相馬慎との出会い
「皆、いい人だね。」
ハルは正門まで送ってもらっている道中、総一郎と話していた。
「うん。今日来てない生徒も優秀でしっかりしてる人ばかりだよ。」
「そうなんだ。そういや、あと一人、夏休みでも来てるんだっけ?」
「ハル!早く!帰りましょう!!」
「あぁ~相馬君だね。
まだ、大学の4年生なんだけど、相馬君はその中でもトップクラスで優秀だよ。」
「へぇ~まだ大学生なのに研究室にいるんだね。」
「走って帰りましょう!!」
ハルはちょいちょい入ってくる桜を無視して、総一郎と話していた。
「基本的に大学4年生になると研究室に配属されて、各研究テーマに沿った卒業論文を書くことになるんだよ。
でも、まだ研究初めて間もないから、普通は先輩から教えてもらうんだけど、相馬君は既に一人で研究を進める程、賢いんだよ。」
ハルは総一郎が偉く相馬とやらを褒めているのを聞いて、よっぽどなんだなと思った。
「あとね、実は相馬君って、代々、お坊さんの家系でね。
実家はお寺をやってるんだよ。」
「だから、何なんですか!!いいから!ハル!!早く!!」
「おぉ~すごい!
じゃあ、将来はお坊さんになるの?」
ハルは依然として、桜を無視して、総一郎の身近にお坊さんがいると思って、少し興奮した。
「いや。相馬君は実家を継ぐ気はないんだってさ。
でも、ひょっとしたら、相馬君ならお化けのことも分かってくれるかもね。」
総一郎はニコッとハルに笑いかけた。
「そっか~相馬さんか~会ってみたいな~」
「もう!!ハル!!もっと早く!!急いで!!」
「桜おねぇちゃん!!ホント、うるさいよ!!分かったって!!
説明書開いとくから、これでも見ててよ!!」
ハルと桜と総一郎はそんな話をしてる内に門の前に到着した。
「ハル。じゃあ、気を付けて帰ってね。
お弁当持ってきてくれてありがとう。」
「うん。じゃあ、総一郎も頑張ってね~」
ハルはそう言って、総一郎に手を振り、帰ろうとしたところに一人の男が近寄ってきた。
「こんにちわ。加藤先生。」
その男はスラッとした体系で、かっこいいというよりも美しいといった感じのとてもきれいな顔だちをしていた。
「噂をすればだね。こんにちわ。相馬君。
今日はちょっと遅れ気味だね。」
総一郎もその男に挨拶した。
そう、この容姿端麗な男が先ほど総一郎が話していた相馬という男だったのだ。
ハルはお坊さんのような姿を想像していたが、それとはかけ離れた容姿に少し驚いた。
「噂ってなんですか?怖いですね~
ちょっと、実家の用事があって遅れたんですよ。」
相馬は笑いながら、総一郎に言った。
「あっ、紹介するね。
この子は僕の姪っ子の加藤春。
これからちょくちょく研究室にくることがあるかもしれないから、よろしくね。」
総一郎は相馬にハルのことを紹介した。
ハルもそれに応じて、相馬に挨拶した。
「こんにちわ。初めまして。
いつも総一郎がお世話になっています。
加藤春です。よろしくお願いします。」
ハルは今日散々、自己紹介してきたので、もう慣れて、言いよどむことなくすらすら言った。
相馬もハルに向かって、ニコっと笑い、挨拶した。
「始めまして。相馬慎と言います。
よろしくね。ハルさん。」
そして、相馬は一瞬、ちらっとハルの上をプカプカ浮いて、説明書を真剣に読んでいる桜の方を見た。
ハルはあれっと思ったが、相馬はすぐに視線を戻して、総一郎に言った。
「じゃあ、加藤先生、一緒に研究室まで行きましょうか。」
「そうだね。じゃあね。ハル。
今日は本当ありがとう。」
総一郎は再び、ハルにお礼を言った。
「う、うん。じゃあ、二人とも研究頑張って…」
ハルは少し棒読み気味に二人に言った。
「ハルさん。またね。」
相馬と総一郎はハルに手を振ってから、振り返って、研究室に向かったのだった。
ハルはしばらく、桜のために説明書を広げたまま、ぼ~と二人を見送った。
「ねぇ。桜おねぇちゃん。
あの相馬って人、桜おねぇちゃんのこと見えてなかった?」
帰宅後、ハルは居間のソファーに座って、早速、新しいゲームを始めている桜に聞いた。
「分からないですよ。私はゲームの説明書に夢中でしたからね。
相馬とやらの顔すら見てませんよ。」
桜はなんの役にも立たないことをハルに言った。
ハルはむぅっとして、桜に再び聞いた。
「やっぱり、実家がお寺なだけあって、何か感じたのかな?」
桜はゲームをしながらもハルに答えた。
「どうでしょうかね。
実家がお寺だとしても、ハル程しっかりお化けを認識できる人間はそういないと思いますよ。
実際、何度か近くの寺に行って、そこの住職に近づいたことがありますが、私に気付きませんでしたし。」
「そんなことしてたの?どうしてまた?」
ハルは桜の意外な行動に驚いて、聞いた。
「最初も言いましたが、私は早く消えたかったのですから、手っ取り早く私自身を祓ってもらおうかと思ったんですよ。
まぁ、結局、無駄足でしたがね。」
桜はこともなげに答えた。
「そ、そうだったんだ…自分自身を祓ってもらうって、なんかおかしい気がするんだけど…」
ハルは桜の発想に少し呆れた。
「そんなことより、説明書を開いているだけのハルに何も言わなかったことの方がおかしいと思いますけどね。」
桜は説明書を横目で見ながら、ハルに言った。
「あっ!そういえば、そうだ!!
普通、説明書開いてたら、何か言うよね?
てことは、やっぱり相馬さんには桜おねぇちゃんが見えてたってことかな?」
ハルは桜の言葉にハッとして、桜に聞いた。
「まぁ初対面ですし、指摘しづらかったのかもしれませんがね。
確証はないですよ。」
ハルは結局、分からないかとため息をついて、呟いた。
「…私以外にもお化けが見える人がいるのかな…」
桜にはその呟きが聞こえたが、黙ってゲームを続けた。
今後、相馬慎はハルと桜の関係性に深く関わっていくことになるのだった。
続く