ハルの憂鬱
相馬とのひと悶着があって以降、ハルは桜を避けるようになってしまった。
ゲームに疲れた桜がいつものようにハルを驚かしに来たり、掃除にいちゃもんつけられたりしたが、ハルはできる限り薄い反応や無視するようにしたのだった。
桜もハルのつまらない反応に何かを察したのか、あまりハルに構うことが無くなっていった。
総一郎はその様子を見て、心配したが、かける言葉が見つからなかった。
そして、ハルはどんどんとやるせない気持ちになっていったのだった。
「…も~どうしたらいいの~」
夏休みの終わり頃、ヨシコの家に遊びに来たハルはヨシコと一緒に来た遥香に悶えながら言った。
「なになに~どしたの~?」
ヨシコはのんびりした口調でハルに聞いた。
「…実は、最近、桜おねぇちゃんとギクシャクしててさ…
てか、一方的に桜おねぇちゃんを避けちゃってるんだけど…
もうどうしたらいいのか分かんなくなっちゃたんだよ~」
ハルはお手上げのポーズでうなだれた。
「そういえば、桜さんからハルの様子が変とは聞いてたけど、どしてまた、避けちゃったりしてるの?」
遥香がチョコの棒菓子をハルに向けて揺らしながら、聞いた。
「そういや、遥香ちゃんって桜おねぇちゃんとメールしてたね…
いや、実はさ。あるやな奴に私が桜おねぇちゃんを縛ってるって言われて…
私のせいで桜おねぇちゃんが成仏できないかもって思っちゃってて…」
「ん~よく分かんないけど、それでなんで桜さんを避けちゃうの?」
ヨシコは不思議な顔をしてハルに聞いた。
ハルはどうやって説明していいか分からず、考えながら答えた。
「う~んと…なんて言ったらいいのか…
私が桜おねぇちゃんのことを考えると、成仏できなくなるかもしれないんだよ。
だから、桜おねぇちゃんと楽しく喋ったりしちゃいけないって思って…」
「つまり、桜さんと仲良くすると、桜さんが成仏できないと。
でも、ハルは桜さんといつも通り仲良くしたい。
けど、桜さんが成仏できないのはいやだ。
それで中途半端に避けちゃう。
こんな感じ?」
遥香はハルの言いたい事をまとめてあげた。
「まさしくそんな感じ!!
流石、遥香ちゃん!!」
ハルは自分の拙い説明でよくここまで分かったなと感心した。
ヨシコは説明してもらってもまだ不思議な顔をしていた。
「ん~まだ分かんないんだけど、桜さんはどう思ってるのかな?」
「桜おねぇちゃんは成仏したいって言ってたよ。
だから、私が仲良くしちゃうと、桜おねぇちゃんの願いが叶わなくなっちゃうんだよ。」
ハルは少し悲しそうに説明した。
ヨシコは未だに分からないような顔をして、ハルに言った。
「でも、本当に桜さんはハルちゃんと仲良くするより、成仏したいと思ってるの?」
ヨシコの言葉を聞いて、ハルは言葉に詰まった。
「…そんなのは…分かんないよ…
桜おねぇちゃんがなんて思ってるかなんてのは分かんないよ。
かといって、そんなこと、聞きづらいしさ…」
遥香がハルの言葉を聞いて、少し意地悪そうに言った。
「じゃあ、今、ハルは桜さんの気持ちを無視して自分の気持ちを優先しちゃってるんじゃないかな?」
ハルは言い返すことができなかった。
すると、遥香とヨシコが何故か、同時にぷっと笑い出した。
ハルは急に笑い出した二人を見て、ムッとして聞いた。
「…笑うとこなくなかった?」
遥香が息を整えつつ、ハルに言った。
「…ごめんごめん。
なんかハルと桜さんって、本当の姉妹みたいだなって思ってさ…」
「私も~」
笑いをこらえて、ヨシコも遥香に賛同した。
ハルは少しムッとした。
「…私、妹もお姉さんもいないから、分かんないんだけど…
確か、遥香ちゃんは弟、ヨッシーはお姉さんがいるんだっけ?」
「そうだよ~
私も時々、お姉ちゃんとすれ違うっていうのかな?
ちょっと距離置くときあるけど、ホント、今のハルちゃんみたいだよ~
なんて言ったらいいか分かんないけど。」
ヨシコは笑いながら、ハルに言った。
「私は二人と違って弟だけど、ヨシコの言いたいことはなんとなく分かるよ。」
遥香は笑いが落ち着いたようで、優しい笑顔でハルに言った。
「兄妹とか姉妹ってさ~友達と違って、何か思ってることとか考えてることとかって恥ずかしくて聞けないんだよね。
それになんか聞かなくても分かったつもりになっちゃうんだよね。血がつながってるせいか分かんないんだけど。
でも、やっぱり人の考えてのはちゃんと話してみないと分かんないもんでさ。
それでお互いの考えのすれ違いが起きて、喧嘩になることが多いんだよ。」
ハルは遥香の話を黙って聞いていた。
「あと、ハルってさ。自分の思ってることよりも相手のことを考えてから、話す癖があるでしょ?
それって、一見いい風に見えるけど、ずっと気を遣われて、本心を聞けないってことじゃん。
昔のことがあって、言いづらいってのは分かるけどね。
でもさ、相手からしたら本心を言ってくれた方が嬉しいことの方が多いと思うよ。
私たちはそれで仲良くなったんだしさ。」
遥香はハルの頭を撫でながら、ハルに言った。
「だからさ。ハル。
早い内に本人にまずは自分の思ってることを正直に言うのがいいと思うよ。
こういうことって、遅くなると言いづらくなるしね。
ちょっとした気持ちのずれっていうのは時間が経つにつれて、おっきくなってくもんだと思うし。」
遥香の言葉を聞いて、ハルは何かすっきりとした顔になった。
「…うん!分かった!
今日の夜、桜おねぇちゃんと話してみる!!
ありがと!!ふたりとも!!」
遥香とヨシコはハルの表情を見て、安心した様子だった。
遥香は少し悪い顔をしてハルに言った。
「でも、ハルに彼氏ができたら、その彼氏って絶対大変だよね。」
「急にどうして、そんな話になるの?」
ハルはムッとして、遥香に言った。
「だってさ。桜さんの審査ってすごい厳しそうじゃん。
「あなたにうちのハルはやれません!」とかって言いそう~」
「…多分、桜おねぇちゃんって、そこまで私のこと好きじゃないよ…」
ハルは呆れた顔で遥香に言った。
遥香はちょっと意外そうな顔をした。
「そうなの?
メールの感じだと、すごいハルのこと気にかけてるけど。」
ハルは恥ずかしそうに遥香に言った。
「ま、まぁ、気にはかけてくれてると思うよ。
そう意味では優しいし。色々教えてくれるし。
でも、うちではいっつも意地悪というか、小言というか…
とにかく、少なくとも私のこと好きって感じじゃないよ。」
それを聞いて、遥香とヨッシーはまた笑い出すのだった。
「やっぱり、ただの姉妹だよ~それ~」
続く




