
普通に上手なんじゃない?」
「そうだね~普通だったね~」
「素直な感じで素敵でしたよ~」
「まぁ、ちょっと特徴がないけど、普通に上手でしたよ。」
「…そうなんだよ。僕、普通すぎて、歌い方がつまらないって言われるんだよ。
…どうしたらいいんだろうね…」
神山は皆の感想を聞いて、何故か落ち込んでいた。
そんな神山の様子を見て、隣に座っていた太田が神山を励ました。
「そんなことないですよ!
とってもきれいな歌声でしたよ!!」
神山は本当にこの子は良い子だなと改めて思ったのだった。
「じゃあ、神山さんから時計周りに歌っていこうよ~
次、太田君ね~」
ハルは何の気なしに提案した。
「え、僕ですか?
…わ、分かりました!」
太田はハルに言われるがまま、曲を選んだ。
太田は見た目によらず、ビジュアル系バンドの曲を選んで、歌った。
歌い終わった後、皆は神山の時よりも大きな拍手をして、太田の歌声を絶賛した。
「すごい!!
びっくりするくらい上手いじゃん!!」
「ホントだね~すごい上手だったよ~」
「いやいや見た目に騙されたな~
ホントうますぎて、笑っちゃったよ~」
「マジで、うめぇな…」
「…僕の後に歌うのはちょっとやめて欲しかったよ…」
「い、いや~なんだか、恥ずかしいな…
実は僕、一人カラオケとかが好きで、時々、歌ってるんだ。」
太田は照れて、頭を掻きながら、少し大胆なことを言った。
「だから、そんな上手なんだ~
意外な趣味を持ってたんだね。」
ハルは素直に称賛したが、他の皆は若干、悲しそうな顔をした。
「じゃあ、次はヨッシーだけど、私とヨッシーはカラオケ初めてだから、一緒に歌お~」
「それいいね~よかった~私、一人は恥ずかしいもん~」
ハルとヨシコは勝手に二人で歌うことにして、一緒に曲を選んだ。
「なんかずるくねぇ?別にいいけども。」
聡は若干不満げであった。
「まぁまぁ。おいおい慣れてったら一人づつ歌ってもらいましょう。」
遥香はそんな聡をなだめたのだった。
そして、歌いやすそうな流行りの女性アーティストの曲を慣れない様子で二人は一緒に歌った。
遥香以外の皆は拍手して、感想を述べていった。
「うん。十分、上手だよ。
初々しくてほほえましい感じだね。」
「まぁ、いいんじゃなかったのか。」
「上手だよ。二人とも~」
しかし、遥香は何故か難しそうな顔をして、ハルに言った。
「…ハル。あんた、ほとんど歌ってなかったでしょ?」
ハルはギクッとして、遥香に言った。
「そ、そんなことないよ~一生懸命歌ったよ~
やだなぁ~遥香ちゃんは~」
遥香は真面目な顔をして、同じ曲を機械に入力して、送信した。
「ハル。今度は一人でちゃんと歌ってみなさい。
ズルはダメです。」
「えぇ~勘弁してよ~」
「そんなズルするのは私が嫌なんだよ。全く。」
「わ、分かりましたよ…」
ハルは遥香に叱られて渋々、一人で同じ曲を歌うのであった。
ハルが歌い終わった後、拍手はまばらでむしろ、皆、笑いをこらえている様子だった。
「だから、嫌だったんだよ!!」
ハルは顔を真っ赤にして、皆に言った。
そう、ハルは音痴だったのだ。
「い、いやいや。良かったよ。
今までで最高に盛り上がったから…」
遥香は腹を抱えて、笑いをこらえながら、ハルに言った。
「た、確かに一番面白かったわ…くくく…」
聡も笑いながら、遥香に賛同した。
「別にいいもん!音痴でも自分が楽しかったらいいんだよ!!」
ハルは顔を膨らませて怒っている様子だった。
神山は逆にうらやましそうにハルに言った。
「俺なんかよりよっぽど合コン向きだよ。
マジで普通にうらやましいもん…
普通じゃないって、それだけでいいもんなんだよ…
大事にしなよ…」
「大事にしないよ!!
くそ~その内、絶対にうまくなってやるんだから!!
ハルは神山の励ましに余計に苛立ち、もっと練習しようと思ったのだった。
「じゃあ、次、遥香ちゃんだよ!!」
「はいはい。分かりましたよ。」
遥香はまだ笑いが収まっていない様子だったが、ちょっと古い難しそうな曲を選んで歌った。
それはもう美声で、きれいな歌声であった。
遥香が歌い終わった後、ハル以外の皆は大きな拍手をして、称賛の声を上げた。
「マジで、めちゃめちゃうめぇな。」
「すごいよ!本物の歌手にも劣ってないんじゃないの?」
「ホントに上手~流石遥香ちゃん~」
「…本当にきれいな歌声で僕、ちょっと感動しちゃいました。」
「いや~それ程でも~
ハルはどうだった?私の歌。」
ハルはむぅとして、遥香に言った。
「…ホント、遥香ちゃんは何でもできるよね…
なんかムカつく…」
遥香は笑って、ハルに言った。
「ははは。ハルくらいだよ。
そう言ってくれるの。」
ハルは遥香の言葉を聞いて、どうしてか少し嬉しかった。
「じゃあ、最後は俺だな!」
聡は既に決めていた曲を選曲して、意気揚々とマイクを持って立ち上がった。
すると、小さな子供から大きな大人まで、皆が知っているヒーロー物のアニメの曲が流れ始めた。
「えぇ~なんでこれ~」
ハルはイントロで既にびっくりしていた。
聡は誰よりも大きな声で歌い、周りを鼓舞するようにジェスチャーした。
皆もそのジェスチャーにつられて腕を上げて、盛り上がるのだった。
その曲は決して、そんなに盛り上がる曲ではなかったが、聡の熱唱により、この日の最高潮を迎えたのだった。
そうして、聡の熱唱が終わった。
皆は盛り上がりすぎて、はぁはぁと息を上げて、拍手もまばらだった。
「…いや、上手いとか下手とかじゃなくて、良く分かんないけど、楽しかったわ。」
「でも、疲れたよ~」
「なるほど…こうやって、盛り上げるのか…勉強になるよ…」
「すごい…カッコよかったです。」
聡は皆の様子を見て、満足げだった。
「はっは~カラオケなんて、要は盛り上がったもん勝ちなんだよ!」
皆は落ち着いて、各自飲み物を飲むのだった。
「…はぁ、これで皆一通り歌ったね。
次、どうする?」
遥香はハルに落ち着いた頃に聞いた。
「フフフ…遥香ちゃん…一人、忘れてないかい?」
ハルが遥香に言うと、遥香はハッと何かに気付いた。
「桜さん!」
「そう!最後は桜おねぇちゃんに歌ってもらいましょう!!」
ハルはそう言って、桜の方に手をやった。
「私ですか?分かりました。
では、歌わせて頂きましょう。」
桜は無表情のまま、慣れた手つきで曲を選曲し始めた。
勝手に入力されていくタッチ式のタブレットを見て、男子三人はまだ少しビビっていた。
「マジでか…お化けって歌えんのか?」
聡はハルにおっかなびっくりしながら、聞いた。
「う~ん。私も初めてだから、分かんない。
てか、えらい慣れてるけど、桜おねぇちゃんってひょっとして、カラオケ来た事あるの?」
ハルは不思議に思って、桜に聞いた。
「はい。何度か来たことありますよ。
なんせ、夜中なんて何もないから暇でしょうがないですから。
その点、カラオケ店は夜中も開いてますしね。」
桜は気にする様子もなく、ハルに答えた。
ハルは全てを納得して、桜に言った。
「遥香ちゃんが言ってたお化けって、桜おねぇちゃんのことだったんだ。」
「恐らく、そうだと思いますよ。」
「えっ!そうだったの?」
遥香は驚いて、ハルに聞いた。
「どうやらそうらしいよ。
お化けのくせに桜おねぇちゃんって結構いろいろやってるからね。」
「そうなんだ。
もう全く怖くもなんともなくなっちゃったね。」
遥香は少し残念そうだった。
ふと遥香は思いつき、桜に言った。
「ちょっと待って。桜さん。
どうせなら得点でるか試してみようよ。」
「得点ですか?
そういえば採点はしたことないですね。」
選曲していた桜はそう言って、タブレットをフワリと動かして、遥香の方にやった。
遥香は慣れているようで気にする様子もなく、採点ゲームを選択して、送信した。
男子3人は勝手に機械が動いていたのにかなりビビっていた。
「こ、これはもう信じるしかないね…」
神山はもう避けることのできない事実として、桜を受け入れることにした。
「これでよしと。はい。どうぞ。
桜さん。」
そして、遥香はそう言って、恐らく桜がいるであろう場所付近にタブレットを返した。
「どうも。」
桜は返されたタブレットで、再び選曲を始めた。
桜の様子を見て、ハルは桜に聞いた。
「やっぱり、昔の演歌とか歌うの?」
桜は笑って、ハルに言った。
「ふふふ。まぁ見てなさい。」
そう言って、桜は曲を決めて、送信した。
流れてきたのは昨年、最も流行ったアップテンポなJ-POPの曲だった。
「えぇ~!!」
ハルは驚いて、思わず声を上げたのだった。
そして、桜は歌いだしたのだが、ハルには遥香よりも上手で、とても気持ちのこもった歌声に聞こえて感動すら覚えたのだった。
しかし、他の皆には違う聞こえ方をしていたようだった。
ただ、採点ゲームで出てくる音階に見事に当てはまっていくのを見て、皆はただただ驚いていた。
(なんで何も聞こえないのに、音階合ってんだよ…)
(すごいうっすら聞こえるけど、怖いわ…)
(お化けの声って、こういう風に聞こえるのか~すごいな~)
男子3人はもう何が何だかと言った感じだった。
曲が終わり、ハルは大きな拍手をするが、他の皆はあっけにとられた顔をしながら、まばらな拍手となっていた。
そして、採点結果が発表され、結果、なんと「95点」とかなりの高得点だった。
「すごいじゃん!!めっちゃ上手かったもん!!
こんな特技があったとは!!
ねぇ?皆もそう思うでしょ!?」
ハルは興奮しながら、他の皆の感想を聞いた。
「いや、正直こえぇよ!!
なんも聞こえなかったし!!」
聡は普通に怖がっていた。
「私も何にも聞こえなかったけど、ただ音階通りにはまっていくのが見えて、何か笑っちゃったよ。」
「私も~面白かったよ~」
遥香とヨシコは桜に慣れているせいか、面白がっていた。
「僕はすんごいうっすら女性の声が聞こえたけど、それがまた一段と怖かったよ…」
「僕も小さいけど女性の声が聞こえて、お化けの声ってこんななんだと思って、何か勉強になったよ。」
神山と太田には少しだけ桜の声が聞こえたようだった。
「もったいないな~ホントに上手だったんだから~」
ハルは何故か自慢げに皆に言ったのだった。
桜は皆の聞こえ方の違いを感じて、なるほどと言った顔をしていた。
「どうやら、お化けの声の聞こえ方には差があるみたいですね。
所謂、「霊感」の違いということなんでしょうか。
中々興味深いものですね。」
「桜おねぇちゃん。総一郎みたいなこと言ってるよ。
でも、ここに総一郎がいたら、絶対、もっと実験とかしてるよね~」
「確かに。」
ハルと桜は顔を見合わした。
ハルにはそれがなんだか面白くて、笑った。
続く