ハイテ君
「よし!」
小学三年生の夏休み、ハルが総一郎の屋敷にきて一年がたった頃、ハルは時間があるので、せっかくだからといつもより気合を入れて屋敷の掃除をしていた。
一年前はゴミ袋でいっぱいだった部屋もハルのおかげで今ではすっかりきれいになったものだった。
今日は隅々までピカピカにしてやるぞと意気込んでいたハルは1階物置のタンスの隙間に何かあるのを発見した。
「なんだこれ?」
ハルは小さな隙間に手を伸ばして取ろうとしたが、届かず、ほうきを使って、ぐいっとタンスの隙間からその何かを取り出した。
それは電気機器のようなもので、コンセントがついていて、何かをはめ込むような形状をしていた。
「…なんだこれ?」
取り出しでもなお、いったい何なのかが分からず、総一郎の元に向かった。
「総一郎~これ何?」
居間で本を読みながら、くつろいでいる総一郎にハルは尋ねた。
「ん?どれどれ?」
総一郎はそう言って、ハルの持っているものを手に取って観察した。
しかし、総一郎は小学3年生に掃除をさせといて、自分はゆっくりくつろいでいるとはとハルは呆れた。
「…ホント、まったくそういうとこだよ…総一郎は」
「えっ?な、何?急に?」
総一郎は急に責められて、たじろいだ。
「別に…で、これって何なの?」
「これは多分、自動掃除ロボットの充電器だよ。どこにあったの?」
「あぁ~~あれの充電器か!やっと見つかったよ!でも、物置のタンスの間に挟まってたよ。
なんで、あんなとこに置いてたの?」
ハルは今までずっと探していた自動掃除ロボットの充電器であると分かって、テンションが上がりつつ、総一郎に聞いた。
「そうだ!そこに置いたんだった。すっかり忘れてたよ。
結構前に友人にもらったんだ。「これなら、お前の家もきれいになるだろ」って。
それで使ってたんだけど、だんだん掃除できるスペース自体がなくなっていったから、一旦、大事にしまっとこうと思ったんだよ。本体は行方不明になったんだけどね。」
総一郎は事もなげに答えた。
「…で、なんでタンスの隙間にその大事なものを隠すように置いてたの?」
ハルは頭を抱えながら、総一郎に聞いた。
「形状からいって、あそこが最もすっきり収まるところだったからだけど。」
「…理系っぽいことを言ってるけど、ただただ、だらしないだけだから!それ!
すっごい出しにくかったんだから!
これからは何かしまう時は私に言ってね!」
ハルは総一郎のだらしなさを怒った。
総一郎は未だに何が悪かったのか、分かっていないようだったが、反省した顔で答えた。
「はい。大変申し訳ありませんでした。」
「まぁ、とにかく早速、掃除ロボットを充電しよう!!これで掃除が楽になるぞ!!
総一郎ももちろん手伝ってくれるよね?」
ハルは少し脅し気味に総一郎に言った。
「はい!!喜んで!!では、取ってまいります!!」
総一郎はシャキッとして、掃除ロボットを取りに行った。
「…でこのポコッと出てるところと、充電器の中心のここを合わせるように置けば…」
総一郎は充電器のコンセントをさして、掃除ロボットを充電器にセットした。
すると、ピロンと電子音が鳴って、掃除ロボットの緑のLEDが光った。
「おぉ!!動いた!!すごい!!」
ハルはテンションが上がった。
「これでしばらく待ってれば、勝手に付近を掃除してくれるよ。
…しかし、本当壊れてなくてよかった…」
総一郎は随分動かしてなかったため、無事動いて良かったとハルに叱られずにすんで、安心したのだった。
ハルは一瞬、また小言を言ってやろうかと思ったが、とりあえず、掃除ロボットを撫でてやりながら言った。
「これからは大事にするから、頼むよ~」
それから掃除ロボットはハルの代わりに一階を掃除してくれるようになったのだが、気づくと椅子の下に挟まってたり、外に出て庭の草原で息絶えていたり、ハルはその度に充電器に戻す作業をして、楽になったどころか、むしろ運動量が増えたように感じた。
しかし、それでも懸命に掃除をし続ける不器用な掃除ロボットの様子を見ていると、ハルと総一郎はなんだか可愛くなってきたのだった。
「なんか、名前を付けたくなるね。」
ある日、総一郎は掃除ロボットを見ながら、つぶやいた。
「確かに!何がいいかな?う~ん…」
ハルは総一郎の案に乗っかって、すぐにロボットの名前を考え出した。
「…不器用とはいってもハイテクな機械だからな~
ハイテク君?・・・いや、ハイテ君にしよう!」
ハルは満面の笑みで掃除ロボットに名前を付けた。
「…そのネーミングセンスはどうかと思いますよ…」
ゲームをしていた桜は微妙な顔をして、ハルに言った。
「い、いいじゃん!!かっこいいでしょ!!総一郎もそう思うよね!?」
ハルは総一郎に詰め寄った。
「う、うん。かっこいいかは置いといて、とんちの効いた良い名前だと思うよ。」
総一郎も微妙な顔をしていたが、ハルに賛同した。
「よし!お前は今日からハイテ君だ!!これからも頑張ってよ!!」
ハイテ君は黙々と掃除をしていた。
続く