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お化けの一生  作者: EFG
初めての大学
34/58

相馬との遭遇


「…研究の邪魔しても悪いし、そろそろ帰るよ。」


 ハルはゲームの話をした後、他愛もない雑談を二人としていたが、桜が帰ろうとうるさいので、二人に言った。


「えぇ~ハルちゃん、帰っちゃうの~もうちょっとだけお話ししようよ~」

 瀬戸はまだ話足りないようだった。


「いや、さすがにそろそろ研究しないとまずいでしょ…

 今日は楽しかったです。また、ゲームで詰まったら、研究室に来なよ。

 僕が教えれる範囲であれば、教えてあげるよ。」

 神山は微妙に自信の無い言葉をハルに言った。


「うん!私も楽しかった!

 二人ともありがと!また来るね~」


 ハルはそう言って、二人と別れたのだった。




(今日はなんだか、大学生になったみたいで楽しかったな。)


 ハルは大学の雰囲気に慣れて、せっかくだからと大学内を探索しようとブラブラしながら、帰ろうとした。


「いやいや、ハル!早く帰りましょうよ!」

「そんなこと言っていいの?

 私のおかげでまたゲームをやる気になったんじゃない?

 ちょっとくらい、寄り道させてよ。」


 ハルは急かす桜に意地悪っぽく言った。


「…はぁ~確かに、今日はハルのおかげで助かった気はしますよ。

 ただ、これで宿題の手伝いは無しですよ。」

「えぇ~」


 ハルはふと瀬戸と神山の二人のやり取りを思い出し、ニンマリした。


(なんか、あの二人って私と桜おねぇちゃんみたいだった気がする。)


 ハルが大学内をブラブラしていると、小さな雑木林の中に続く道を見つけた。

 大学には校舎だけじゃなくてこういうのもあるんだと物珍しさでハルはその人気の少なそうな雑木林の中に入って行った。


 雑木林の中を歩いていると夏だったこともあり、セミの鳴き声がうるさかったが、なんだか涼しく感じた。



 しかし、急にハルにいつもの悪寒が走った。



 何故かセミの声が聞こえなくなり、涼しいというよりも肌寒くハルは感じたのだった。


 悪寒を感じるのは道から外れたところのようだった。

 ハルはそちらを見ないように急いで雑木林を抜けようと思ったが、悪寒の走る方向に人の声が聞こえた。


 ハルにはなんとなくこの声が生きている人の声だと分かった。

 ハルはどうしても気になり、怖さを我慢して、声のする方へと向かった。


「大丈夫なのですか?

 私はさっさと逃げた方がいいと思いますよ。」


 桜はハルに注意したが、ハルは小声で桜に言った。


「でも、生きてる人が危ない目に会ってるんだったら、助けないと…!」


 桜はため息をついて、ハルに憑いて行った。


 すると、雑木林にロープをかけて、首をつっている男を見つけた。


 すぐにハルはそれがお化けであると分かった。


 しかし、いつもと違うのはそのお化けの前に見覚えのある男が立って、何やら、お化けに声をかけていた。


 そして、その男が何やら手をお化けに向かってかざすと、首つりお化けはふっと、消えていったのだった。


「えっ!」


 ハルは思わず、声を出してしまった。

 その声に反応して、男がこちらを向き、ハルに言った。



「…君は確か、加藤先生の姪のハルさん?」


「やっぱり、相馬さん?」


 ハルは男がこの前、初めて出会った「上田研究室」の大学4年生で優等生の相馬慎そうま まことであると気付いた。


「そうだよ。ほんのちょっとしか、会ってないのに、覚えてくれてて嬉しいよ。

 こんなところでどうしたの?」


 相馬は笑って、ハルに尋ねた。


「いやいや!相馬さんこそ、今、何したの!?」


 ハルは驚いた様子で逆に相馬に聞き返した。


「ん?君、やっぱり「見える人」なの?」


 相馬は特に驚く様子もなく、ハルに聞いた。

 ハルは動揺して、再び相馬に聞き返した。


「じゃあ、相馬さんもお化けが見えるの?」


 相馬はニコッと笑って、ハルに答えた。


「うん。見えるよ。」


 ハルは初めて自分以外にお化けが見える人と出会って、不思議な感じになり、ぼ~としてしまった。

 ハルの様子を見て、相馬はハルに優しく言った。


「大丈夫?

 気分悪かったりする?」


 ハルは声をかけられ、慌てて、相馬に言った。


「あっ。大丈夫!大丈夫です!!

 すみません。初めて、お化けが見える人に会って、混乱しちゃって。」


「そっかそっか。僕も初めてだよ。

 君みたいな子は。」


 そう言って、相馬はちらっと桜の方を見た。

 桜は何も言わず、黙って相馬を見つめていた。


 ハルは深呼吸して、一旦落ち着いて、相馬に再び聞いた。


「えっと、もう一回聞いても良いですか?

 さっき、何やってたんですか?」

「あぁ~実家の手伝いでね。「除霊」ってやつ?

 加藤先生から聞いてるかな?実家がお寺でね。

 それで、ちょくちょくこういう依頼が来るんだよ。

 今日はこの大学の首つりお化けを成仏させてくださいって依頼に対応してたところ。」


 相馬は特に隠す様子もなく、ハルに言った。


「除霊って、相馬さん、お化けを成仏させることができるんですか!?

 すごい!!」


 ハルは終始、驚いてばかりだった。


「まぁね。そんな大したことじゃないよ。

 ただの体質だから。こんなの。」


 相馬は少しうんざりした笑顔でハルに答えた。


 ハルがはぁ~と唸っていると、相馬はハルに言った。


「それにしても丁度良かったよ。君とは話がしたかったんだ。

 そこに浮いている女性についてね。」


 そして、相馬は桜の方を向いて、続けた。


「君はお化けが見えるのに、この女性のお化けと一緒にいるみたいだけど、どうしてかな?」


 ハルは相馬の質問に少し考えてから、答えた。


「え~っと、桜おねぇちゃん、じゃなくて、東雲桜しののめ さくらって言うんだけど、私の住んでる屋敷というか、この町の地縛霊らしいです。

 元々は屋敷が無くなったら、成仏できるって思ってたんですけど、どうやら違うみたいで、今はなんとなく一緒に過ごしてるんです。

 でも!全然、悪いお化けじゃないですよ!」


 ハルの拙い説明を聞いて、相馬はハルに言った。


「そっか。なるほど。どうやら、悪い霊ではないみたいだね。

 じゃあ、僕が成仏させてあげようか?」


 ハルは相馬の言葉を聞いて、条件反射ですぐに相馬に答えた。



「ダメです!!」



 相馬は予想外に早い答えが返ってきて、驚いた様子だったが、再び、ハルに聞いた。


「…それはどうして?

 この女性…桜さんは成仏したいんだよね?」


 桜は黙って、相馬を見つめながら聞いていた。

 ハルは俯きながら、相馬に答えた。


「…そりゃ、初めは怖かったし、意地悪するし…意地悪は今でもされるけど…

 それでも今は桜おねぇちゃんがいないとか考えられないし…面白くないし…寂しいから…」


「つまり、桜さんの意思とは関係なく、自分のために桜さんを成仏させたくないってことだね?」


 相馬の言葉にハルは何も言い返せなかった。

 そして、相馬は桜に向かって、聞いた。


「桜さん。あなたは成仏したいんですよね?

 僕ならあなたを成仏させることができますが、どうですか?」


 桜は相馬を見つめながら、少し間をおいて、相馬に答えた。


「…嫌ですね。」


 それを聞いた相馬は笑って、桜に言った。


「「除霊師」である僕から言わせると、成仏したくないっていう霊は軒並み、「悪霊」の類なんですが…

 それなら、あなたはハルさんに憑りついている「悪霊」みたいなので、有無も言わせず、「除霊」しますが、いいですか?」

「ダメだって!!

 桜おねぇちゃんは「悪霊」なんかじゃないって!!」


 ハルは桜の前に立って、怒った様子で相馬に叫んだ。

 それを見た相馬はハルに、というより桜に向かって言った。


「憑りつかれた人ってのは大体、そう言うんだよね。

 悪徳宗教と一緒だよ。

 大丈夫。桜さんから解放されたら、分かるから。」


 相馬はそう言って、桜に近づいて行った。


 ハルは目に涙を浮かべながら、空手の構えをとって、相馬を待ち受けた。


 すると、桜が相馬に向かって言った。



「あなた、勘違いしてますね。

 私は成仏したいですよ。」


 

 相馬はピタッと止まって、なおも笑顔で桜に言った。


「それなら、僕が成仏させてあげるって言ってるじゃないですか?」


 桜も笑って、相馬に言った。


「やはり分かってないですね。

 私は消えたいとは思っていますが、どこの馬の骨とも分からないあなたみたいな人に消されたいとは思っていないんですよ。

 分かったら、ここは引きなさい。」


 相馬は桜を黙って見つめた。

 そして、しばらくして、相馬はため息をついて、桜とハルに言った。


「分かりました。ここは一旦、引いときます。

 そもそも、僕だってこんな寺っぽいこと、しょうがなしでやってますからね。

 依頼じゃなければ、進んでやりませんよ。」


 ハルはとりあえず、ホッとして、空手の構えを解いた。

 そんな様子のハルを見て、相馬は呟いた。


「…しかし、どっちかというと、ハルさんが桜さんを縛っているように見えますね。」

「えっ?」

「じゃあ、僕は研究室に行くので。また機会があれば…」


 そう言って、相馬は研究室の方に向かうのだった。


 続く

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