噂話
「二人とも暇なら、私の家に寄ってかない?ちょっとお茶しようよ。」
遥香の家の前までついた時、遥香はハルとヨシコに提案した。
「いいの?私は大丈夫だよ。」
「私も~」
「よし!じゃあ、どうぞ入って。ちょっと話したいことがあったんだ~」
そう言って三人は遥香の家に入っていった。
「うわ〜私、友達の家に入ったの初めてだわ〜
友達いなかっただけだけど。」
「私は一回だけあるよ〜」
2階の遥香の部屋に向かう途中、ハルとヨシコは悲しいことを気にする様子もなく話していた。
遥香はさすがにかける言葉がなかった。
「どうぞ〜適当にくつろいでて。お菓子と飲み物取ってくるよ。」
そう言って遥香は台所に向かった。
遥香の部屋は優等生らしく、綺麗に片付いていて、女の子らしさもある可愛らしい部屋だった。
「おぉ〜」
ハルとヨシコは少し緊張しつつも興奮した様子で、部屋を見回していた。
「はい。どうぞ。」
遥香が戻ってきて、クッキーとコップ3つとペットボトルのお茶をお盆に乗せて、机の上に置いた。
「ありがと。じゃあ、いただきま〜す。」
三人はクッキーを一つ取って、食べ始めた。
すると遥香が一口クッキーをかじった後、話を切り出した。
「…ねぇ。「足だけランナー」って知ってる?」
ハルはクッキーを頬張りながら、遥香に答えた。
「遥香ちゃんって見た目によらず、怖い話好きだよね。
でも、「足だけランナー」なんて初めて聞いたよ。」
「私も知らな〜い。」
ヨシコは早くも二つ目のクッキーに手を伸ばしながら、答えた。
「そうなんだ。まだ4年生には広まってないんだね。
最近、6年生の間で流行ってるんだけど、運動会が近づくと出てくるお化けで、遅くまでかけっこの練習してると、足だけのお化けが追ってくるんだって。
で、そのお化けに追い付かれたら、あの世に連れてかれるそうだよ。
…どう?怖くない?」
遥香は少し不気味な笑顔を浮かべながら、「足だけランナー」について、説明した。
「ん〜なんか弱い話だな〜
そのお化けはなんで足だけなの?」
ハルはこれまで体験してきた中ではまだまだかなと少し調子に乗って遥香に聞いた。
「いいこと聞いてくれたね。ハルちゃん。
「足だけランナー」は昔、学校だけじゃなくて、日本の中でも有数のランナーだったんだけど、ある日、練習のしすぎで怪我をしちゃって、もう走ることができなくなっちゃったの。」
遥香はより一層不気味な顔をして話し出した。
「…で、こっからが1番怖いというかエグいんだけど、その子は「走れない、痛むだけの足なんていらない」って言って、夜中に一人こっそりと線路に行って、足を電車側に向けて線路の上に置いて、寝転がったんだって。
そしたら、暗いし寝転がってるしで、電車の運転手には気づかれないで、そのまま轢かれちゃったの。
もちろん、足は千切れるし、身体も轢かれた衝撃で吹っ飛ぶしで、結局そのまま死んじゃったんだけど、不思議なことに足だけが見つからなかったんだって。
…その日から、学校では足しかない「足だけランナー」が現れるようになったんだって。
…その子の走りたいって未練が千切れた足を動かして、グランドで走ってる子達を自分と同じところ、つまり、「あの世」に誘ってるって話…
ね?怖いでしょ?」
話終わった遥香はとても楽しそうだった。
ハルとヨシコは話の途中から抱き合っていた。
ハルはめちゃくちゃ怖かったが、強がって言った。
「へ、へぇ〜なかなかじゃない?
まぁ、でもエグいってだけかな〜?」
ヨシコはクッキーも食べずに耳を塞いでいた。
「ははは〜ごめんごめん。私怖い話好きでさ〜
こういう話を聞いたら、すぐに話したくなるんだ〜
所詮、都市伝説だから、気にしないでよ〜」
遥香は二人の怖がってるところを見て笑いながら、二人に謝った。
「…遥香ちゃんも私と同じくらい変わってるよね?ヨッシー?」
「…うん。しかも、ハルちゃんよりタチ悪いよ…」
二人はまだ抱き合いながら、遥香に言った。
「いや〜こんなに怖がってくれるとは本当に二人は可愛いな〜」
そうして遥香も二人を抱きしめながら、頭を撫でるのであった。
「桜おねぇちゃん。「足だけランナー」って知ってる?」
帰宅したハルはさっそく、相も変わらずゲームをしているお化けの桜に遥香から聞いたお化けについて聞いたのだった。
「知らないです。」
桜はいつも通り無表情で簡潔に答えた。
ハルはため息をつき、うんざりした様子で桜に言った。
「そう言うと思ったよ。
いっつも最初は知らないって言われてるから、慣れたけど、どうせいつも通り知ってるんでしょ?
ゲームしながらでもいいから、教えてよ~」
桜はきょとんとした顔でハルの方を見て、答えた。
「本当に知らないですよ。「足だけランナー」なんて聞いたことも見たこともないです。」
「えっ、そうなの?ほんとに?」
「はい。」
いつもと違う意地悪そうな顔をしていない桜の表情から見て、どうやら本当に知らないようだった。
「そうなんだ…桜おねぇちゃんって、うちの学校に結構来てるよね?
今までグランドに足だけのお化けって見たことない?かけっこの練習してる人を追いかけてるらしいんだけど。」
「学校には友人の花子さんがいますからね。
しばしば行くことはありますが、そんなお化けは見たことないですね。
花子さんもそんな話をしたことがありませんし、恐らく、その噂話は最近、語られ始めたんじゃないですか?」
桜はゲームをしながら、ハルに丁寧に説明した。
「…花子さんとそんなに仲良いんだ…
なんか、良く分かんない関係だね…」
ハルは「トイレの花子さん」と桜の関係性に疑問を持ちつつも、足だけランナーについて考えた。
「…確かに今日初めて遥香ちゃんに聞いた話だし、去年の運動会の時にもこんな話は出てこなかったもんな。
…私に噂話してくれる友達がいなかっただけかもしれないけど…」
ハルは無駄に落ち込んだのだった。
気を取り直して、ハルは桜に聞いた。
「最近、この町で電車に轢かれた人っているのかな?何か知らない?」
桜はため息をつきながら、ハルに言った。
「…こういう時にかける言葉を最近知りましたよ。ハルにも教えて差し上げましょう。」
「なにそれ?面白そう!!」
「「ググレ」です。」
桜はそう言って、そばにある机の上のタブレットの方に指をさして、目をカッと開いて見つめた。
すると、タブレットが起動し、ウェブ検索画面の検索欄に「西南小学校 電車事故」が入力されて、検索ページが開かれた。
そして、桜は視線をゲームに戻して、続きを始めた。
ハルは言葉の意味は分からなかったが、そんなにもめんどくさいかと呆れた。
しかし、なんだかんだ手伝ってくれる桜を見ると少しおかしくて、ぷっと笑って言った。
「ありがと。桜おねぇちゃん。
じゃあ、調べてみるよ。」
ハルはタブレットを操作して、最近、この辺りで電車事故がなかったか調べた。
しかし、どうやらそういった事故はなかったようだ。
(普通、あんな悲惨な事故ならニュースになってるはずだけど、特に情報がないってことはやっぱりただの都市伝説に過ぎなかったってことかな。)
ハルはほっとして、桜に言った。
「よかった。特になかったよ。
多分、単なる噂話で、「足だけランナー」なんていないみたい。」
桜は無表情でハルに言った。
「そうですか。しかし、気を付けることですね。」
「ん?なんで?結局、いなかったんだよ?」
ハルは桜の言葉を不思議に思って、聞いた。
「以前、総一郎が言っていたでしょう。
多くの生きている人間の「思い」が重なってお化けになることもあると。
学校中の人がその噂話を信じて、その「思い」が集まったら、本当はいなくても、お化けとなって出てくる可能性があるということではありませんか。
だから、気をつけなさいと言ったのです。」
桜は依然ゲームをしながら、ハルに説明した。
ハルは怖くなって、桜に聞いた。
「えぇ~怖いこと言わないでよ~
そんなの気をつけるたって、どうしたらいいの?」
桜はゲームの手を止めて、不気味に笑い出して言った。
「ふふふ。なんて便利な言葉でしょうか。
何度でも言ってあげましょう。」
ハルは急に笑い出した桜を見て、むっとして聞いた。
「なにさ。急に。」
桜は振り向き、意地悪な笑みを浮かべて、ハルに言った。
「ググレ。」
続く




