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お化けの一生  作者: EFG
ハルが空手を始めた理由
18/58

龍と川田師匠


「ふ~やばかった~」


 川田からの追及を逃れるように走ったハルはフゥと息を吐いて落ち着いた。


「はぁはぁ、い、いや、やばいというか、もうやってしまってるというか…

 とにかく…ちょっと休憩させて…」


 総一郎はハルに手を引かれて、少し走っただけで息を切らせていた。


「総一郎…ちょっとは運動した方がいいよ。」

「…考えとくよ…」


 総一郎は腰に手を当てながら、しんどそうに歩いた。




「龍!いるでしょ!!私、優勝したよ!!」


 ハルは早速、龍に優勝の報告をした。


 すると、ふっと龍が現れて、いつもの悪そうな笑顔でハルに言った。


「マジか!!やるじゃねぇか!!

 さすが、俺の一番弟子だな!!

 まぁ、俺が教えたんだから、優勝して当たり前だけどな!」

「いつから、私、龍の弟子になったのよ!

 でも、ありがと!!龍のおかげだよ!!」


 ハルは憎たらしいことを言われたが、それよりも嬉しくて、龍にお礼を言った。


「おう!!ちび助もおめっとさん!!」


 龍は笑って祝福した。


「いつもお世話になってるみたいだね。

 これからもハルのこと見てやってください。」


 総一郎は龍がいるであろう方向を見て、頼んだ。


「ん?親父さんも俺のこと見えるのか?」

「いや、見えないよ。

 でも、総一郎は家に桜おねぇちゃんってお化けがいるから、なんとなく分かってくれるんだ~

 すごくない?」

「確かにすげぇな。ちょっと変わってんだな。」

「うん!すごい変な人だよ!」

「…君たちはどうやら、僕の悪口を言っているようだね。本当にもう。」

「ほら、聞こえてなくてもなんとなく分かってるでしょ?」

「マジだな。すげぇわ。マジ変だわ。」


 総一郎は二人にいじられてると感じていたが、ハルの楽しそうな笑顔を見ていると許せたのだった。



「そこに龍がいるのか!?」



 川田が突然、現れてハルと総一郎に向かって叫んだ。


 ハルは慌てて、ごまかそうとした。


「えぇ~と、なんというか、総一郎と話してだけというか~」


 ハルはまったく言い訳の言葉が出てこなかった。


 川田は深呼吸して、一旦自分を落ち着かせてハルに言った。


「突然、大きな声を出してすまない。

 いいんだ。正直に言ってくれ。

 君には龍が見えて、龍はそこにいるんだね?」


 ハルは心を決めて、川田に言った。


「…はい。そこにいます。」


 そう言って、ハルは龍のいる方向を指さした。


 龍は先ほどまで満面の笑みだったが、それとはうって変わって真面目な表情で黙っていた。


「そうか…私の声は龍に届いているのかな?」

「多分、聞こえているはずですよ。ねぇ?龍?」

「あぁ、聞こえてるよ。」

「聞こえてるそうです。」


 ハルは念のため、龍に確認した。

 しかし、龍の様子がおかしいようで、ハルは少し怖かった。


「そうか…そうか…

 龍、君にずっと言いたかったことがある。」


 川田はそう言って、龍の方向に向かって、土下座をした。


「すまなかった!!!

 私のせいで…私のせいで…君は死んでしまった!!!

 私が空手を使うなと言ったせいで…

 一言、自分の身を守るためなら、使ってもいいと言っておけば、こんなことには…こんなことにはならなかった!!!」


 川田は大きな声で龍に謝った。


 顔はハルからは見えなかったが、泣いていたのかもしれない。


「…んだよ。それ?

 俺はそんなこと言われたくて、手を出さなかったわけじゃねぇぞ!!!

 こんのクソじじいが!!!」


 龍は川田に向かって怒りの表情で、叫んだ。


 龍の感情に高ぶりに反応したように、道場全体がガタガタ震えていた。


 ハルは怖かったが、龍の気持ちをちゃんと伝えようと川田に言った。


「龍はそんなこと言われたくて、手を出さなかったわけじゃないって、言ってます。」


 川田をそれを聞いてもなお、頭を下げたままだった。


「しかし…君が死んでから、私はずっと後悔していた。

 私の教えのせいで、君を死なせてしまったと。どうすれば、償えるのかと。

 君は…私を憎んでここに残っているんだろう…

 だから、すまなかった…」

「バカ野郎が!!!てめぇに感謝はすれど、憎むことなんてできるわけねぇだろうが!!!

 おめぇの教えはそんなもんじゃなかっただろうが!!!」


 龍は怒った表情で泣きながら、川田に叫んだ。


「…龍は川田師範に感謝はしても、憎んでるわけないって。

 川田師範の教えはそんなもんじゃなかっただろうって。」


 ハルも気づくと涙を流していた。


 川田は顔を下げたままだった。


「しかし…しかし…私は…」


「大体よ!今もまだ教えてるってことは根っこの部分で信じてんだろうがよ!

 自分の考え方は間違ってねぇって!!

 それでいいんだよ!!クソじじいが!!」


 ハルは言葉に詰まり、すぐに龍の言葉を伝えられなかった。


「俺はてめぇに謝られてもちっとも嬉しくねぇんだよ!!

 …俺は…俺はてめぇに認められてぇんだよ!!!

 強くなったって…それだけなんだよ!!!!畜生が!!!」


 龍はもう泣きじゃくっていた。


 ハルは伝えないといけないと自分を奮い立たせて、涙ながらに川田に言った。


「…龍は川田師範の教えは間違ってないって、

 それに、謝られても嬉しくないって言ってます。

 ただ、認められたいって、強くなったって言ってほしいって。

 …だから、私からもお願いします。

 龍を褒めてあげてください。」


 川田はハルの言葉を聞いて、しばらく、黙って下を向いたままだったが、顔を腕で拭ってから上げて、龍に言った。



「君は私が見た中で最も強い人だ。

 君はもう私を超えているよ。龍。

 今まで、ありがとう。」



「…なんだよ…やればできるじゃねぇかよ…

 初めからそれでいいんだよ。クソじじいが…」


 龍はそう言って、ハルの方を向いた。


「よぉ!ちび助!俺がお化けになった理由分かったぜ!!

 てか、なんでおめぇが泣いてんだよ?」


 龍はいつもの笑顔になっていた。


「う、うっさいな!!こっち見ないでよ!!」


 ハルは少し照れたが、いつもの調子に戻った龍を見て安心した。


「…俺は多分、このクソじじいを俺から解放させてやりたかったんだよ。きっと。」


 龍は少し悲しそうに言った。


 そして、ハルに向かって笑って言った。


「がはは!!ちび助も今までありがとな!!楽しかったぜ!!」

「ど、どしたの?急に?」


 ハルは急にお礼を言われてびっくりした。


「最後の言葉だ!ちび助!しっかり、じじいに伝えてくれよ!!」

「えっ!最後?」


「川田師範!!!今までありがとうございました!!!

 押忍!!!」


 そう言って、龍は消えていった。




「…そうか、最後にそんなことを言っていたか…」


 川田は龍の最後の言葉をハルから聞いて、つぶやいた。


「…はい。とても幸せそうな顔をして、どっかにいっちゃいました。」


 ハルは少し寂しそうに言った。


「残念だけど、おそらく龍はもう戻ってこないと思うよ。

 あいつは今まで自分の言ってきたことを覆したことは無いからね。」

「…どういうことですか?」

「君もなんとなく分かってるんだろう?

 あいつが最後って言ったのなら、それは本当に最後なんだよ。

 嘘はつかない奴だったからね。」


 ハルは泣きそうになりながらも強がって、答えた。


「…そうですよね。やっぱり。

 もう!ホントに勝手な人でしたよ!!」

「ははは。そうだろ?

 君が伝えてくれてたから、良かったけど、本当はもっと口悪かったんだろ?」

「そうですよ!!クソじじいの連発でした!!」

「ははは!!そりゃあいつらしいよ!」


 川田は大きな声で笑った。

 すごくすっきりした表情をしていた。


 総一郎は今までの様子を見ていて、思ったことを川田に言った。


「川田師範。

 龍君は全く心残りがなかったのにお化けになったと言っていたそうです。

 それを聞いて、僕はずっと不思議だったんです。

 じゃあ、一体彼をこの世につなぎとめているものは何なのかと。」


「どういうことかな?」


 川田は真剣な顔つきで総一郎に聞いた。


「恐らく、あなたの強い後悔が龍君をお化けにしてしまったのだと思います。」

「えっ!!他人がお化けにするなんてことあるの?」

 ハルは驚いて、総一郎に言った。


 川田は黙って聞いていた。


「もちろん確証なんてものはありません。

 しかし、もう一点不思議な点があるんです。

 彼は今日、あなたの思いを聞いてから、お化けになった理由は川田師範を開放したかったからと結論づけました。

 しかし、彼が死んだ時にはあなたがそんなに後悔するなんてことは分からないはずなんです。

 彼にとって、あなたは尊敬する強い人だったはずですから。

 だから、彼自身はあなたの教えを守ることができて、本当に心残りが無かったんだと思います。」


 ハルは確かにと思って、総一郎の話を聞いていた。


「じゃあ、彼がお化けになった理由は何なのか。

 それは突然亡くなってしまった龍君への思いと、自分の教えのせいで死んでしまったという後悔。

 あなたのその強すぎる後悔が龍君をこの道場に縛ってしまったと私は思っています。」


 総一郎の話を聞いて、川田は自虐的な笑いをして、言った。


「確かに、そうかもしれないな…

 いや、きっとそうだろう…

 私はまったく本当に愚かだな…」


 ハルはその様子をみて、川田に言った。


「ダメですよ!!川田師範!!

 そうやって、また自分を責めてたら、龍に怒られますよ!!」


 総一郎も笑って、川田に言った。


「そうです。

 私が言いたかったのは、これからはあまり自分に厳しすぎず、もっと自分自身の教えを信じて進んでくださいということです。

 じゃないと龍君が浮かばれませんから。

 偉そうなことを言って申し訳ありませんが。」


 二人の言葉を聞いて、川田は笑って答えた。


「いやいや。二人とも、今日は本当にありがとう。

 この歳になっても、私はまだまだ未熟なようだ。

 私も龍に追いつけるよう鍛錬を続けることにするよ。

 これからもよろしくお願いします。」


 川田はそう言って、ハルと総一郎に頭を下げた。


 それを見て、ハルと総一郎は顔を見合わせて、川田に答えた。


「押忍!!」


 続く


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