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お化けの一生  作者: EFG
背後霊
43/58

除霊の対象

 

(…勢いで誘ったものの、気まずいな…)


 お化けに取り憑かれている太田と梅野橋大学に向かう道中、ハルは無言のままでいたたまれない様子であった。


 とりあえず、このままではとハルは太田にお化けに取り憑かれた経緯を聞くことにした。


「…太田君。いつ頃から、楽しくなくなったとかはわかるの?」


 太田は俯いていた顔を少し上げて答えた。


「…5年生くらいの時です。

 …でも、誰かに何かされたとか、特に理由もなく、突然やる気というか元気がなくなってしまった感じです。」

「そっか〜なんか心霊スポットとかに行ったりはした?」

「…いえ。僕も怖がりなので、そういうとこには極力行かないようにしてます。」


 ハルは太田の説明を受けて、お化けの中には理由もなく取り憑くものもいるのかなと、う〜んと考えていた。


「…お父さんに怒られたとか、そういう些細なことでもいいんだけど…」

「父さんはとても優しく、怒られる時もありますが、理不尽な怒り方は決してしないです。

 尊敬できるいい父親だと思っています。」


 太田は今までと違い、随分とはっきりとハルに答えた。


 よほど父親のことを慕っているようだった。


 その様子に少し面食らったハルは太田に聞いた。


「お父さんは何してる人なの?」

「…医者です。」

「ホントに!?お医者さんなの!!すごいじゃん!!」


 ハルは素直に驚いた。


「…でも、父さんがすごいだけで…僕はこんな状態になってしまって…

 すごく心配されてるんです…

 だから、可能性が少しでもあるなら…」


 太田の思い詰めている様子を見て、ハルは思った。


(私の話を聞いてこんなにすんなりついてきたのは、きっと藁にもすがる思いだったんだろうな…

 何とかできたらいいけど…)


 その後は二人とも言葉少なく、梅野橋大学に向かった。




「こんちわ~」


 ハルは慣れた様子で梅野橋大学の「上田研究室」のドアを開いた。


「ハルちゃん!久しぶりだね~」


 そう言って、瀬戸がハルをいつも通り抱きしめた。


「あ、愛さん。まだ、研究室にいたんだ。」


 ハルは瀬戸に抱きしめられて、ぐえっとなりながら失礼なことを言った。


「ひどいよ~ハルちゃん~

 言っとくけど、留年とかじゃないからね~

 ドクターを取ろうと頑張ってるんだよ~

 知ってるくせに~」

「そ、そうだったね。ごめんごめん。」


 瀬戸は修士課程を修了して、就職はせず、博士課程へと進学をしたのだった。


「でも、神山さんは就職したから、やっぱりいないんだね。」


 ハルは中学生になって、初めて大学に来たので、いつもいた神山がいなくて少し寂しく思った。


「あんな奴はどうでもいいでしょ。

 ちゃっかり、大手メーカーに就職しやがって~くそ~」


 瀬戸はハルから一旦離れて、何故か悔しがっていた。

 ハルはその様子を見て不思議に思った。


「あれ?二人って結局、付き合ってるんだよね?

 彼氏が無事就職できたんなら、よかったじゃん。」


 神山と瀬戸は大学院2年の時にお互い就職活動で苦しんだことがきっかけで、付き合うことになったのだった。


「まぁ、そりゃそうなんだけど。

 でも、私が失敗して、あいつが成功してるのが、何か腹立つんだよね~

 まぁ、私の場合、ドクターを視野に入れてたから別にいいんだけど~」


 瀬戸は苦し紛れの言い訳をした。


 太田は二人の様子に面食らって、黙っていた。

 瀬戸はそんな太田を指さして、ハルに言った。


「それはそうと、この子は一体何?

 まさか、ハルちゃんの彼氏!?

 私は許さないよ~!!ハルちゃんにはまだ彼氏は早いよ!!」


 ハルはため息をついて、瀬戸に言った。


「絶対、そんなこと言うと思ってたよ…

 全然そういうのじゃないから。

 えと、とにかく相馬さんはいる?」

「こんにちわ。ハルさん。」


 ハルの言葉を待っていたかのように、相馬が座っていた席から立って、返事した。

 ハルは不愛想な様子で、相馬に挨拶した。


「…どうも、こんにちわ。」


 相馬は笑って、何もかも分かっている様子でハルに言った。


「うん。その男の子のことだね。

 ここではなんだから、場所変えようか。」


 瀬戸は何やら怪しんで相馬に聞いた。


「何々?相馬君、ハルちゃん連れてどこ行くの?

 せっかく来たばっかなのに。」

「いや、この前、ハルさんにこの男の子の相談に乗ってあげてほしいって言われてたんですよ。

 ちょっとプライベートな話にもなるから、瀬戸先輩には申し訳ないけど、ちょっと二人を借りますね。」 


 相馬は息を吐くように嘘を言った。


「そうなんだ。そっか、お寺的なあれか~

 まぁ、しょうがないか。

 ハルちゃん!終わったら、また来てよ~」


 瀬戸はあっさりとだまされた。

 ハルは呆れながらも、瀬戸に答えた。


「うん。また来るよ~

 じゃあね~」


 そう言って、ハルと太田と相馬の三人は上田研究室を出た。




「じゃあ、人のいなそうな…

 そうだな。あの林道のところに行こうか。せっかくだしね。

 もうあのお化けもいないしね。」


 相馬は意地悪そうな笑顔でハルに提案した。

 相馬の指定した場所は過去にハルと桜が相馬と対峙した場所だった。


「…せっかくって…別にいいけど、あなたって本当やな奴だよね…」


 よりにもよって、そこをチョイスするかとハルは嫌な顔をした。


「はっはっは~人の多い大学で唯一人がいなさそうなところがあそこしかないからね。

 まぁ、許してよ。」


 相馬は変な笑い方をして、ハルに理由を説明した。


「…あのさ。今、あなたって院の2年生で就職活動真っ最中じゃないの?

 自分で呼んどいてなんだけど、大丈夫なの?」


 ハルは相馬に精一杯の嫌味を言った。


「僕も瀬戸先輩と同じドクターに進学予定だから、特に問題ないよ。

 修論もほとんど完成しているしね。」


 残念ながら、ハルの嫌味は優秀な相馬には通用しなかった。

 太田は二人の微妙な空気におどおどしていた。



 そうして、例の林道の脇道を逸れた静かな場所へと三人は到着した。


「…さて、一応聞いておくけど、その男の子に憑いているお化けを除霊してほしいって話だよね?」


 相馬はハルと太田に話を切り出した。


「そうだよ。この子は太田君。

 前は明るかったんだけど、このお化けのせいで気持ちが落ち込んじゃってて、それをどうにかするためにこのお化けを除霊してほしいの。」


 ハルは相馬に除霊してほしい理由を説明した。

 相馬は少し考えて、ハルに言った。


「…本来、こういう除霊ってお金をもらうんだけど、加藤先生の姪っ子さんの願いだし、聞いてあげようかな。」


 ハルはいちいち回りくどい言い方をする相馬に少し苛立ったが、一旦深呼吸して、落ち着いてから相馬に言った。


「…とりあえず、除霊してくれるみたいで良かったよ。じゃあ…」

「ただし、これだけは言っておくよ。

 僕はお化けの話を聞いて、除霊するに値するものだけを除霊するのを信念にしている。

 話を聞いて、除霊しなくてもいいと判断した場合は僕は決して除霊しないから。」


 相馬はハルの言葉をさえぎるように食い気味に言った。

 ハルは相馬の説明を聞いて、驚いて太田についているお化けについて、説明した。


「いや、それは私もいいことだと思うけど、お化けの話を聞くって、このお化けは無理だよ!!

 私も聞こうとしたけど、「死ね」しか言ってないもん!!」

「えっ!僕に憑いてるお化けってそんなこと言ってるの?」


 太田はそんなことを言われていたのかと驚いた。

 ハルはしまったとあたふたしながら、言い訳をしようとした。


「えっと、なんていうか。そういう怨念的なね?

 で、でも大丈夫だよ!

 どう考えても除霊の対象だもん!!こんなの!!」


 太田はハルの慌てている様子を見て、おびえるのではなく、どちらかというと混乱していた。


 すると、相馬はフッと笑って太田の背後に近づいた。


「大丈夫。僕は話すというより感じることができるから…」


 そう言って、相馬は太田に憑いている中年お化けの頭に手をやって、目を閉じた。


 十分くらいはそうしていただろうか、随分長い間、同じ体制で黙ったままだった相馬がようやく目を空けて、ハルの方を向いて真剣な顔つきで言った。


「…結論から言うと、このお化けは太田君のお父さんに小さい頃にいじめられていたお化けだ。」


「えっ!!」


 ハルと太田は驚いて、ほぼ同時に声を上げた。


 そして、相馬は話しを続けた。


「このお化けは太田君のお父さんにいじめられて、そこから生まれた劣等感を持ったまま大人になってしまったようだ。

 友人や頼れる家族もいなくて、仕事にもありつけず、何もない日々を過ごしていた。

 一方、いじめていた太田君のお父さんは順風満帆な生活を送っている様子をどこかで見つけてしまった。

 そうして、こんな苦しい人生になった原因が何も不自由のない幸せな生活を送っていることに絶望して、首をつって自殺したようだ。

 その恨みのような怨念が太田君に憑りついたというわけだ。」


 太田は相馬の話を聞いて、顔面蒼白になりながら、呟いた。


「…父さんが…いじめ…そんな…」


 ハルは太田の様子を心配そうに見ながら、相馬に聞いた。


「ほ、ホントにそんなことまであなたに分かるの?

 信じられないんだけど…」


 相馬は軽蔑したような顔でハルに言った。


「よく君にそんなことが言えるね。

 それは散々、君が言われてきたことだろ?

 信じないなら、これで話は終わりだよ。」


 ハルは相馬の言葉に胸が詰まったような思いになった。

 しかし、ハルは負けじと相馬に問い詰めた。


「でも、どうして太田君に憑りついたの?

 普通なら本人、太田君のお父さんに憑りつくんじゃないの?」

「そこまでは分からないけど、それはお父さんに憑りつくよりも、息子に憑りついた方がお父さんにダメージを与えられるからじゃないかな。

 それか同じ年頃の頃にいじめられたから、息子に自分と同じ目にあってほしいとか。」


 相馬はまっすぐにハルを見て、答えた。

 ハルは相馬の説明に納得してしまい、何も言い返せなかった。

 太田はまだ気持ちに整理ができていない様子だった。


 そして、肝心なことをハルは相馬に聞いた。


「…で、除霊はしてくれるの?」


 相馬は当然のような顔で淡々とハルに答えた。


「まぁ、自業自得なんじゃないかな。

 はっきり言うと、除霊する気は起きないね。」


「なっ…!!」


 ハルは明確に除霊を否定されて、言葉を失った。


 続く

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