遥香とヨシコ
「お待たせ!遥香ちゃん!」
運動会が近づいた秋、小学4年生のハルは小学6年生の志岐遥香に小走りで向かって言った。
「今日は私のが速かったね。珍しい。」
遥香は門の前で待ちながら、ハルに答えた。
ハルと遥香はトイレの花子さん事件を通して、仲良くなり、登下校を共にすることが多くなったのだ。
「ちょっと待って!ハルちゃん!」
やや遅れてハルと同学年の武田良子が走ってきた。
「いや~ヨッシーと図書室で喋ってて、気づいたら時間過ぎちゃってたんだよ。」
「私のせいにしないでよ~私は急かしたけど、ハルちゃんがもう少しだけって本読んでたせいだよ~」
ヨシコはハルの言い訳に文句を言った。
トイレの花子さん事件の後、ハルとヨシコも仲良くなったのだった。
「いや~悪かったって。丁度いいところだったんだよ。」
ハルが少し言い訳をしたが、遥香は見透かしたようにヨシコの頭を撫でながら言った。
「ヨッシー。分かってるよ。ハルが悪いんだってことは。」
ハルはむぅっとした顔で二人に言った。
「もう!悪かったって!!とにかく、一緒に帰ろうよ!!」
ハルと遥香は同じ登校班であるくらいに家が近く、ヨシコも二人とは距離が遠いが同じ方向に家があったので、三人で一緒に帰ることが多くなっていた。
しかし、ハルとヨシコとは学年が違うので、普段は遥香も同学年の友達の家に行ったり、直接遊びに行ったりすることの方が多かった。
最近では遥香は生徒会の会長をやっているため、運動会が近くなるほど、放課後に時間がとられて、いつもより帰るのが遅くなっているのだった。
それでハルとヨシコは遥香と一緒に帰りたいと、生徒会の仕事が終わるまでグランドで遊んだり、図書室で本を読んだり、話したりして、遥香を待つことが日課になっているのであった。
「もうすぐ運動会だけど、ハルちゃんって運動はどうなの?」
「ん~勉強よりは得意かな?」
「ハルちゃんはすごい足がはやいんだよ~いっつも一番だもん。」
「なんかそんな感じだね。空手やってるだけあって、なんか肉体派っぽい。
勉強出来なさそうだけど。」
「そ、そんなにできないわけじゃないよ?勉強も普通だよ?」
「勉強は私の方がいっつも勝ってるよ~」
三人はいつも通り、そんな他愛もない話を楽しみながら、下校していた。
すると、横断歩道で赤信号を待っているとハルはいつもの悪寒がして、急に下を向いてしまった。
ハルが少し顔を上げると、車が行きかう横断歩道の真ん中に傷だらけの女の人がたたずんでいたのだった。
(…もうホントやだ…)
ハルは早く青になってほしいと心から願っていた。
すると、遥香とヨシコの二人はハルの様子を見て、ハルの両手を握った。
そして、信号が青になり、三人は手をつなぎながら横断歩道を渡った。
ハルは嬉しかったのと同時に不安になり、ずっと気になっていることを二人に聞いた。
「…ねぇ?私って変じゃない?急に怖がったり、びっくりしたりさ…」
遥香は笑ってはっきりと答えた。
「もちろん。変だよ。」
ヨシコも笑って言った。
「うん。そだね~ちょっと変わってるよね~」
ハルははっきりと言われて、何故か少し嬉しくて、再び、二人に聞いた。
「…ホント二人って正直というかなんというか…
こんな変な私って怖くない?気持ち悪くない?」
遥香は少し考えた風で答えた。
「ん~そんなこと言ってるハルちゃんは気持ち悪いかな~」
ヨシコも笑って言った。
「それは言い過ぎだよ~遥香ちゃん。
でも、ハルちゃん、時々、極端に落ち込んでる時あるけど、そんなハルちゃんは気持ち悪いかな~」
ハルは二人の正直な言葉を聞いて、ひょっとしてからかわれてるのかと思いため息をついた。
しかし、なんだか少し心が軽くなった。
遥香は微笑みながら、ハルに言った。
「まぁでも、変な人って他にも結構いるじゃん?
そんな変な人カテゴリにハルちゃんはいるかもしんないけど、その中でもハルちゃんは群を抜いて優しい子ってのは知ってるから、別に変でも一緒にいて楽しいよ。
むしろ、変だからこそ、楽しいのもある。」
ヨシコも遥香に続いて、ハルに言った。
「そだね~どんなに変でも、ハルちゃんは私にとってのヒーローだから、一緒にいるといっつもドキドキしてるよ~」
「そんな風には見えないし、それはちょっとやばくない?」
遥香は冷静にヨシコに突っ込んだ。
「ドキドキしてるのは半分冗談だよ~私も一緒にいて楽しいってことだよ~」
ヨシコはあっけらかんと答えた。
ハルは二人の言葉を聞いて、嬉しくて泣きそうになったが、こらえて二人に言った。
「…私から見たら、二人も変だと思うんだけど。」
「何それ~ひど~い」
「ハルちゃん。自分から言い出したのにそれはないよ~」
そんな感じで三人は楽しく下校したのだった。
続く




