ハルの信じていること
「この手のお化けは気が済んだら、勝手に成仏するよ。
大丈夫。死ぬまでのことは無いから。
ただ、ちょっと暗い気持ちになるくらいだよ。」
相馬はなんてことは無い顔をして、ハルと太田に言った。
ハルは無神経な相馬の一言に怒った。
「そんなのおかしいでしょ!!
あんたは太田君がどれだけ苦しんでるか知ってるの!?」
相馬は笑って答えた。
「生きてる人の気持ちなんて、分からないよ。
大体、今日初めて会って、話すらほとんどしてない人の気持ちが分かる訳ないよ。」
ハルはこれまでになく怒った様子で大きな声で相馬に反論した。
「それでも、太田君は苦しんでるんだよ!!
尊敬してるお父さんに心配されてるのが嫌だし、そんなお父さんがいじめをしていたなんてことを知って、しんどいわけないでしょ!!
それを助けてやろうって気持ちにはならないの!?」
相馬はうんざりした様子で、ハルに答えた。
「だから、因果応報なんだって。
お父さんがいじめなんてしなければ、こんなことにはならなかったんだよ?
この中で一番苦しんでいるとしたら、このお化けだよ。
そんなお化けを志半ばに除霊しようっていう方がおかしくない?」
「そうかもしれないけど、絶対に全部が全部、太田君のお父さんのせいなんかじゃない!!
大体、人を恨むなんてことが正当化されるなんて、私は全く思わないよ!!」
「もういいよ!!加藤さん!!」
相馬とハルが言い合っているところに太田が声を上げて止めた。
太田は一旦深呼吸して、落ち着いてから、話し出した。
「…ありがとう。加藤さん。
僕のためにそこまで言ってくれて。
正直、父さんがいじめをしていたなんて、まだ信じ切れていないけど、それは帰ってから本人に聞くよ。
それよりも本当に原因が父さんにあるのなら、僕は甘んじて、この状況を受け入れるよ。
…多分、それが一番、まっとうなことだと思うから。」
太田の言葉を聞いても納得できていないハルはまだ怒った様子で言った。
「だから、おかしいって!!!そんなの!!!
そんなこと絶対に思ってないでしょ!!」
相馬は呆れた顔でハルに言った。
「本人が言ってるんだから、いいじゃないか。
今、一番自分勝手なのは君ってこと分かってる?」
「分かってるよ!!
全部、自分のために言ってるよ!!
太田君のお化けが除霊されないと後ろの席の私が授業に集中できないから、除霊してもらわないと私が困るんだよ!!
それが何か悪いの!?」
ハルは胸を張って、大胆なことを言ってのけた。
相馬は嘲笑気味に笑って、ハルに言った。
「それって、所謂逆切れってやつだよ。
君は自分のためにしか物事を考えられないのかな?」
「そんなの当たり前でしょ!!
私は桜おねぇちゃんとか遥香ちゃんとかヨッシーに「他人のことを考え過ぎ」っていっつも言われてるんだよ?
だから、自分のために考えて、生きるように努力してるんだよ!!
それを私は絶対に否定されたくないね!!」
ハルはまっすぐ相馬を見て、話を続けた。
「自分のために考えるから、自分のことが好きになれて、成長できて、他人に優しくできるんじゃないの?
他人のために何かを考えちゃうから、誰かを恨んだり、妬んだりしちゃうんじゃないの?
そのお化けだって、もっと自分のためだけに生きれば、もっと自分がやりたいことだけやってれば、こんなことにはならなかったんじゃないの?
太田君だって、お父さんのためって考えすぎなんじゃないの?
そんな考え方してたら、きっとお父さんのことが嫌いになっていくんじゃないの?
だから、自分勝手に生きるのは悪くないって、私は信じてるんだよ!!」
ハルの話を聞いて、相馬と太田は黙ってしまった。
そして、ハルは最後に相馬に強く言った。
「いいから、私のためにこのお化けを除霊しなさい!!」
相馬は少し黙ったままだったが、ハルの気迫に根負けしたのか、ため息をつきながら、太田に憑いているお化けに手を当てて、再び、目を閉じた。
すると、お化けがふっと消えていったのだった。
「…全く。代金は加藤先生にでも請求してやろうかな…」
ハルは焦って、相馬にお願いした。
「…失礼なことを言って、申し訳ありませんでした。
お金は勘弁してください。」
相馬はニヤッと笑って、ハルに言った。
「冗談だよ。
今回は君に変に納得しちゃったしね。
負けたよ。
じゃあ、僕は研究室に戻るよ。」
そう言って、相馬はその場を後にしようとした。
「ちょっと待って!」
ハルは立ち去ろうとした相馬を止めた。
「何?ちゃんと除霊はできてるよ?
君なら分かるだろ?」
相馬は少しうっとおしそうに振り返って、ハルに言った。
ハルはずっと聞きたかったことを相馬に聞いた。
「…どうして、そんなにすごい力があるのに、お寺を継がないの?」
相馬は笑って、答えた。
「僕の家系が嘘つきだからだよ。」
「嘘つき?どういうこと?」
相馬はまぁいいかといった様子で話し始めた。
「簡単な話だよ。
住職をしているうちの父さんや爺さん、実はお化けが見えてないんだ。
ご先祖様までそうだったかは分からないけどね。
ただ、お化けが見えないくせに除霊とか言って、お金をもらっている姿を子供の頃から見ててね。
こうはなりたくないと思ったんだよ。
だから、嘘つきだらけの実家の寺なんてなくなってしまえばいいと思ってるんだよ。」
ハルは相馬の話を聞いて、ふと気づいたことを更に相馬に聞いた。
「ひょっとして、お化けの話を聞いてから除霊するっていうのはお化けは嘘をつかないから?」
相馬は感心した様子でハルに答えた。
「さすがは加藤先生の姪っ子さん。
その通りだよ。
生きてる人間なんて嘘つきばっかりだからね。
だから、僕はお化けの意見の方を尊重してるってだけだよ。」
「…あなたって、やっぱりひねくれてるよね。」
ハルは少し呆れた顔で相馬に言った。
「はっはっは~僕も自分勝手なのかもね。」
そう言って、相馬は変な笑い声を上げながら、研究室に戻っていった。
「とりあえず、お化けはいなくなってるはずなんだけど、どんな感じ?」
ハルは除霊が済んだ太田に確認した。
「う~ん…良く分からないけど、少し気持ちは楽なったような気がします。
…それよりも父さんのことが気がかりで…」
太田はお化けどうのこうのよりも尊敬している父親がいじめをしていたかもということに対する気持ちが大きかった。
「…そりゃそうだよね…
でも、まぁあいつの言うことなんて嘘かもしれないしさ!!
気にしないで!!」
ハルは太田を励ました。
しかし、太田はまっすぐ前を見て、ハルに言った。
「いや。ちゃんと父さんに聞くよ。
その上で自分で考えて、父さんと向き合うことにするよ。
自分が納得するために。」
ハルは太田の様子を見て、安心した。
「大丈夫そうだ。
ちゃんと、除霊できてるよ。」
太田は少し恥ずかしそうにハルに感謝した。
「加藤さん。ありがとう。
その…カッコよかったです…」
続く




