告白
「遥香ちゃんとヨッシーをこの屋敷に呼びたいんだけど、いいかな?」
夕飯後、ハルは決心した面持ちで総一郎に聞いた。
「もちろんだよ。僕はいつでも大歓迎だよ。」
総一郎は喜んでハルの提案を聞き入れた。
「ありがと。じゃあ、早速、今週の土曜日にでも誘ってみるよ。
…で、桜おねぇちゃんのことなんだけど…」
ハルはゲームをしている桜に目線をやった。
桜はハルの意図を察して、ゲームをしながら、無表情でハルに言った。
「…分かってますよ。
初めての時くらいは水を差さないようにしてあげますよ。」
何回目かは意地悪するのかとハルは少し思ったが、しかし、ハルは桜に全く逆のお願いをした。
「…ううん。そうじゃなくて、二人に桜おねぇちゃんのこと紹介したいんだけど…
ダメかな?」
桜は驚いて、思わずゲームから目を離して、ハルを見つめた。
ハルの覚悟を決めた真剣な様子を見て、桜は一瞬間をおいて、ハルに答えた。
「…分かりました。いいでしょう。
まぁ、安心しなさい。私も元使用人ですからね。
ゲストであるご友人に失礼な態度はとりませんよ。
但し、向こうがどう思うかは知りませんがね…」
そう言って、桜はゲームに戻った。
ハルは若干、私にも失礼な態度をとるなよと思ったが、それは言葉には出さないようにした。
「ありがと。桜おねぇちゃん。
じゃあ、明日、誘ってみるね。」
ハルにはもう迷いはなかった。
「ハルちゃんち、でっか〜い!」
土曜日の朝、ヨシコはハルの屋敷を見て驚いていた。
「でしょ〜このオンボロ屋敷はここら辺では結構有名なんだよ。
一度入ってみたかったんだ〜」
遥香も屋敷を見上げて、失礼なことを言っていた。
ヨシコは遥香に視線を移して、言った。
「それにしても、今日の遥香ちゃん、なんかいつもより可愛いね〜」
「そ、そう?いつも通りだよ〜
とにかく、インターホン押すよ。」
遥香は総一郎に会えると思い、おめかししてきたのだった。
そして、ごまかし気味に門の横についているインターホンを押した。
すると、屋敷の中からドタドタと聴こえてきて、玄関のドアから、ハルが顔を出した。
「遥香ちゃん!ヨッシー!いらっしゃい!どうぞ〜入って〜」
遥香とヨシコはハルに促されて、屋敷の中に入った。
「お邪魔しま〜す。」
中に入った二人は屋敷の中を見回して、おぉ〜と感嘆の声を上げていた。
すると、ハイテ君がハルのそばにやってきた。
「あっ!これ自動で掃除してくれるやつじゃん!
いいなぁ〜」
遥香はハイテ君を見て、羨ましがった。
「うん。ハイテ君って言うんだよ。」
「?そんな名前だったっけ?
しかし、なんかハルの後ろばっか掃除してるね。」
遥香は少し不思議に思った。
「ハイテ君、ごめん。台所掃除してて。」
ハルはハイテ君に申し訳なさそうに台所の掃除をお願いした。
ハイテ君は言われると指示通り台所へと向かった。
その様子を見て、遥香とヨシコは驚きながら、興奮して言った。
「あの機械ってこんなことまで出来るんだ!
めちゃくちゃすごいじゃん!!」
「いいなぁ〜なんかペットみたいで可愛い。」
ハルはちょっと嬉しくなって言った。
「そうかな?まぁ、とにかく二階の私の部屋に行こう。」
三人はハルの部屋に向かった。
遥香は気になっていたことをハルに聞いた。
「今日、総一郎さんはいないの?」
「いるよ〜。でも、休日は起きるの遅いからね。
まだ、寝てるんじゃないかな?
そだ!みんなで起こしに行こうか!?」
ハルは遥香とヨシコに提案した。
「面白そ〜」
ヨシコは話に乗った。
「いや、それはちょっと失礼ていうか、怒られないの?」
遥香はドギマギしながら、ハルに聞いた。
「むしろこんな時間まで寝てるのを怒らないといけないよ!
てか、いつもこの時間に起こしてるしね。」
ハルは怒った顔をしながら、遥香に言った。
「そ、そうなの?じゃあ、お言葉に甘えて。」
遥香は少し照れながら、ハルに言った。
(お言葉に甘えて、何する気だ?遥香ちゃんは?)
ハルは不思議に思ったが、とにかく総一郎の部屋にノックもしないで入って行った。
総一郎の部屋はハルが掃除してるにも関わらず、服やら本やらが転がっており、汚くなっていた。
そんな中、総一郎はカーテンを閉めた暗い部屋の中のベッドでぐっすり眠っていた。
その様子を見て、遥香はガッカリするどころか、携帯のカメラを構えて、総一郎の寝顔を撮るのであった。
グヘグヘ言ってる遥香を見て、ハルはそういうことかと呆れて、カーテンを開けて、いつも通り総一郎を起こしにかかった。
「総一郎!!起きて!!もうみんな来てるよ!!」
総一郎はう〜んと唸って、寝ぼけ眼で身体を起こした。
「…あぁ…ハル…おはよう…いつも悪いね…」
総一郎はまだ状況を把握してないようだった。
「おはようございま〜す。お邪魔してま〜す。」
「お、おはようございます。」
ヨシコと遥香は総一郎に挨拶した。
「…ん。二人ともおはよう。いらっしゃい…
今日はゆっくりしてってね。」
総一郎は全く慌てる様子もなく、ふぁ〜と立ち上がって、ハルに言った。
「顔洗ってくるよ〜朝ごはんってある?」
「リビングの机に置いてるよ。コーヒーは自分で入れてね。」
「はいはい。いつもありがとね。」
そして、総一郎は洗面所に向かった。
ハルは転がってる服やら本を少しだけまとめていた。
遥香とヨシコはぼ〜とその様子を見ていた。
「あのさ…総一郎さんって、ひょっとして、かなり変わってる?」
遥香は思わず、ハルに聞いた。
「だがら、言ってるじゃん!やめといた方がいいって!」
そして、三人はようやくハルの部屋に入るのだった。
「おぉ〜綺麗じゃん〜ハルちゃんって意外と綺麗好きだよね。」
遥香はハルの部屋を見ながら、言った。
「遥香ちゃんは一言多いんだよな。」
ハルはじとっと遥香を見つめて言った。
「ハルちゃん、これ食べていい?」
ハルは二人が来る前に、部屋のテーブルにお菓子と飲み物を用意していた。
それを見て、ヨシコはハルに聞いた。
「どうぞ。ヨッシーは食べすぎに気をつけなよ。」
ハルは笑ってヨシコに言った。
「うん。じゃあ〜頂きま〜す。」
ヨシコはそう言って、お菓子を頬張った。
「…ちょっと、聞いて欲しいことがあるんだけど…」
ハルは早速、切り出した。
「うん?どしたの?似合わない真面目な顔して〜」
遥香は相変わらず失礼だった。
ヨシコはハルの方を見ながら、お菓子をモグモグしていた。
そして、ハルは勇気を出して二人に言った。
「私…実はお化けが見えるんだ!!」
「あぁ〜やっぱり、そうだったんだ。
そんな感じだったもんね〜」
遥香はあっけらかんとお菓子を食べながら言った。
「うん。そんな気はしてたよ〜
でも、実際にそういう人っているんだね〜」
ヨシコも知ってたみたいな顔をしていた。
ハルは二人の拍子抜けの反応に思わず、聞いた。
「えっと…そんな簡単に信じてくれるの?」
遥香はキョトンとした顔でハルに答えた。
「んっと、お化けが本当にいるのかまでは信じてないけど、私達に見えない物にびっくりしてるんだろなってのは、ずっとハルちゃんを見てて、知ってるからさ。
だから、100%信じてるかって言われたら、そんな信じてないよ。ぶっちゃけ。」
ヨシコもハルに二個目のお菓子を食べながら、ハルに言った。
「私はハルちゃんはずっと何か隠してるなって思ってて、それがこのことだったのか〜て、信じてるっていうか、納得した感じだよ〜」
ハルは二人の言葉を聞いて、嬉しくなって言った。
「二人とも、そんなに私のこと気にかけてくれてありがとね。
なんか、すごい嬉しい。」
遥香はハルに近づいて、意地悪そうな顔で頭を撫でて言った。
「言っとくけど、私もヨッシーもお化けのことを全部信じてるわけじゃないからね〜」
ハルは少しだけ迷ったが、はっきりと遥香に言った。
「…で、なんだけど…実はこの屋敷にもお化けがいるの…」
「えっ?」
遥香とヨシコは驚いた。
ヨシコは少し怯えているようだった。
ハルは用意していたタブレットを二人に見せて、言った。
「紹介します!
お化けの桜おねぇちゃんです。」
ハルがそう言うと、タブレットが勝手に起動して、事前に立ち上げていたテキストアプリ上に誰も触れていないのに文字が次々と入力されていった。
「初めまして。東雲桜と申します。以後、よろしくお願いいたします。」
タブレット上に入力された文字を見て、遥香とヨシコは固まった。
ハルはやってしまったかと、内心ビクビクしながら、二人に言った。
「あ、あのね。桜おねぇちゃんはお化けだけど、悪いお化けじゃないから大丈夫だよ!
でも、もし怖かったら言って!」
「そりゃ、怖いよ!!てか、どうやってるの?」
遥香は思わず、ハルに突っ込んだ。
ヨシコはタブレットを見ないよう顔を手で覆っていた。
「えっと、お化けって、こういう電気機器を扱いやすいらしくて、桜おねぇちゃんが操作してるの。
やめてもらおうか?」
ハルは一応、遥香に説明して、聞いた。
遥香は何が何だかといった感じで混乱していたが、ハルに答えた。
「い、いや、とりあえず、もう少しだけ。
ど、どうして、その桜さん?はここにいるの?」
すると、タブレットが動き出して、桜の返事が入力された。
「それはハルを呪い殺すためです。げっへっへっへ。」
「ひっ!!」
遥香はぞっとして、のけぞった。
遥香の様子を見て、おかしいと思い、ハルからはタブレットの画面が見えなかったので、画面をのぞき込むと、恐ろしい文面が入力されていた。
「桜おねぇちゃん!!悪ふざけはやめてよ!!
シャレにならないから!!」
ハルは桜に怒った。
桜はニヤニヤしていた。
すると、タブレットにまた桜の言葉が入力されていった。
「申し訳ありませんでした。お茶目な冗談です。
「げっへっへっへ」で気づいてくれるかと思ったのですが、甘かったですね。」
「ほら、大丈夫だよ!!桜おねぇちゃん、意地悪で、からかっただけだから!!」
遥香は怖がりながらも、タブレットの文面を見て、少しだけ安心したようだった。
「…ホントにシャレにならないよ…にしても、すごいな。
さすがに、信じるしかなさそうね。」
遥香は変に感心していた。
ヨシコは相変わらず、顔を手で覆っていた。
「実は、「トイレの花子さん」の時に言ってたのが桜おねぇちゃんだったの。」
「あぁ、そういえば言ってたね。ニートのお姉さんがいるって。
まさか、お化けだったとは…」
「で、ヨシコがいじめられてる時に助けてくれたのも桜おねぇちゃんなの。」
ヨシコは顔を上げて、ハルを見た。
「あっ!あの時、トイレの水を流したのが、そうなの?」
「うん。そういうこと。」
ヨシコはずっと不思議に思っていたことが、こんなところで分かるとはと、変な気持ちになっていた。
「え、えっと、その節はありがとうございました。」
ヨシコはとりあえず、桜にお礼を言った。
すると、タブレットにまた、桜の言葉が入力された。
「いえいえ。こちらこそ、こんなハルと仲良くしてくださって、ありがとうございます。
大したおもてなしはできませんが、ごゆっくりしていって下さい。」
遥香とヨシコは桜の言葉を読んで、どうやらそんなに怖いものではないんだと分かった。
「なんか、あれだね。確かにハルのお姉さんって感じだね。
桜さんって、どんな姿してるの?」
「メイドさんの姿をしてるよ。黒髪ロングのきれいなおねぇちゃんだよ。
ただ、頭から血を流してるけど。」
「何それ!?やっぱ怖いじゃん!!」
「いや、慣れたら平気だよ!!」
「…ハルちゃんって、やっぱり変わってるよね~」
気づくと、4人は楽しく話したのだった。
桜との話が一段落して、ハルは二人に気になっていることを聞いた。
「あのさ…こんな私だけど、やっぱり気味悪くなった?嫌いになった?」
すると、遥香は珍しく怒った様子で、ハルに言った。
「ハルはさ。嫌われたくないから私達といるの?」
ハルは慌てて遥香に答えた。
「ち、違うよ!!二人と一緒にいると楽しいし、二人のことが大好きだから、一緒にいるんだよ!!」
遥香は少し間をおいて、ニコッと笑って、ハルに言った。
「…そう!それでいいんだよ。
正直、今日のことで少し気味悪くなったし、より一層変に思ったけど、それでも本当のこと話してくれてうれしいし、何よりハルのことが大好きだから、私も一緒にいたいって思うんだよ。
だから、これからはそういうこと聞くのはうざいから、無し!」
遥香はなかなか辛辣なことをハルに言った。
「うん。私も変だとは思ってるけど、ハルちゃんのことが大好きだから、ずっと一緒にいたいと思ってるよ。
もうちょっと私達のこと信じてくれてもいいんだよ~」
ヨシコも正直な思いをハルにぶつけた。
ハルは自分を受け入れてくれたことが本当に嬉しくて、嬉しくて、目に涙浮かべながら、二人に言った。
「二人ともホントありがとう…
ごめん…嬉しかったから、もう一回言ってくれない?」
「なんでよ!!言わないよ!!」
「欲張りすぎだよ~」
遥香とヨシコは笑って、ハルに突っ込んだ。
続く