エピローグ
「ものの見事に現れてましたね。「足だけランナー」とやらは。」
その日、出前のピザを食べ終えて、まったりしているところにゲームをしている桜がハルに言った。
「ふふふ。そのことなんだけど…」
ハルは不敵な笑みを浮かべて、桜に言った。
「何ですか。気味悪い。」
桜はいつもと違うハルの反応を気持ち悪く思った。
「「足だけランナー」の正体はきっと、運動会に出られなかった6年生の男の子の走りたいって
「思い」だったんだよ!!」
ソファーでふんぞり返りながら、桜に言った。
「珍しいですね。ハルからお化けの正体について、聞けるなんて。
で、なんでそう思ったんですか?」
桜はハルが初めて自分でお化けの正体を見つけたのかと興味が出て、ゲームをやめて、ハルの話を聞くことにした。
「んっとね。
まず、始めにおかしいと思ったのが、「足だけランナー」が走ってる人を追い抜いても何もしなかったってことなの。
だって、話だと追い抜かれたら、あの世に連れてかれるはずだったからさ。」
「まぁ、話を聞いて、実際に見えていたら、誰でもそう思うでしょうね。」
桜は無表情でハルに当たり前だろうといった感じで言った。
ハルは少しムッとしたが、続けて説明した。
「で、「足だけランナー」って、その後もとにかくずっと走り続けてたでしょ。
それ見て思ったんだけど、ひょっとしたらこのお化けって、ただ走りたいだけなのかなって。
じゃあ、そんなに走りたい人って誰なんだろう?って思ったんだよ。」
「なるほど。走りたくても走れない人がいて、その人の「思い」が「足だけランナー」となって、走っていたと。」
「そう!
初めはそういう走りたくても走れない子が「足だけランナー」の噂を流して、ちょっとした嫌がらせをしたのかなと思って、遥香ちゃんに聞いたけど、噂の出どころは谷口先生っていう人だったから、検討違いだったよ。
でも、6年生にケガして50m走に出れなかった陸上部の男の子がいるって聞いて、これだ!って思ったの。
運動会に出たかったけど、出れなかったその子の「思い」が「足だけランナー」になったんだよ!
どう?」
ハルは自信満々な顔で桜に説明し終えて、感想を聞こうとした。
桜は少し考えた後、ハルに言った。
「…話は分かりました。その可能性はあるでしょうね。
でもなぜ、「足だけ」の姿だったのでしょうか?
ハルの話であれば、その男の子の姿で現れそうなものですがね。」
ハルは確かにと思って、考えて、苦し紛れに答えた。
「う~んと、やっぱり、足が一番イメージしやすかったってことじゃないの?」
「しかし、短距離走というのは上半身のフォームも重要でしょう。
その男の子は陸上部だけあって、走行フォームも気にしていたんじゃないですか?
イメージするなら、きっと足先だけでなく、全身をイメージすると思いますよ。」
桜はハルに説明を求めた。
しかし、ハルはぐぬぬと反論できない様子であった。
「どういう話なの?ハル。」
隣で聞いていた総一郎がハルに聞いた。
「ちょっとまって!総一郎。」
そういえば、総一郎に「足だけランナー」の話をしていなかったとハルは思ったが、今回は自分で解きたかったので、もう少し考えることにした。
「…というわけなんだけど、何かアドバイスちょうだい。」
結局、ハルはあっさり、総一郎に助けを求めるのであった。
「ふむ…
確かにその運動会に出れなかった男の子の「思い」が「足だけランナー」でありそうではあるね。
ただ、桜さんの言う通り、それなら「足だけ」で現れるのはおかしい気もする…」
総一郎はう~んと考えて、ハルに言った。
「ひょっとしたら、その男の子の「思い」がベースになって、他の子達の「足だけランナー」のイメージがそのベースに乗っかることで、お化けとして現れたんじゃないかな。」
「ん~どういうこと?」
ハルはピンと来なかったので、総一郎に聞いた。
「きっと、その子の走りたいって「思い」だけではお化けになる程の力がなかったんだよ。
ただ、その子の「思い」はお化けのとにかく走るって土台になるくらいには強くて、その土台に噂を信じている子達の「足だけランナー」の姿が乗っかって、それが積み重なって、「足だけランナー」が現れたんじゃないかってこと。」
「え~と、つまり、6年生の男の子の走りたいって「思い」と、周りの「足だけランナー」のイメージみたいなものが合わさって、あのお化けが生まれたってこと?」
総一郎の説明を聞いて、ハルは自分の言葉でまとめた。
「そういうこと。
もっと言うと、多分、生徒達だけでなく、谷口先生の「思い」もあったんじゃないかな?」
「谷口先生の「思い」?」
ハルはまさかここで谷口先生の名前が出てくるとは思わなかったので、少し驚いた。
「うん。遥香ちゃんの話だと、谷口先生って怖い話好きなんでしょ?
じゃあ、「足だけランナー」なんて、ありもしない話をするのはおかしい。
谷口先生は練習でケガをしてしまった男の子を見て、生徒たちにあまり無茶な練習をしてほしくなかったんじゃないかな。
それで「足だけランナー」の噂を広めて、放課後、あまりかけっこの練習をさせないように仕向けたんじゃないのかと思ったんだよ。」
「なるほど。」
ハルは総一郎の考察に感心するように納得した。
そして、総一郎はハルに笑いかけて言った。
「「足だけランナー」の生みの親、谷口先生の「誰もケガをしませんように」って「思い」と、男の子の「走りたい」って思い、そして、周りの噂話への「思い」、この三つが重なって、「足だけランナー」が現れたんだよ。きっと。」
総一郎の説明を聞いて、ハルは全てを納得して、すっきりしたのだった。
ハルの様子を見て、桜は無表情で偉そうにハルに言うのだった。
「自分で考えようという気概は良かったです。
しかし、まだ爪が甘かったですね。今後に期待していますよ。」
ハルはそんな桜を見て、うんざりしながら、一言言った。
「…桜おねぇちゃんは「私をからかいたい」って「思い」でここにいる気がするよ…」
桜は意地悪な笑みを浮かべて答えた。
「フフフ。それはきっと当たっていますよ。
やるじゃないですか。ハル。」
終わり




