合コン ~待ち合わせ~
「…今日来る男の子って、どんな感じの人なの?」
合コン当日、ハル、遥香、ヨシコ、桜の女子4人組は少し早目に待ち合わせ場所に向かっていた。
「えっと、一人は私と同い年の子で落ち着いた子かな。
もう一人は遥香ちゃんと同い年の先輩になるね。
最後の一人は社会人なりたての人を呼んでみたよ。
合コンについて良く知ってるかなって思って。」
「中々バリエーション豊かな人達だね。」
「うん。
実は3人ともお互い面識ないから、早めに待ち合わせの場所に行っとかないと超気まずいんだよね。」
「…良くそんな人達を呼べたもんだね。」
遥香は少し呼ばれた3人を気の毒に思った。
そして、待ち合わせの場所に到着すると、ビシッと黒のジャケットを腕まくりして、七分丈のズボンのポケットに片手を突っ込みながら、携帯をいじってそわそわしている眼鏡の男が立っていた。
「神山さん~早いね~久しぶり~」
ハルはそのどこにでもいるような大学生ファッションの男、神山に声をかけた。
「お~久しぶりだな~
あれ?てか、その子達は?」
神山は久しぶりに会ったハルに挨拶をしながら、何故か不思議そうな顔をして、遥香とヨシコを見た。
「中学三年の志岐遥香です。
今日はよろしくお願いします。」
「ハルちゃんと同い年の武田良子です~
よろしくお願いします~」
遥香とヨシコは神山に挨拶した。
「あ、あぁ、こちらこそよろしく。
えっ?あれ?
今日ってハルとハルのお姉さんが来るんじゃなかったの?」
神山は二人に挨拶されたものの腑に落ちていない様子でハルに聞いた。
「あれ?
二人が来るって言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!!
お姉さんを紹介してくれるって言うから来たのに!!
…まさかと思うけど、あいつも今日来るとかはないよな?」
神山は聞いていた話と違っていたことに驚いたことと、「あいつ」、即ち、彼女である瀬戸もひょっとしたら来るんじゃないかと、恐る恐るハルに確認した。
「大丈夫。
愛さんも呼んでみたけど、バイトで来れないんだって。」
「そ、そうだよな。
良かった良かった…」
神山は彼女がいるにも関わらず、女の人を紹介してもらうという行為が瀬戸に知られたら、まずいと思っていたため、安心した。
「でも、桜おねぇちゃんを神山さんに紹介するって話はちゃんと愛さんにしたよ。」
「僕、何か君に悪いことしたっけ?」
神山はハルの残酷な宣言にうなだれた。
そんな話をしているともう一人の男が到着した。
「…お、遅れてすみません!」
「あ、太田君。
大丈夫だよ。全然遅れてないから。」
太田はポロシャツにスラックスといったオーソドックスな服装ながらも、流石は医者の息子と言ったところか、いいとこの坊ちゃんみたいな恰好だった。
「やっぱり、太田君だったんだ~
だって、同い年で接点ある男の子って、太田君くらいしかいないもんね~」
ヨシコは失礼なことを平気で言った。
そして、太田に若干遅れて、最後の一人がやってきた。
「思ったより、人多いな。おい。」
「サトにぃが一番最後だよ~遅いよ~」
「遅くねぇだろ!ちゃんと5分前に来てるだろ!」
最後の一人は総一郎の兄である恵一の息子、聡であった。
同じ「川田道場」に長年通ってるだけあって、いつしか呼び方が「聡お兄ちゃん」から「サトにぃ」に変化したのだった。
聡は空手をやっているだけあって、シュッとした体形で、Tシャツにジーパンのすっきりした格好だった。
「あれ?加藤君じゃん。
加藤君て、ひょっとしてハルの親戚なの?」
「そうだよ。いとこなんだよ。
そっか、サトにぃも南小出身で同じ中学だもんね。よく考えたら。
学校で見たことないから、忘れてたよ。」
「忘れんなよ…
1年と3年で会うことが少ないのは分かるけどもよ。」
聡は呆れて言った。
遥香はハルと聡が親戚だったのが、意外で驚いていた。
「へぇ~そうだったんだ~
3年になって初めて同じクラスなったばかりだから、お互いあんまり話したことないね。」
「そうだな。でも、流石は優等生だな。勉強は余裕な感じなんだ?」
「それを言ったら、加藤君もじゃん。」
「…まぁ、たまには息抜きも必要だろ。」
「そうだよね~分かる~」
遥香はまだ若干猫をかぶっている様子だった。
「…てか、男もいるんすか…
何故に僕は呼ばれたんですかね?」
うなだれていた神山がハルに聞いた。
「えっと、私達は合コンというものをしてみたくて、皆を誘ったんだよ。
で、神山さんて合コンについて詳しいでしょ?
だから、合コンの仕方を教えてほしいんだよ。
あと、ワンチャン社会人だし、奢ってくれるかなって。」
「君は本当に僕のことを何だと思ってるんだ。」
神山はハルの悪びれもしない態度に呆れた。
「てか、お姉さんも来てないし…
本当にひどい仕打ちだよ…」
神山は本当にがっかりしていた。
「桜おねぇちゃんなら来てるよ。
皆にもちゃんと紹介しておくね。」
「えっ?どこに?」
神山は必死で回りを見回した。
そんな中、ハルは持っていたカバンの中からタブレットを取り出して、男3人に見せた。
神山、聡、太田が不思議そうにタブレットを覗き込むと、触れてもいないタブレットが光って、メモアプリが起動して、文章が書きこまれた。
「始めまして。東雲桜と申します。
お化けではありますが、以後、お見知りおきを。」
3人は固まった。
「えっ?なにこれ?どゆこと?」
「ど、どうなってんだよ?これ?」
神山と聡は慌てふためいていたが、太田は何か納得した様子だった。
「…まぁ、加藤さんにお化けの知り合いがいてもおかしくないか…」
「なんでだよ!?
普通ビビるだろこんなの!!」
聡は太田の様子を見て、突っ込んだ。
そんな驚いている男3人の様子を見て、ハル、遥香、ヨシコはケラケラ笑っていた。
「ほ、ホントに分かんないんだけど、これどうやってるの?」
神山はどうしても聞かざる負えない様子だった。
「だから、桜おねぇちゃんが操作してるんだって。
皆には見えてないけど、私には見えてるの。
今、3人の目の前でふわふわ浮いてるよ。」
神山と聡はハルの言葉を聞いて、ビクッと一歩後ろに下がった。
「…嘘だろ…お前、ホントにお化けが見えてたってことかよ…」
すると、聡に返事するようにタブレットに新たに文章が書きこまれた。
「そうですよ。
ハルからあなたの話は聞いていますし、あなたの空手の試合も何度か見ましたよ。
いい正拳突きをするじゃないですか。
今後に期待していますよ。」
聡は桜の返答を読んで、少し嬉しそうだった。
「…良く分かってる人じゃん。
まぁ、本当にハルにお化けが見えてるなら、納得できる部分はあるしな。
ここは男らしく、認めるか。」
「いやいやいや、全然納得できないよ!!
えぇ~マジでぇ~」
神山は完全に引いていた。
桜は神山の様子を見て、しょうがないとタブレットに文章を入力しだした。
「あなたには大変お世話になりましたね。
おかげ様で「サガスト2」は無事、クリアできましたよ。
ありがとうございます。
今日のあなたの服装は素敵ですよ。」
「…この人、いい人だな。
お化けにもこの服装が分かる人がいるんだな…」
神山はその文章を読んで、簡単に心を許したのだった。
ハルもタブレットを覗き込んで、桜の返答を読んで、少し意外に思った。
「桜おねぇちゃんもお世辞って言えるんだね。」
「だから、君はさっきから僕を傷つけることしか言ってないよ?」
「じゃあ、紹介も終わったことだし、神山さん。
私達、合コンって何したらいいか分かんないから、早速教えてほしいんだけど。
桜おねぇちゃんはこの町以外は行けないから近場でね。
ちなみに、神山さんは今日、どこに行くつもりだったの?」
ハルは神山の突っ込みを軽くスルーして、今後の方針を決めてもらうことにした。
「…結局、中学生6人とお化けが1人か…はぁ…
いや、僕は今日、お姉さんとハルと3人だと思ってたから、おしゃれなカフェとかに行こうと思ってたんだよ。
でも、ちょっと人数多いから、騒いでも良いとこじゃないし…
合コンっていうなら、普通は居酒屋とかだけど、君たち中学生だしな~
行くとしたら、ボーリングとかカラオケかな?」
神山は全てを諦めて、付き合うことにして、皆に行き場所の提案をした。
「ボーリングかカラオケかぁ~
二つともやったことないや。
でも、楽しそうだね。
皆どう?」
ハルは皆に聞いた。
「うん。いいと思うよ。」
「私も~」
「いいんじゃねぇか。」
「…僕は何でも大丈夫ですよ。」
他の皆も賛成した。
「じゃあ、ボーリングとカラオケどっちにするかだけど、神山さん、どうしよ?」
「…マジで、全部、僕が決めるのか…
ボーリング場はこっから遠いし、カラオケの方がいいと思うけど。」
神山はもうどうとでもなれとカラオケを提案した。
最後にハルは桜に確認した。
「桜おねぇちゃんはカラオケでもいい?」
「別に私に気を遣うことは無いですよ。
どこでも構いません。
正直、あなた達を見てるだけで、ちょっと面白いですし。」
桜は少し意地悪な返答をした。
「よし!じゃあ、カラオケにいこ~!!
神山さん、場所案内してね~」
「分かりましたよ。
じゃあ、ついてきて。」
「…しかし、カラオケですか…久しぶりですね…」
桜は小さな声で呟いた。
「えっ、今なんか言った?」
「別に。何も言ってませんよ。」
そうして、神山、ハル、桜、遥香、ヨシコ、聡、太田の計7人はぞろぞろとカラオケ店へと向かうのであった。
続く