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お化けの一生  作者: EFG
初めての大学
30/58

桜のお願い

 

「あっ、総一郎、お弁当忘れてる。」


 ハルの小学5年生の夏休みの朝、いつものように掃除をしていると、総一郎に作った弁当が居間の机の上に置かれたままなのを見つけた。


「全く!お弁当忘れられるのはすごい腹立つんだよね~どうしようかな?」


 ハルは4年生の夏休みから、総一郎がお昼をあまり食べずに普段、お菓子などをつまんで仕事していると聞いて、それではダメだと、それ以来、弁当を作ってあげているのであった。


 総一郎の性格上、弁当を忘れることはしばしばあったが、ハルも学校に行っていることが多かったため、お昼前に気付いたのは、何気に今日が初めてであった。


「大学に持って行ってあげたら、いいじゃないですか。

 近いんだから。」


 桜が朝からいつも通り、ゲームをしながらハルに言った。

 総一郎の大学、梅野橋大学は屋敷から歩いて15分くらいの距離にある割と近い大学であった。


「えぇ~大学って、小学生が行ってもいいものなの?」


 ハルはめんどくさそうに桜に聞いた。


「別に正当な理由があれば、いいでしょう。

 電話して、総一郎に確認してみなさい。」


 総一郎は緊急時のため、大学の総一郎の連絡先「上田研究所:XXX-XXX-XXXX」と書かれたシールを電話機に貼っていた。

 しかし、特に緊急の事態が今までなかったので、電話したことがなかったのだ。


「な、なんか緊張するんだけど…大丈夫かな?」


 ハルは戸惑いながら、桜に聞いた。

 桜はため息をつきながら、ハルに言った。


「何のための電話ですか。ハルももう小学5年生なんだから。

 本当の緊急時のために、この機会に練習しておきなさい。」


 小学5年生なんだからと桜に言われて、ハルは確かにと、う~んと悩みながらも、桜の忠告に従った。


「…そうだね…分かった。電話してみるよ。」


 ハルはそう言って、受話器を持って、緊張しながら、総一郎の連絡先の電話番号を押したのだった。



 プルルル…プルルル…ガチャ


「はい。上田研究室です。」


 電話の声は若い女性の人だった。

 明らかに総一郎じゃない声にハルは慌ててまくった。


「え、え~っと、私、総一郎…じゃなくて、加藤のし、親戚のハルって言いまして…

 あ、あの、その…」


 ハルは緊張しすぎて、自分で何を言ってるのか分からなくなっていた。

 すると、電話先の女性が察してくれて、ハルに言った。


「あ~加藤先生の~ちょっと、待ってくださいね。」


 それから、保留音がなり、しばらくして、保留音がやんだ。


「…もしもし、ハル?」


 ようやく総一郎の声が聞こえて、ハルはホッとして、総一郎に言った。


「よかった~総一郎出ないじゃん!!

 めちゃくちゃ緊張したんだよ!!」


 総一郎は急にハルに責められて困った。


「えっと、なんかごめん。

 一応言っとくけど、この番号は研究所の番号だから、直接僕に繋がることの方が少ないよ。

 ごめん。伝えとけばよかったね。」

「ホントだよ~そういうとこだよ~

 ところで、総一郎、お弁当忘れてるよ!!

 もしいいなら、私、持っていこうか?」


 ハルはとにかく弁当のことを総一郎に伝えた。


「あっ!ホントだ!!ごめん!!

 でも、悪いよ~一日くらい、適当にすますよ~」


 総一郎はハルの気持ちを考えない発言をした。

 ハルは怒りながら、総一郎に言った。


「だから、何度も言ってるけど、せっかく作ったお弁当を無駄にするのは本当辛いんだからね!!

 じゃあ、このお弁当は総一郎の今日の晩御飯になるけど、いいんだね…」


 総一郎は慌てて、ハルに謝った。


「ご、ごめんごめん!

 じゃあ、良かったら、持ってきてくれないかな?

 場所は分かるかな?」

「大学の場所は分かるけど、総一郎の研究室がどこにあるのかは分かんない。」

「じゃあ、正門の前で待ってるよ。

 ホント、ごめんね。よろしく頼むよ。」

「そしたら、今から準備して行くから、30分後くらいには着くかな?」

「オッケー。気を付けて来てね。」

「分かった~」


 そうして、ハルは電話を切った。


「ということで、大学にお弁当持ってくことになったよ。

 準備して行ってくるね。」


 ハルはゲームをしている桜に言った。

 桜は珍しくゲームをやめて、ハルに顔を向けて、無表情で言った。


「じゃあ、私も行きます。」

「えっ!桜おねぇちゃんも来てくれるの?

 珍しい!ゲームはいいの?」


 ハルはあまりに意外だったので、桜に聞いた。


 すると、桜は急にハルに頭を下げたのだった。


「えぇ~~!!ホントどしたの!!

 変だよ!!桜おねぇちゃん!!」


 ハルは桜のあまりにもおかしな挙動に戸惑った。


「ハル…お願いがあります…」


「は、はい!」


 ハルは身構えた。

 そして、桜は差し迫った顔でハルに言った。


「…もうここにあるゲームはやり尽してしまったんです…

 だから、総一郎にお願いして、新しいゲームのお金をもらって、一緒に買いに行ってほしいんです!」


 ハルは何も言わず、大きなため息をついて、うなずいたのだった。




「ハル~!!」


 梅野橋大学の正門で待っていた総一郎がハルを見つけて、手を振って声をかけた。


「総一郎!」


 そう言って、ハルは総一郎に走って向かった。


 ハルはモジモジしながら、総一郎にお弁当を渡した。


「はい。お弁当。」


 総一郎はハルの様子がいつもと違い、若干戸惑った。


「あ、ありがと。

 本当にごめんね。わざわざ大学まで持ってきてくれて。」


 ハルは未だモジモジしながら、総一郎に上目遣いで言った。


「いいんだよ…でも、総一郎…ホントに感謝してる?」


 総一郎は本当に何かおかしいと思い、怖くなって、ハルに聞いた。


「う、うん!もちろんだよ!!

 えっと、ハル、何か様子がおかしいけど、どうかしたの?」


 ハルは総一郎を見つめながら、言った。


「…総一郎…ゲーム買いたいから、お金、頂戴?」


 総一郎はハルの言葉を聞いて、固まった。

 総一郎は固まりながらも、ハルのお願いならばと、持っていた財布に手を伸ばそうとしていた。


 しかし、ハルはその様子を見て、耐えきれなくなり、総一郎に言った。


「いや!!総一郎!!

 出さなくていいから!!

 桜おねぇちゃんに言われただけだから!!」


 ハルの言葉を聞いて、総一郎はハッとして、手を財布から離して、ハルに言った。


「そ、そっか!!

 びっくりした~

 いや~ハルもそういう年頃になったのかと、心配したよ~」


 ハルはどういう年頃だよと思ったが、総一郎が我を取り戻したようで、とにかく安心した。


「ハル!!

 話が違うじゃないですか!!

 新しいゲームはどうするんですか!!」


 ハルと一緒に憑いてきていた桜がハルに抗議した。


「もう無理だよ~総一郎をだますようなことできないよ~」

「何を言ってるんですか!!

 ハルが丹精込めて作ったお弁当をこの男はあろうことか忘れたんですよ!!

 ゲームを買うくらいの贖罪はすべきですよ!!」


 桜は思いのほか、必死にハルに迫った。


「…私、別に新しいゲーム、欲しくないし…」


 ハルはゲームに必死な桜を見て、完全に引いていた。

 総一郎はハルの様子を見て、全てを察して、ハルの視線の先に向かって言った。


「なるほど。分かりました。

 新しいゲームが欲しいなら、多分、研究室の人が持ってるんじゃないかな?

 一緒にお願いしに行きましょうか?」

「いいんですか!?」


 桜は目をキラキラさせながら、総一郎に言った。

 ハルはうんざりして、言った。


「えぇ~別にいいよ~」

「ハル。せっかくここまで来たのです。

 総一郎の職場を見てみたいとは思わないのですか?」


 桜は諭すようにハルを説得した。

 桜の言葉を聞いて、ハルは少し考えた。


「…確かに、ちょっと見てみたいのはあるな…

 まぁ、いっか。どうせ屋敷帰っても暇だし。」

「よし!!じゃあ、行きましょう!!ハル!!」


 桜のハイテンションな様子を見て、ハルはゲームを教えたのは間違いだったなと心から思った。


 続く


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