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お化けの一生  作者: EFG
初めての大学
31/58

上田研究室


 そうして、総一郎に連れられて、ハルと桜は「上田研究室」へと向かうのであった。


 梅野橋大学は文系・理系・医学部・歯学部もある大きな大学で、「上田研究室」は大学の中心から少し外れた工学部のエリアにあった。

 夏休みであったため、学生はそれ程多くなかったが、サークル活動、部活等は行われているようで、グランドや部室のような場所には学生達が集まっていた。

 大学に来たのが初めてだったため、ハルには全てが新鮮で少しワクワクしていた。



「大学生って、夏休みに学校に来て勉強する人もいるの?」

「いや、ほとんどがサークルとかじゃないかな?

 夏休みに勉強に来る学生はほとんどいないと思うよ。

 来るとしても、院生とかかな~」

「院生って?」

「大学が4年生まであるのは知ってるよね?

 簡単に言うと院生っていうのは、その4年間が終わった後に、就職するんじゃなくて、もっと大学で勉強したいって人が進学して、更に2年間、大学院生として、勉強する人のことだよ。」

「へぇ~そんなにずっと勉強したい人とかいるんだね~

 きっと、変な人なんだろうね。」


 ハルは珍しい人もいるもんだと言った感じで、失礼なことを言った。


「い、いや。理系の学部なら、ほとんどの人が大学院に進学するよ。

 まぁ、理由は勉強したいっていうよりは良い就職先を見つけたいって人が多数だけどね。」

「そうなんだ~じゃあ、私は文系かな~

 そこまで勉強したくないもん。」


 ハルは情けないことを堂々と言った。

 総一郎は苦笑いをして、これ以上は何も言わなかった。




 そうこうしている内に小奇麗な4階立てではあるが、それ程大きくない長細い建物についた。

 工学部C棟と書かれたこの建物の3階に「上田研究室」があった。

 扉の前の靴入れには数人の靴が入っていて、中に人が既にいるようだった。


 ハルはドキドキして、靴入れの空いているところに自分の靴を入れて、総一郎と一緒に研究室へと入っていった。



「いらっしゃ~い!!ハルちゃ~~ん!!」


 ハルが研究室に入るや否や、一人の女性がハルを大きな声で出迎えた。


 ハルは急なことに驚いて、固まっていた。


 すると、女性はいきなりハルに抱き着いてきた。


「やっぱり!可愛い~~!!

 加藤先生の姪なら、絶対可愛いと思ってたんだよ~~」


 ハルは顔を真っ赤にして、抱きしめられながら、あたふたしていた。


「瀬戸さん。そろそろ離してあげて。

 ハルが困ってるから。」


 総一郎は女性にハルを開放するようお願いした。

 女性は総一郎に言われて、ハッとなり、ハルを離した。


「ごめんごめん!ついつい可愛くて~」


「ついついじゃねぇだろ~場所が場所なら通報もんだからな。」

「加藤先生も、もっと怒っていいと思うよ。」


 そう言って、二人の男性も近寄ってきた。


 一人はガタイのいい背が180cm以上ありそうな男性で、もう一人はヒョロヒョロの眼鏡をかけた男性だった。


 固まっていたハルは女性から解放されて、とにかくと三人に挨拶した。


「は、始めまして。加藤春です。

 いつも総一郎がお世話になっています。」


 しっかりとした挨拶をされた三人はおぉっと唸った後、ガタイのいい男性がハルに丁寧に挨拶を返した。


「こんにちは。

 山田健太やまだ けんたと申します。

 大学院の2年生です。

 流石は加藤先生の姪っ子だね。

 瀬戸よりよっぽど、礼儀ができてるよ。」


 女性も続けて言った。


「うるさいな~。

 えっと、私は瀬戸愛せと あいっていうの。

 院の1年生だよ。よろしくね。ハルちゃん!」


 最後に眼鏡の男性もハルに挨拶した。


「必要ないかもしれないけど、一応、僕もあいさつさせて頂きます。

 瀬戸と同じく院の1年生で神山陸朗かみやま りくろうっていいます。

 よろしくです。」


 皆の自己紹介が終わり、皆いい人そうだと思い、ハルは改めて、挨拶した。


「こちらこそよろしくお願いします!」


 総一郎は無事、ハルが皆と打ち解けたと安心して、言った。


「僕の方からもハルのこと、よろしく頼むね。

 じゃあ、ちょっと申し訳ないけど、席外すね。

 上田教授に呼ばれてるんだ。

 また、すぐ戻ってくるから。」

「えっ!」


 総一郎はそう言って、ハルを置いて、隣の上田教授の部屋に行ったのだった。


(そういうことはここに来る前に行っといてよ!!)


 ハルは突然一人にされて、困ったのだった。


 その様子を見て、瀬戸はハルに優しく言った。


「せっかくだから、ゆっくりしてってね。ハルちゃん。」

「は、はい!ありがとうございます!」


 ハルは何故か焦りながら、研究室を見回して、何かないかと、とりあえずの質問をした。


「…え~と、他にはいないんですか?」

「他にも数人、この研究室に在籍してるんだけど、里帰りしてたりで最近はこの3人ともう一人くらいだね。

 夏休みにも来ないといけない程、追い込まれてるのが、この男二人だけってことでもあるよ~」

「俺は2年だからってだけだよ!

 コツコツやってっから、言うほど、余裕がないわけじゃねぇからな!

 カミヤンも学会が近いから、頑張ってるだけだろよ。

 てか、お前が一番やべぇだろ?」


 ガタイのいい山田が腕を組んで、瀬戸に言った。


「いやいや、私はこの研究室唯一の女の子として、毎日欠かさず、皆を癒しに来てるんですよ!!

 研究自体も上手くいってますよ!!」


 瀬戸は必死な様子で山田に反抗した。


「…大学生にもなって、そんなアホみたいなこと言えるのって…

 ホント瀬戸ってやばい奴だから、近づかないようにした方がいいよ。」


 神山はハルに瀬戸の危険性を教えた。


 瀬戸はハルをまた抱きしめて、ハルに言った。


「助けて!ハルちゃん!!

 この二人はこうやって、いっつも私をいじめるんだよ~」


 ハルは瀬戸の大きな胸に挟まれながら、顔をまた赤くしたが、冷静に瀬戸に言った。


「い、いや。

 そもそも二人が追い込まれてるって言ったの、瀬戸さんじゃないですか。」


 ハルの冷静なツッコミに山田と神山はおぉ~と唸った。


「やっぱり加藤先生の姪だな。的確だわ。」

「すごいな。確か小学5年生だったっけ。

 瀬戸より、賢いんじゃないの?」

「ハルちゃ~ん!!ひどいよ~!!」


 ハルは三人のやり取りを見て、大体の関係性が分かったのだった。




「…ハル。そろそろ…」


 ハルの上をぷかぷか浮いている桜がハルを急かした。

 ハルは内心、初対面の人にお願いするのは気が引けたが、また桜がうるさくなるだろうと諦めて、三人にお願いした。


「あの~実はPBプレイボックスのゲームが欲しいんですけど、貸してもらえたりしませんか?」


 すると、三人は意外と言った感じの顔をした。


「ハルちゃん。ゲーム好きなんだ~」


 瀬戸はそう言って、神山の方に手を出して、言った。


「ゲーマーの神山君。どうせ、何か持ってるでしょ?

 貸すとかケチ臭いこと言わず、あげなさい。」


「…お前、ヤバすぎて、ホント怖いわ…

 いや、持ってるけどさ…どういうゲームがいいの?」


 神山は瀬戸の態度に心底呆れたが、とりあえず、ハルに欲しいゲームのジャンルを聞いた。


「え、えっと~」


 ハルはそんなの分からないと桜をチラッと見た。

 桜は嬉しそうに考えながら、ハルに言った。


「そうですね~じゃあ、RPGで。」


 ハルは桜の希望を聞いて、神山に伝えた。


「できれば、RPGとかがいいです。」

「RPGか…ちょっと待ってね。」


 神山は自分の机に向かい、引き出しを開けて、3本のゲームソフトを取り出して、ハルの方に戻ってきた。


「この中から、好きなの選んでいいよ。」


 神山はハルにその3本のゲームを渡して、言った。


「いいんですか?」

「うん。もうクリアしたゲームだからね。

 それに古い中古品だし、そんな高くなかったし。

 だから、1本は君にあげるよ。」


 神山は笑顔でハルに答えた。


「ありがとうございます!!」


 ハルは渡されたゲームを桜に見えるように向けて、どれがいいか確かめた。


 桜は真剣な表情で考えていた。


 そして、桜は無茶なお願いをハルにした。


「…全部は無理ですかね?」


 ハルはえぇ~と困ったが、桜からこんなにお願いされることが無かったので、ここは一つ、恩でも売っておくかと、ダメもとで神山に聞いた。


「…えっと、3本全部はダメですか?」


「えっ!全部!!」


 神山は驚いて、ハルに聞き返した。


「いいじゃん。クリアしてるんだから、もうやらないでしょ~」

「いやいや、クリアはしてるけど、ふとした時にまたやりたくなるのが、RPGなんだよ!!」


 神山はRPGの何たるかを瀬戸に言った。


 山田も腕を組みながら、神山に言った。


「まぁでも、研究で忙しくなるだろうし、ゲームをしてる時間も無くなるだろうから、いいんじゃないか?」

「山田先輩まで!!マジですか!?」


 神山は山田にまで説得されて、困って考えてる様子だった。

 桜はその様子を見て、ハルの耳元で囁いた。


「この男はもう一回押せば、折れます。

 最後に総一郎にした時と同じようにお願いしてみて下さい。」


 ハルはここまで来たらと、モジモジしながら、神山に上目使いで再び、お願いした。


「ダメですか?」


 神山は顔を赤くして、あきらめた様子で頷いてハルに言った。


「…分かったよ。全部あげるよ…」


「ホントですか!!ありがとうございます!!」


 ハルは3本のゲームを持ち上げて、喜んだ。


 その様子を見た山田は微妙な表情になっていた。


「最近の小学生は怖いな。

 完全に女であることを利用してたぞ。」


 瀬戸は再び、ハルに抱き着いた。


「ハルちゃん!今のお願いの仕方、可愛かったよ~」


 ハルは二人の言っている意味が良く分からなかったが、とにかくよかったと思った。


 ふと、ハルは気になったことを瀬戸に抱きしめられながら、神山に聞いた。


「そういえば、どうして学校にゲーム持ってきてるんですか?

 怒られないんですか?」


 神山はフッと笑って、ハルに言った。


「研究には息抜きが必要なんだよ。

 泊まることもよくあるからね。

 ずっと研究してたら、死んでしまうよ…」


 山田もうんうんと頷いていた。


「そうなんだよ…

 だから、加藤先生も黙認してくれてるよ…

 結構、大変なんだぜ。研究って。」

「そ、そうなんですか。」


 ハルは二人の病んでいる様子を見て、怖くなった。


「しかし、お前、RPGはここでやるなよ~

 せめて皆でやれるゲームにしろよな~

 流石に上田教授に見つかったら、やべぇだろよ~」

「だから、RPGはあんまりやってないじゃないですか。

 皆に合わせて、スポーツゲームとかも持ってきてるでしょ。」

「まぁな~」


 山田と神山はあははと笑いながら、話していた。



「…今、ゲームがどうとか言ってたか?」


 すると、50代くらいのスーツを着た威厳たっぷりの男が総一郎と研究室に入ってきた。


「う、上田教授!!

 いや!ほら!!加藤先生の姪っ子がゲーム好きだって聞いて、その話をしてたんですよ~」


 山田が慌てて、言い訳をした。

 どうやら、この男がこの研究室の教授である上田であるようだった。


「君が加藤の姪っ子か。

 この研究室の教授をやっている上田だ。

 よろしく。」


 上田は怒っているような顔でハルに挨拶をした。


「か、加藤春です!こ、こちらこそ、総一郎がお世話になっています。」


 ハルはビビりながらも、きちんと挨拶をした。


「うむ。しっかりしているな。

 …しかし、いつまで瀬戸君は抱き着いているつもりかね?」


 そう瀬戸はずっと、ハルに抱き着いたままだったのだ。


「ずっとですよ~抱き心地が最高なんです~

 上田教授もどうです?」


 瀬戸は全く臆することなく、上田に言った。


「遠慮しておくよ。

 とにかく離れて、研究に戻りなさい。」

「そうですね。分かりました。」


 瀬戸は上田に諭されて、あっさりとハルから離れて、自分の席に戻った。

 目上の人に対する態度はわきまえているようであった。


「さぁ、他の皆も研究に戻りなさい。」

「はい!」


 山田と神山も自分の席に戻ったのだった。

 ハルはその様子を見て、上田は決して怖いだけの人ではなさそうだと感じた。


 総一郎はこっそりハルに聞いた。


「ゲームはどうだった?」


 そして、ハルはゲームを総一郎に黙って見せた。


「良かった。じゃあ、そろそろ屋敷に戻る?」

「うん。そうだね。」


 ハルはそう言って、皆に丁寧に挨拶をした。


「いろいろとありがとうございました。お邪魔しました。」


 瀬戸は寂しそうな顔をしながら、ハルに言った。


「帰っちゃうんだ~ハルちゃん~また来てよ~」


 山田も手を振りながら、ハルに言った。


「気を付けてな~」


 神山はし~とゲームのことを上田に話さないでとジェスチャーをしながら、黙って手を振った。


「もう帰るのか。また、いつでも来なさい。

 加藤、門まで送ってやれ。」


 上田は怖い顔をしつつも優しい言葉をハルに言ったのだった。


 続く


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