友達
「ハルちゃんって、本当に友達いないの?」
ハルが小学4年生の3学期の終業式間近の頃、ハルはトイレの花子さん事件を通して、友達となった同学年の武田良子と6年生の志岐遥香、三人で放課後、遥香の部屋で話していた。
「急にどしたの?」
ハルは遥香の急な質問に戸惑った。
「だって、ハルちゃんと友達になってから半年以上経つけど、かわいいし、外面も良いし、人に嫌われる要素がないんだもん。確かに実際、友達になってみると、ガサツだったりするけど。」
遥香は素直なハルの評価を口にした。
「…それ聞いて、褒められてると思うほど、私バカじゃないよ?」
ハルはなめられてると思い、遥香に文句を言った。
「いやいや。かわいいっていうのは褒めてるでしょ。
でも、ホント分からないんだよ。
ハルちゃんって普通にいい子だし、それなりに礼儀もしっかりしてるし。
なんで、そんなに友達ができないのかなって?」
遥香はぼちぼち失礼なことを純粋な顔をして、聞いてきた。
「…逆にこんな遥香ちゃんがなんでそんなに友達多いのかが分からないよ。」
ハルは若干、皮肉めいたことを遥香に言った。
「それは私は努力してるからだよ!
頑張って勉強して、面倒くさいけど、クラス委員長にもなって、皆に認めてもらうために努力してるんだよ。
素の性格はどうであれ。」
遥香はこういう人だったのである。
ハルの登校班の班長だった遥香は真面目で温厚でなんでも出来て、皆に好かれていて、ハルにとっても憧れのお姉さんだった。
しかし、いざ、心を許すと毒舌というか、正直というか、結構失礼な奴だったのである。
だが、ハルはそんな遥香が大好きなのである。
「…まぁ、それは見てれば分かるよ。すごいなって。
友達が少ないのは、引っ越してばっかりだったのもあるけど、多分…私がちょっと変わってるからだよ。」
ハルは遥香が出してくれたクッキーを頬張りながら、言った。
「まぁ〜でも、ハルちゃんって確かに変わってるよね〜」
ヨシコがぼ~とした声で、ジュースを飲みながら、ハルに言った。
ハルは呆れた顔で遥香とヨシコに言った。
「…前もこんな話したと思うけど、二人ってやっぱり私のことからかってるよね?」
「ギクっ!そ、そんなことないよ〜」
「声にでとるがな!」
遥香とヨシコは笑っていた。
ハルはムッとしながらも、嫌な気持ちではなかった。
すると、ヨシコがハルに言った。
「ハルちゃんは私を助けてくれたでしょ〜
私は嬉しくて、あのことを一生忘れないと思うんだ〜
だから、他の子にも同じように接すれば、簡単に友達できると思うよ〜」
ヨシコはこういう人だったのである。
同じクラスの子にトイレでいじめられていたヨシコは非常におっとりしたおとなしい子で、話し方がゆっくりで、よく言えば落ち着いている、悪く言えばとろくさい、そんな女の子だった。
しかし、嘘をつかない純粋なヨシコのことがハルは大好きなのである。
「ヨッシーはホントいい子だな~」
そう言って、ヨシコに抱き着いて、ハルはヨシコの頭を撫でながら言った。
「うんうん。
ハルちゃんって、ちょっと私達以外に対して、一歩引いてるというか、臆病っていうか、そういうとこ直したら、私みたいに友達いっぱいできるよ!頑張って!」
遥香はハルに偉そうにアドバイスをした。
ハルは微妙な顔をして、遥香に言った。
「ホントにどうして、それで友達がいっぱいいるんだ…」
「ははは〜大丈夫!
こういうのはよっぽど気を許してる人にしか言わないから。空気は読む方だからね〜」
そう言って、ハルに抱き着いて、遥香はハルの頭を撫でるのであった。
ハルは満更でもない顔をしていた。
「そういや空手の道場にも友達いないの?」
遥香はそのまま頭を撫でながら、ハルに聞いた。
ハルは少し考えて答えた。
「う〜ん…道場はほとんど男の子だし、なんだろ?
友達というか、仲間って感じかな?
こんな仲良く遊んだりはまったくしないね。」
「逆ハーレムじゃん!!そこに恋心はないのかね?ん?」
遥香はハルのほっぺをつつきながら、おちょくるように言った。
「つつくのやめれ!別にそういうのはないかな。
全然考えたことないや。」
ハルはつつかれてむすっとしながら、照れる様子なく、答えた。
「ん〜まだハルちゃんには早いか〜まぁこれからだね〜。」
遥香は随分な高みからハルを見下ろしているようだった。
「じゃあ、遥香ちゃんは好きな人いるの?」
ハルは調子に乗っている遥香に反抗するように聞いた。
「さぁ…どうだろうね〜私もわかんないや。
強いて言うなら、総一郎叔父様かな〜」
遥香はうっとりした顔でハルに言った。
「だから、やめといた方が良いって!」
「なに〜ひょっとしておじさんを取られたくないの〜?」
遥香はハルの顔を指でうりうりした。
ハルは神妙な面持ちで遥香に言った。
「…別にいいんだけど、これだけは覚えててね。
私は止めたからね…」
「な、なんかマジじゃん…
でも、流石に歳の差ありすぎるから、そんな本気じゃないって〜
私もまだ、恋愛とかは分からないしね〜」
遥香はハルの様子を見て、少し戸惑いながら、言った。
「まだまだ私達は子供なんだよ〜」
ヨシコがジュースをずずずと飲みながら言った。
「まさか、ヨッシーが締めてくれるとは…」
ハルと遥香はヨシコに話をまとめられたのが可笑しくて、笑ったのだった。
「…てか、遥香ちゃん、もうすぐ卒業だね。
せっかく仲良くなったばっかなのに〜」
ハルはすねたように遥香に言った。
「そだね〜
でも、まぁ家は近いし、中学校は小学校のすぐ隣だし、わりと簡単に遊べると思うよ。」
遥香は寂しい様子を全く見せず、ハルに言った。
「そっか〜中学生か〜大人になるんだね〜」
ヨシコは親戚のお婆さんのように呟いた。
「じゃあ、中学生になってもちゃんと私達と遊んでよ〜」
「もちろん!先輩として、指導してあげるよ〜」
「おねがいしま〜す」
三人はまったりと女子トークを楽しんだのだった。
ここまで心を許して話せる友達が今までいなかったハルは本当に幸せだった。
二人のことを大事にしたいと心から思っていた。
だか、ずっと心に残っていることがハルにはあった。
それはお化けが見えることを二人に話していないことだ。
ハルは一人になるといつも桜と龍の言葉を思い出すのだった。
「嫌われるのが怖いから本当のことが言えない臆病者」
「俺はお前のダチが欲しいから、ダチに合わせるって考え方が大っ嫌いだ!」
その言葉を思い出す度に言わないといけないと思うのだが、どうしても話せなかった。
(やっぱり、変な目で見られちゃうよな。)
(最悪、嫌われちゃうかも。)
(もし、二人に嫌われたら、私…)
(大好きな二人とこのままの関係でいたい!)
そんな考えがグルグルと回って、話せなかったのだった。
「じゃ、また明日ね。」
そう言って、ハルは遥香の家を出た。
「うん。また遊びに来てよ。じゃあね〜」
遥香は手を振って答えた。
「ヨッシーもまたね。帰り道、気をつけなよ〜」
そして、家が逆方向のヨシコにも若干心配しながら、ハルは言った。
「うん。バイバイ。ハルちゃん。」
ヨシコは少し寂しそうな顔をしながら、帰っていった。
その帰り道、ハルはまた考えるのであった。
(…今日も言えなかったな…)
「ハル!」
ハルの後ろで総一郎が手を振っていた。
「総一郎!今日は早かったんだね。」
「うん。早めに仕事が終わってね。ラッキーだったよ。」
二人は家まではそんなに距離はなかったが、一緒に並んで帰った。
「志岐さんちで遊んでたんだね。
ホントにいい友達を持って良かったね。」
「うん!ヨッシーもいい子だしね!
でも、遥香ちゃんって、私のこといっつもからかってくるんだよ〜困ったもんだよ!」
「ははは。志岐さんってそんな子だったんだ。意外だね。」
総一郎は笑っていた。
ハルは笑いつつも、少しうつむいて、考えていたことを総一郎に聞いた。
「あのさ。総一郎。
お化けが見えるって、二人に話した方がいいかな?」
総一郎はやや考え込んでいる様子のハルを見て言った。
「そうだね。難しいね。なかなか。
前に言った「墓場まで持ってく」って言葉覚えてる?」
ハルは総一郎を見上げて言った。
「もちろん!忘れたことないよ。
あの時、総一郎が「墓まで持っていってもいい」って言ってくれて、すごく楽になったもん。
でもさ。あの二人には隠し事したくないんだ。」
総一郎は笑ってハルに言った。
「ハルはさ。すごい幸せ者だと思うよ。」
「急に、何さ。」
ハルはややむくれて、総一郎に言った。
総一郎はハルの頭をなでて、優しく言った。
「どうしても言えない、言いたくないことは誰だってあると思うけど、それを話したい、分かってほしい人がいるってのはあまりないんじゃないかな?
自分の全部を知ってほしい人がいるっていうのは、それだけその人のことが大好きだからで、そういうのは幸せだと思うんだよ。
なんたって、「一緒に墓まで持っていきたい」程の友人ができたんだからね。」
ハルは総一郎の言葉を聞き、何かむずがゆくなり、顔を赤くした。
「あとね。僕も幸せ者だよ。
ハルが勇気を出して、お化けが見えることを言ってくれたのが、本当にうれしかったからね。
僕のこと信頼してくれてるんだって。
だから、志岐さんも武田さんもきっと、僕と同じ気持ちになると思うよ。」
総一郎はいつもの笑顔でハルに言った。
ハルは嬉しかったが、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「…総一郎ってさ。結構恥ずかしいこと平気で言うよね。
クサいというか、なんというか。」
ハルは強がって、総一郎に言った。
「そ、そう?確かに時々言われるかな?
思ったことなんでもしゃべっちゃうタイプだからな~」
総一郎は頭を掻きながら、照れて言った。
「おかげで、総一郎って隠し事なさそうだから、安心できるけどね。」
ハルは笑いながら、総一郎に言った。
「まぁ、とにかくゆっくりでいいから頑張ってみてもいいと思うよ。
失敗しても僕と桜さんがいるし、ハイテ君だっているし。
だから、当たって砕ける気持ちで言ってみたら?」
「いや、砕けたくはないから、困ってるのに…
ホントそういうとこだわ。総一郎は…」
そうして、二人は屋敷に着いたのだった。
続く




